ずっと続いているから変化もあるし、常にエキサイティングなことはある
――ここ数作はおおよそ5年周期でリリースされていますが、アルバム作りが始まる時は、誰から、どんなふうに連絡するのでしょう? TFCの“The Concept”が使われていたカナダ映画「ヤング≒アダルト」(2011年)ではないですが、昔の恋人から突然メールが届くような感じなのでしょうか?
「ハハハ。あの映画は観ていない。自分の曲を何度も聴きすぎていたからね(笑)。僕にとって、自分の声が耳に入ってくるのは拷問みたいでさ(笑)。いつか観てみようとは思う。それで、(アルバム制作に関しては)いつも何かがきっかけで集まるんだ。誰かのアイデアが曲を作るのに十分貯まった時とか、そういう時に声がかかる。で、誰かが準備できていない時はそのメンバーが準備できるまで待つし、すべてのタイミングがベストな時にみんなで会うんだ。すごくシンプルだろう? 僕たちは、あまり急いでレコードを作りたくないんだよね。自分たちが納得のいくマテリアルが揃って初めてそれをレコードにしたいし、妥協して出来の悪いレコードを作って解散に繋がってしまうよりは、長く活動できるよう時間をかけて良い物を作りたい。長く活動を続けるには、それが大切だと思う。自分たちが楽しみながらレコードを作ることが重要なんだ。他の人が気に入ってくれるかは、その次なんだよ」
――本作はドイツでミキシングされたそうですし、あなたは“I Was Beautiful When I Was Alive”を〈クラウト・フォーク・ロック〉と称していますが、カンやノイ!といったドイツのロック・バンドへの思い入れもあったのでしょうか?
「あれはレイモンドが書いた曲の一つで、ちょっと違う雰囲気を持ったあの曲をみんな気に入ったんだ。シンプルで繰り返しが多い部分は確かにノイ!っぽい。僕たちはそういったバンドの音楽も好きだし、ノイ!はもっとインスト寄りだけど、もちろんこの曲のインスピレーションにはなっているね。ドイツって本当に素晴らしい音楽が多いと思う。影響力があるし、革新的だし、シンプルなリズムと反復が繰り返されるなかでゆっくりと進化していくというのは、カンの魅力でもあると思うよ」
――では、前作以降に発見、あるいは再発見した音楽があれば教えてください。
「僕って記憶力がないから、こういう質問は苦手なんだ(笑)。でも、新しいカナダのバンドを発見したんだよ。ナップ・アイズっていうバンドで、彼らの音楽は大好き。それと、ディストリビューターから薦められて聴きはじめたアフリカン・ファンクも最近よく聴いている。あと、数年前に一緒にコラボした日本のテニスコーツも好きだね。彼らとパステルズのアルバムにも参加したけど、あの作品のアイデアもすごく良かったと思う」
――97年の『Songs From Northern Britain』からは毎回3人のソングライターが4曲ずつ楽曲提供していて、ここ3作に至っては曲順も同じ人の曲が続かないようになっています。これは暗黙のルールなのでしょうか? それとも結果的にそうなっているだけなのでしょうか?
「確かに、言われてみるとそうだね。もしかしたらライヴでもそうなっているかも。そっちのほうが違いが出ておもしろいから、自然にそうなっているんだと思う。話し合ったことはないね。そっちのほうがダイナミックなものができるからじゃないかな」
――例えば初期の頃のように、誰か一人がたくさん良い曲を書いたので多く採用されるとか、あるいは5曲ずつ書いて15曲になるとか、そういうことは起こらないのでしょうか?
「できるだけ全員に同じくらい参加してほしいから、誰か一人の曲がたくさん採用されることはあまりないと思う。一つの作品にいくつかの質感が存在していたほうがおもしろいと思うしね。それに、曲の数も増えないと思う。自分たちが繋がりを感じる曲をたくさん書くことは簡単じゃない。さっきも言ったように、曲の質、アルバムの質を大切にしたいんだ。それを止めてしまったら、もうTFCであることの意味がなくなってしまうからね」
――ソングライティング・クレジットを見る前に本作を聴いて、“Thin Air”や“It's A Sign”はなんとなくジェラルドの曲かなと思ったのですが、一方で誰が書いたのかわからない曲もいくつかありました。昔のほうがわかりやすかったと言っているファンの方もいたのですが、メンバー3人のソングライティングの違い、または似ている部分についてはどう思いますか?
