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ジャンルやグラミーのことを考えず、自由な作品にしたかった

――“Let’s Fall In Love”ではマット・ヴォージマーが作曲にクレジットされています。この曲を収録するようになった経緯を教えてください。

イーカッショニスト(eCUSSIONIST)、イーカッシュ(eKUSH)などの名義でも活動するジャズ・ドラマー/プロデューサー。NYの地下鉄の通路で繰り広げているパフォーマンスは日本でも話題に(詳しくはHEAPS Magazineの記事を参照)

「あの曲は友人のアリーヤ・ニアンビが作詞をして、マットが曲を書いてくれたんだ。彼女が〈アルバムを作っているのなら、いい曲があるんだけど〉と言ってくれてね。もともとはマットが作曲したんだけど、そこに俺がブリッジの部分を付け加えて、曲がもっと自由になるようにしたんだ」

※フィラデルフィア出身のシンガー・ソングライター。マット・ヴォージマーとよくコラボしている

アリーヤ・ニアンビをフィーチャーしたイーカッショニストの2016年の楽曲“Roll Up”
 

――カヴァーが2曲収録されていますが、まずは“Tell Me A Bedtime Story”について教えてください。原曲はハービー・ハンコックで、クインシー・ジョーンズのヴァージョンなどもありますけど、参考にしたヴァージョンはありますか。

「俺はハービーのオリジナルが最高だと思っている。どのヴァージョンを参考にしたかといえば、俺にとってはハービーだね。でも実は、調べたら思ったほどカヴァーされている曲ではなかったんだ。意外なことにね」

ハービー・ハンコックの69年作『Fat Albert Rotunda』収録曲“Tell Me A Bedtime Story”
クインシー・ジョーンズの78年作『Sounds...And Stuff Like That!!』に収録された“Tell Me A Bedtime Story”のカヴァー
 

――ハービーのオリジナルには歌が入ってなくて、歌が入っているのはフィリップ・ベイリーノーマン・コナーズ笠井紀美子のヴァージョンなんですよね。

「歌詞は俺じゃなくて、ケイシーがどこからか引っ張り出してくれたものだったから、彼に訊いてくれよ」

――その“Tell Me A Bedtime Story”はそういうふうにカヴァーしようと心掛けましたか?

「この曲を入れようと思ったのは単に演奏したかったからだけど、手を加えてアレンジし直したり、違う形に作り直したり、いろいろ考えてやったり、そういうことは一切したくなかったんだ。原曲が素晴らしくて、それをやりたいだけだったから、とにかく何も変えないで演奏しようと思ったんだ。だからこそ、インストも原曲に忠実にやっているんだよ」

――もう一つのカヴァー曲である、ヒューマン・リーグ“Human”は意外な選曲でした。

「この曲も大好きなんだ。史上最高の黒人プロデューサーである、ジャム&ルイスが手掛けた曲だよ。この曲をカヴァーすることはごくごく自然なことというか、妙にしっくりきたんだ。それでカヴァーするにあたって、これは“Tell Me A Bedtime Story”とは違っていろいろ変えようと思った。オリジナルにメロディー・パートを加えて、それを最後のほうでもう一度繰り返している。これは自分たちのアイデンティティーをそこに出したかったから」

ヒューマン・リーグの86年作『Crash』収録曲“Human”
 

――“Human”は80年代の楽曲ですが、今回のアルバムは全体的にリッチなシンセサイザーやヴォコーダーの音色が印象的で、それこそ80年代のポップスやディスコ、フュージョンなどの影響を感じます。このアルバムを作っているときに思い浮かんだ80年代の作品はありますか?

「特にそういうアルバムはなかったかな。ただ、俺の一番好きなアルバムってマイケル・ジャクソンの『Off The Wall』なんだ。正確に言うと79年に発表されたアルバムだから、80年代に向かうアルバムと言ったほうが正確かもしれない。『Off The Wall』は昔からずっと聴いているけど、俺がこれまでに出したどのアルバムも間違いなく影響されていると思う。常にこのアルバムが念頭にあるんだろうね」

マイケル・ジャクソンの79年作『Off The Wall』収録曲“Don't Stop 'Til You Get Enough”
 

――なるほど、クインシー・ジョーンズがプロデュースした『Off The Wall』のテイストというのは納得できますね。そういえば、RGEはライヴでダフト・パンクの“Get Lucky”をたびたびカヴァーしていましたよね。ダフト・パンクの『Random Access Memories』(2013年) のように、80年代サウンドを現代に甦らせている現代の作品からインスパイアされた部分もありますか?

「作品というよりも、俺はファレル・ウィリアムズからインスパイアされているんだ。彼は音楽が何かというものを本質的に理解しているし、音楽に対する知識は尋常じゃない。幅広く音楽を理解していて、ミュージシャンシップも持ち合わせている。ファレルのことはとても尊敬しているし、彼が音楽業界のなかで本当に大きな勢力になっているのはすごく意味があることだと思うね」

“Get Lucky”のカヴァー映像
 

――これまでの作品に比べて、今作は低音がずいぶん太くなって、全体的に厚みが出た気がします。録音やミックスに関して、これまでと変わったことはありますか?

「低音が太くなったというのは、キーボードとギターを入れたからだと思うよ。この2つがいろんな色彩を楽曲に加えたことで、そういう厚みのある音になったのだと思う。俺自身も、これまでのアルバムではピアノとローズしか演奏してこなかったけど、今回は初めてキーボードを入れたからね」

――以前、あなたが「あと少しソロが長かったら、『Black Radio』はグラミー賞を取れなかっただろう」と語っていたじゃないですか。

「『Black Radio』は意図的にソロを短くしたんだよね。いろいろな人に〈なんでソロがあんなに短いんだ?〉って言われたりもしたけれど、そこは俺が頭を使っているところ。そこが〈Science〉というか、ビジネス・パートだね。あのアルバムはR&Bを念頭に置いたアルバムだから、そこでソロはなるべくナシで行くべきだと考えたんだ。ケイシーのソロは一つくらいしかなかったんじゃなかったっけ(笑)?」 

――『Black Radio 2』はどうですか?

「グラミーを意識して作品作りしていたところもあったけれど、実は『Black Radio』がグラミーを受賞するとは思わなかったんだよね。それがまさか本当にグラミーを獲ってしまった。アルバムとしては(グラミーの)R&B部門だったから、同じシリーズの『Black Radio 2』でいきなりジャズの要素を増やすっていうのはおかしいよね。そこは俺だってわかっている。だから『Black Radio 2』もR&Bの路線になったわけ」

――で、今作は例えば“No One Like You”などに見られるように、全体的にジャズ的な即興演奏の部分がかなり増えていますよね。今回はあえてソロを増やしたんですか?

「そうだね。今回はもっと自由に、ジャンルなんかも考えないで作品を作りたかったんだよ。〈とにかくやりたいことをやろう〉〈もっと俺たち自身をフィーチャーしていこう〉〈グラミーのことなんかもまったく考えないで作ろう〉って感じでね」

 


ロバート・グラスパー・トリオ来日公演
日時/会場:
2016年12月18日(日)~22日(木) ブルーノート東京
開場/開演:
〈12月18日(日)〉
・1stショウ:16:00/17:00
・2ndショウ:19:00/20:00
〈12月19日(月)~22日(木)〉
・1stショウ:17:30/18:30
・2ndショウ:20:20/21:00
料金:自由席/8,500円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
★公演詳細はこちら

2015年作『Covered』収録曲“I Don't Even Care”のライヴ映像