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ビートルズの〈Anthology〉を聴くと、〈あの途中の感じなら作れそう!〉と思える

★“Cecilia”

――これはNRBQのカヴァーですけど、もともとのNRBQヴァージョンもカヴァーなんですよ。なので孫カヴァー?という感じですが、ELEKIBASSはいつ頃からやっているんですか?

「もう10年近いですね。NRBQを好きになって何曲かカヴァーしたいなと思ったときに、この曲がすごくシンプルでやりやすかったので、自分たちの定番レパートリーとしてやっています」

――曲自体は1940年代から演奏されているポピュラー・ソングなんですけど、NRBQのカヴァーはゲイリー・USボンズというNY出身で混血のロックンローラーによるヴァージョンなんですよ。

ゲイリー・U.S.ボンズの61年作『Dance 'Til Quarter To Three With U. S. Bonds』収録曲“Cecilia”
 

「シャッフルの感じも好きな曲なので、今回ちゃんとレコーディングできて本当に良かったです」

 

★“自警団(Preservation Society)”

――もうタイトルからしてコレしかないですね。

キンクスの68年作『Village Green Preservation Society』収録曲“Village Green Preservation Society”
 

「高校生の頃の僕は、キンクスを“You Really Got Me”などの大ヒット曲を持つイギリスのミスチルみたいな人たちだと思っていたんですよ。それが知れば知るほど、ルーツをいっぱい持っている魅力的なバンドだとわかった。アルバムごとに本当に物語があるし、ハマりましたね。キンクスのレイ・デイヴィスは時代に流されて色が変わる浮気性みたいな面があり、たぶん性格の悪さから周りを振り回した感じもある。伝記とかを読むと〈この人とは関わりたくねえな〉と思うんですけど、そこが人間っぽくておもしろいんですよ」

 

★“Behind Her Parasol”

――“se2”を経て12曲目は“Behind Her Parasol”。これはたぶん不正解なんですけど、なんとなく思い出したのでこの曲を選びました。

ベン・リーの95年作『Grandpaw Would』収録曲“Away With The Pixies”
 

「懐かしい! でもいまの自分のなかには全然ない曲でした。でも、僕の曲にもベン・リーに通じるヘナチョコさやアコースティックなサウンドのおもしろさはある気がするので、この曲を出してきたのはとてもよくわかります。ちなみにこれも元はNRBQで、“Boys In The City”という曲(笑)。彼らがこういうアコースティックなギターの曲をアルバムに入れているのを聴いて、僕もこういうのをやりたいなと思ったんです」

 

★“Weekday”

――この曲もNRBQのあるレパートリーを感じたんですけど、そのヴァージョンがYouTubeにはないので、別の人によるカヴァーをピックアップしました。

アレサ・フランクリンの62年作『The Electrifying Aretha Franklin』収録曲“Ac-cent-tchu-ate The Positive” 
 

「(イントロを聴いた瞬間で)あ、これです(笑)」

――あと、もうひとつの要素としては、やっぱりジェリーフィッシュですね。

ジェリーフィッシュの93年作『Spilt Milk』収録曲“Sebrina, Paste, And Plato”
 

「ジェリーフィッシュは避けて通れないですね(笑)。コーラスを足していったら、それっぽくなっちゃう」

――NRBQ版の“Ac-cent-tchu-ate The Positive”とジェリーフィッシュの“Sebrina, Paste, And Plato”を合わせると“Weekday”になるのかなと。

「まったくその通りです(笑)!」

★“Where are you in your tomorrow party”

――ビートルズの“Tomorrow Never Knows”っぽいですけど、『Revolver』(66年)に収録された完成版より『The Beatles Anthology 2』(96年)に入っているデモ・ヴァージョンに近い印象です

ビートルズの96年の編集盤『The Beatles' Anthology 2』収録曲” Tomorrow Never Knows (Take 1) “
 

「そうなんですよね。〈Anthology〉のシリーズとかでテイク違いを聴くと、いろいろな発見がありますよね。彼らもちゃんと隙があるんだなって。完成版には太刀打ちできないけど、あの途中の感じなら作れそう!と思うんです(笑)」

 

“Who do you love”

