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1曲だけじゃ済まへんぞ

――さて、今回のシングルを作るにあたっては、どんな作品にしたいと考えたんでしょうか?

「僕たちはいろいろなメッセージを込めた曲をいっぱい書いているんです。それを言葉にすると、〈映画みたい〉ということになるんですけど、アクション映画もあれば、ラヴ・ストーリーもある。そのなかで、今回は3曲でもいろいろな幅を見せたいと思いました。その3曲をまず知ってもらったうえで、もっといろいろな景色を見たいと思わせるような1枚にしたかったんです。表題曲のシリアスさや強さもあれば、2曲目の“世界について”の壮大さやポップさ、3曲目の“Showtime!!!!!”のちょっと悪そうな激しい曲もあるというふうに、いろいろな面を見せて、興味を持ってもらいたかったんです。僕らは1曲だけじゃ済まへんぞと」

kazu「カップリングって考え方ではなかったもんね。全曲シングルでもいいんじゃないか、ぐらいの気持ちで詰め込みました」

――そうか。ほかにどんな曲があるんだろう、もっといろいろな曲を聴いてみたいと思った僕は、まんまとその目論見にはまってしまったわけですね(笑)。

「ハハハ(笑)。ありがとうございます」

ソラ「ほかにもいろいろな曲があるんですよ」

「今回の3曲を作った時はこれが最強の3曲だったんですけど、その後さらに幅のある曲が出来上がってるんです」

――表題曲は現在、放送中のTVアニメ「D.Gray-man HALLOW」のオープニング・テーマ曲ですが、曲作りのうえでは、アニメの世界観に寄せているんですか?

「『D.Gray-man HALLOW』はダーク・ファンタジーとして超有名な作品なので、バンド・サウンドに関してはシリアスさや儚さ、その儚さとは裏腹の強さみたいなものは意識しました。歌詞については、僕らがデビューするのにあたって〈なぜこの道を選んだのか〉という気持ちを、自分や聴いてくれる人に対して書いたんですけど、アニメの主人公の心情と重なるところもあると思います」

――シンセの音を加えた、ほかの2曲よりもドラマティックなアレンジを考えると、表題曲は新たなチャレンジでもあったのでは?

「演奏陣はいろいろなフレーズに挑戦していたと思います。大変そうでした(笑)」

「D.Gray-man HALLOW」のトレイラ―映像
 

――なかでもドラムスのKANDAIさんは一番大変だったんじゃないですか?

KANDAI「そうですね。ここまで音数を増やして埋めていくというのは初めてでしたから、最初から最後まで連打の嵐で(笑)。デモを聴きながら自分でパソコンに打ち込んでいる時は、頭の中ではできるだろうと思っているんですが、実際にやってみたらできなくて(苦笑)。その後、とにかく練習を重ねて、レコーディングの時にはもちろん叩けるようになっていたんです。でも練習中はできなくて悔しくて、一人で泣きました(笑)」

ソラ「僕はメジャー・デビューということを意識して、このシングルで〈ギタリスト・ソラ〉のイメージが決まってしまうなら、目立てるところは思いっきり目立てるギターを弾きたいと思ったんですけど、航の歌に被らないようにどれだけフレーズを入れられるか、かなり考えました。ソロも不満が残らないようなソロを作りたいと思って、20パターン以上フレーズを考えて、その中からベスト3を聴かせて、(みんなに)決めてもらいました」

――kazuさんのベースは逆にシンプルなプレイで演奏を支える役目に徹していますね?

kazu「ベースまで動き回るとごちゃっとしてしまって、一番聴いてほしいところが聴きづらくなってしまうと思ったので、メロが立っている曲はどしっと下で構えて、疾走感を出すようにしているんです。今回もいろいろと試したうえで、歌が聴きやすい、全体の乗りが出やすいということを優先してシンプルなプレイになりました。ただ、シンプルなフレーズではあるんですけど、ノリを出すのには苦労しましたね。最初は指弾きで一音一音丁寧に弾いていたんですけど、おとなしすぎるし、丁寧に弾きすぎているというところで、(サウンド・プロデュース&アレンジの)akkinさんと意見が一致して、〈もっとアグレッシヴに、デビュー・シングルなんだから自分たちの気持ちを込めたほうがいいんじゃないか〉ということで、ピック弾き、オールダウンで男らしく弾き切って、右手がパンパンになる……という辛い想いをしました(笑)。その甲斐あって、フレーズはシンプルですけど、勢いは出せたと思います」

――今回、ONE OK ROCKなどで知られるakkinさんを起用した理由は?