「これは難しい質問だな。そんなふうに考えたことはないから違いはわからないけれど、似ている部分なら答えられるかも。僕たち全員、自分の経験について歌っているから、メンバー全員が曲に共感することができるんだ。誰もストーリー性を持った曲は書かない。あと、そんなにエクスペリメンタルすぎることはやらないという部分もそう。それをやりたければ、他のプロジェクトでやればいいからね。そこがソングライターとしての共通点だと思う」
――ジェラルド、レイモンド、そしてあなた自身が今回の新作のために書いた楽曲について、それぞれどう評価していますか?
「2人とも素晴らしいソングライターだと思うし、僕たちはお互いを心から信用しているんだ。自分以外の人間のアイデアを聴く時は、すごくエキサイティングだしね。ジェラルドの曲は、アレンジメントがすごく濃いと思う。オーヴァー・ダブが多いし、ギター・パートに特徴があるね。一方で、レイモンドの曲はすごくシンプル。レイモンドの曲では、たぶんオーヴァー・ダブは一切やらなかった。僕はその中間だな(笑)」
――クレジットを見ると、あなたの書いた曲だけホーンやストリングスといった外部ミュージシャンの参加が多い気がするのですが、あなた自身が管弦楽器を採り入れたアレンジに興味があるのでしょうか?
「そうだね。好きでもあるし、友達に演奏できる人たちがいるのも理由の一つ。自分では演奏できないから、彼らに頼むんだ。オーケストラっぽいポップ・ミュージックは常に好きで聴いているから、そういうサウンドに親しみがあるんだよ。アコースティック・ギターで作っても、それより大きなイメージを表現したい時もある。そういう時は他のミュージシャンを使うし、それによってバンドのサウンドも広がると思うんだよね。自分でもチェロを演奏できたらいいんだけど(笑)」
――偶然かもしれませんが、本作には家族や親しい人への愛を歌った曲が多い気がしました。それについてはいかがでしょう?
「さっき話したように、僕たちは、自分たちの経験に基づいた曲しか書かない。他の誰かの経験からインスピレーションを受けることはないんだ。その経験というのが愛の時もあれば苦難の時もあるし、いろいろだね」
――あなたは昨年の〈ポラリス・ミュージック・プライズ※〉に、オールウェイズのプレゼンターとして出演していましたよね。彼らが〈ニュー・スコットランド〉を意味するカナダのノヴァ・スコシア出身であることにも不思議な縁を感じます。
※イギリスの〈マーキュリー・プライズ〉に相当する、カナダの国民的音楽賞
「カナダに越して来てから彼らと友達になったんだけど、本当に良いバンドだと思う。プレゼンターのオファーが来た時は、快く引き受けたよ。すごく新鮮で、最高のポップ・バンドだと思う。ヴォーカルの声もすごく良いし、曲にも勢いがあるし、とにかく曲がいいんだ」
――オールウェイズのような若い世代がTFCの音楽を新たに発見したように、あなた自身もここにきて、改めてTFCの音楽について再発見したことはありますか?
「ずっと続いているから変化もあるし、常にエキサイティングなことはある。レコードを作るうえで、それだけは失わないようにしているんだ。バンドそのものとして再発見があるというよりは、パステルズやテニスコーツもそうだけど、そういった新しく出会うバンドやアーティストから学ぶことで、バンドも自然と進化しているんだと思う。彼らから常に新しいことを学ぶし、それをTFCに反映させているんだ。人間としても、ミュージシャンとしても、成長は止まらないと思うね」
――あなた自身は毎年のように何らかの名義で作品をリリースしていますが、今後もソロ活動の予定はありますか?
「TFCのアルバムが完成したから、次はソロの作品も作りたいと思っているんだ。あと、僕とユーロス・チャイルズがやっているジョニーというバンド※で、またレコードを作ろうっていう話が出ているんだよ。ソロ作品は、作り始めるならたぶん来年からからな」
※2011年に初作『Jonny』をリリース、来日公演も実現している
――TFCとしても、また来日してくれますよね?
「それは絶対に保証するよ! できれば今年中に行きたいけど、来年初めになる可能性が高い。まずはマネージメントと話さないと。日本は大好きだから、絶対に行きたいんだよね」
Hostess Club & Creativeman Presents Teenage Fanclub
2017年3月3日(金) 神奈川・横浜BAY HALL
2017年3月4日(土) 東京EX THEATER ROPPONGI
2017年3月5日(日) 大阪・梅田CLUB QUATTRO
★公演詳細はこちら