――ギルバート・オサリヴァンかなと思いつつ、ちょっと変化球してみました。

ハリケーン・スミスの73年作『Razzmahtazz Shall Inherit The Earth』収録曲“Beautiful Day Beautiful Night”
 

「この曲も題名だけはNRBQの“Daddy-Oから取ったんです。自分なりの“Cecilia”が欲しいと思って、ちょっとジャズ・マナーで書いた曲ですね。振りの大きなシャッフル・ビートが好きなんです」

――ハリケーン・スミスという人は、もともとビートルズのエンジニアやピンク・フロイドのプロデューサーだった人なんですけど、自分でも歌いたい歌があり、それを50歳過ぎてやってみたら、こんなにも泣かせる感じだったというシンガー・ソングライターです。

「この曲、すごく“Who Do You Love”ですね。見事に捉えています」

 

★“Waikiki Rhythm”

――そして最後の“Waikiki Rhythm”。いったん終わったと思わせてなかなか終わらないというネタは、もう完全にジョナサン・リッチマンの“Ice Cream Man”です(笑)。

ジョナサン・リッチマン&モダン・ラヴァーズの77年作『Rock 'N' Roll With The Modern Lovers』収録曲“Ice Cream Man”のライヴ音源
 

「2002年くらいにはもう出来ていた曲で、もともとのネタはヒズ・ネーム・イズ・アライヴというバンドの“Your Word Against Mine”なんです。フォーキーな感じではまったくないバンドなんですけど、たまたまこういう曲が1曲だけアルバムに入っていて、それがすごく良いなと思った。スタジオでやっているうちに〈ジョナサン・リッチマンっぽいし“Ice Cream Man”みたいにやらない?〉〈それおもしろい!〉という感じで、いまみたいなアレンジになりました。そういえば今年〈アセンズ・ポップ・フェスティヴァル〉に出たときはヒズ・ネーム・イズ・アライヴと対バンだったんですよ」

ヒズ・ネーム・イズ・アライヴの96年作『Universal Frequencies』収録曲“Your Word Against Mine”

 

――ELEKIBASSもそのうちジョナサン・リッチマンやNRBQとアメリカのフェスなんかで対バンしそうですけどね。

「〈アセンズ・ポップ・フェス〉では、僕らが出た次の年にジョナサンが出てたりするんです。ぜひ一緒にやりたいですね」

――Waikiki Recordの設立とこの曲はどっちが早いんですか?

「レーベル自体は2000年くらいからあるんです。最初のリリースはスワームス・ワームというバンドと僕らとのスプリット・7インチでした。でも、そのときはまだ吉田屋レコードという名前で。そのあと田所せいじというシンガー・ソングライターの『album』(2001年)をリリースするときに、正式にWaikiki Recordと名乗りました」

――Waikikiという言葉の由来は?

「単純にフィッシュマンズが好で、彼らがワイキキ・ビーチ・スタジオというプライヴェート・スタジオを持っていたので、そこからいただきました。僕らは、ほとんどすべてがオマージュで出来ているバンドなんです(笑)」

――でも、最近、リスナー体質の人がやっているバンドや作品が減っていますからね。そういう意味でも、音楽を聴いてオマージュを捧げ続けるにも持続力が問われるし、ELEKIBASSみたいなバンドが日米を移動しながらマイペースで活動しているという事実から未来に繋がっていく縁がある気はします。

「そうですね。今回、こういう機会を作っていただけたのは嬉しいです。僕らは何の力もないんですけど、ELEKIBASSをきっかけに1つ2つでもこういう音楽が誰かに伝わればおもしろいなと思っています。とりあえずこの取材のあと、僕はムーンドッグとハリケーン・スミスのレコードを探しますよ」


ELEKIBASS Release Party 「Theme of Melancholic Matilda from Tokyo」
日時/会場:2017年1月22日(日) 東京・渋谷7th FLOOR
開場/開演:17:30/18:00 
料金:前売り/2,800円、当日/3,300円(いずれもドリンク代別)
共演:ジャパニーズCLUB竹上久美子band set/Ribet towns
 DJ: KOUHEI’king’NOZAKI(JUKEBOX)
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