「デビュー前からakkinさん含め、何人かの方と作っていたなかで、単純に僕がakkinさのが作ったものが好きだったんです。だから今回、〈誰と組みたい?〉と訊かれた時、akkinさんと即答しました。フレーズ作りのセンス、どんな曲にでも対応できるアイデアの閃き、音に関する知識……全部を持っていらっしゃるんですよ。しかも、おもしろいし(笑)。レコーディングの空気もakkinさんを中心にいいものになっていくんです」

ソラ「僕らだけでアレンジすると、200~300人ぐらいのライヴハウスでやっているような風景しか見えてこないんですけど、akkinさんがアレンジすると、〈これ、武道館でやれるよね〉と、デカイところでやっているイメージになる。そういうスケール感のあるアレンジにできたのが、akkinさんとやって一番変わったところですね」

ONE OK ROCKの2010年作『Nicheシンドローム』収録曲、akkinが編曲を手掛けた“完全感覚Dreamer”
 

――2曲目の“世界について”はまさにそんな曲ですね。

「壮大さを求めつつ、ふわふわと浮いているようなポップな曲にしたかったんです」

――爽やかさと切なさが入り混じるところがいいですね。この曲のリード・ギターや歌の裏で鳴っているフレーズもまさに〈歌っている〉という印象です。

ソラ「デモを聴いた時に“Key -bring it on, my Destiny-”とは真逆の曲だと思ったので、重心はとにかく上に上にと考えて、リード・ギターのフレーズは考えました」

――そういう曲がある一方で、3曲目の“Showtime!!!!!”では全然違う一面を見せつけられて、びっくりしました。こんなリフで攻めるような曲もレパートリーとして持っているんですね。

「こういうジャンルも結構あって。これはラルクと同じぐらい大好きだったミッシェル・ガン・エレファントを聴いていた頃のやんちゃな感じを前面に出したかったんです。だから自然と一番速いテンポになりましたね。コール&レスポンスもあるので、ライヴでもきっと盛り上がると思います」

――この曲の終盤のブリッジは、ちょっとミクスチャー・ロックっぽくなるところがあって、リズムがハネる演奏は、リズム隊としていいプレイができたという手応えもあるのでは?

kazu「そうですね、でもなかなか大変でした。あそこでテンポが変わるという、リズム隊にしたら何とも心憎い構成になっているんですよ(笑)」

ソラ「レコーディング前に柔軟体操してたもんね(笑)」

KANDAI「俺は髪をオールバックにしました(笑)」

kazu「うん。気合いを入れないとあれはできなかった」

――そうか。曲が多彩なぶん、どの曲も演奏陣はそれなりに大変なわけですね。

「そうだと思います。でも、俺は俺で遠慮しないで、書きたい曲を書くので。だから、がんばってくださいって(笑)」

ソラ「いや、むしろ嬉しいぐらいですよ。自分のパートをちゃんと聴かせられるという意味で、難しいことに挑戦するのはモチヴェーションになりますからね」

kazu「ロック調の曲に合わなかったフレーズも、こっちの曲だったら当てはまるんじゃないかと、いろいろ試せるんですよ。毎回方向性をガラッと変えた曲を持ってきてくれるから、おもしろいんです」

――航さんは今回、ヴォーカリストとして、どんなことを意識したんですか?

「3曲とも雰囲気が全然違うので、その曲に合わせた感情を作ることにこだわりました。歌い方で変化を付けるのではなく、もう気持ちから変えていかないと良いものにはならないと思ったんですよ。例えば“Key -bring it on, my Destiny-”は、レコーディング・ブースを真っ暗にして、アニメの世界観と自分の覚悟を意識しながら、一人きりの空間を演出して歌い込みました。“世界について”はたまたまだったんですけど、すごく広い部屋で歌録りができることになって、その広さを感じながら歌えたので、ぴったりでしたね。“Showtime!!!!!”は、明日、喉がどうなってもいいからって気持ちで、次の日のことを考えずにがっつり歌いました」

kazu「次の日、喉の調子がちょっと悪かったもんね(笑)」

「そんなふうに3曲ともそれぞれに違うレコーディングができたんですよ」

――11月13日には原宿アストロホールでワンマン・ライヴを行うことが決定しています。

「Lenny code fictionとしては初めてのワンマン・ライヴなんです」

kazu「だから俺たちがどんなバンドなのか、そしてこれから始まるんだ、ということを示すライヴになると思うんです」

「僕らの曲を知っているお客さんしかいないライヴというのがまず新鮮なので、お客さんと一緒に楽しむことを前提に、幅広い曲の空気感を、僕らにしかできないやり方で出したいですね。楽しいだけじゃなくて、感動できるところも作ったり、それこそ映画を観ているようにストーリーを感じてもらいたい。そういうライヴをするために、いま作戦を練っているところなんです。ひょっとしたら、僕たちが一番楽しみにしているのかもしれないですね(笑)」

ソラ「もちろん、大切なライヴではあるんですけど、メジャー・デビューも含め、通過点でしかないと思っていて、僕らはもっともっと上をめざしていかなきゃいけない。そのためには、通過点の一つ一つを大事にしなきゃいけない。そういう意味で、精一杯がんばります」

KANDAI「うん。ライヴの熱さをちゃんと観にきてくれた人に伝えて、芯はライヴ・バンドなんだぞってことを見せたいですね」