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2016年のソウル復刻&発掘タイトル、私的ベスト10はこれだ!  選・文/出嶌孝次

SYREETA The Rita Wright Years: Rare Motown 1967-1970 Kent(2016)

本国の発掘ラッシュは止まってしまった感もあるけど、英ケントモータウンの倉庫に定期的に潜入している模様。なかでも、スティーヴィー・ワンダーとの公私に渡る関係で知られたシリータの未発表曲をどっさり発掘した本作は、彼女の生誕70周年を祝う好ましい佳曲集だった。リタ・ライト名義で68年に出した唯一のシングルから“I Can't Give Back The Love I Feel For You”と“Something On My Mind”を収め、それ以外は実に18曲もの初出を含む蔵出し音源で、長い不遇がモーウェスト時代にまで及んでいたこともわかる。シュープリームス“Love Child”のシリータ版も貴重。

 

VARIOUS ARTISTS One Track Mind! More Motown Guys Kent(2016)

こちらもケント編纂のモータウン発掘もの。かつての『A Cellarful Of Motown!』シリーズのようなノリで〈Girls〉〈Guys〉の男女別で編まれてきた60年代コンピの男性版第2弾。24曲すべてが未発表だったもの(うち8曲は配信で蔵出し済み)で、ヒット製造工場が生んだ黄金の名曲群にちょい似な、いわゆる〈モータウン感〉全開のノーザン・ナンバーがズラリと並ぶ。マーヴ・ジョンソン“One Track Mind”(65年録音)をはじめ、マーヴィン・ゲイのダンス・ナンバー“Do You Wanna Go With Me”(63年録音)など、量産型の作りながら、どれもエネルギッシュで素晴らしい。

 

RASPUTIN'S STASH Hidden Stash Athens Of The North(2016)

アセンズ・オブ・ノースが別掲の『Fruit』と並んで2016年に発掘した驚きの一作。コティリオンを経てカートム傘下のジェミゴで活動したシカゴ産ファンク・バンドが、人気の『Devil Made Me Do It』(74年)以降に録音するも、盗難でテープが失われていたという幻のサード・アルバム。ブラック・ロック的な初期と比べて洗練された音は当時の試行錯誤を窺わせるが、壮大なメロウ・グルーヴの“Dark Moon”や軽めなディスコ調の“Everybody's a Masterpiece”など、いまこそ楽しみたい流麗な曲だらけ。アル・グリーンのカヴァー“Love And Happiness”など端々に覗けるタフネスもいい。

 

THE INDEPENDENTS Just As Long: The Complete Wand Recordings 1972-74 Kent(2016)

大物なのにCDのない例がソウル界隈ではわりと多いが、シカゴが生んだ男女混合の名ヴォーカル・グループで、トム・トムのアレンジによる名バラード“Leaving Me”で知られるインディペンデンツもそのひとつ。72~73年のアルバム2枚とシングル曲など、ワンド録音をコンプリートした充実のコレクションで、多くの楽曲が初CD化だ。“Just As Long As You Need Me”や“Let This Be A Lesson To You”など70年代ソウル・バラードのスタンダード揃いで、レアリティ以前にシンプルな名曲ぶりと名唱の佇まいにうっとりさせられる。トム・モウルトンのリミックスも収録。

 

BETTY DAVIS The Columbia Years 1968-1969 Light In The Attic(2016)

没後25年/生誕90年というタイミングでマイルス・デイヴィス関連トピックの相次いだ2016年、その元妻の発掘音源集も重要な関連作ではあった。恋人だったヒュー・マセケラのアレンジによるベティ・メイブリー名義のシングル“Live, Love, Learn”(68年)も含むが、マイルスとテオ・マセロのプロデュースによる69年のセッション音源は何よりの収穫だ。ハービー・ハンコックジョン・マクラフリンウェイン・ショーターらを従え、ファンキーなブラック・ロックを熱唱する女帝ぶりがかっこいい。この前後から越境志向を強めていく帝王の歩みを辿るうえでも重要なのかも。

 

THE SYLVERS Something Special Capitol/SoulMusic/Caroline(1976)

ぶっちゃけ2015年末のリイシューですが、入荷が年明けだったので勝手にランクイン。ジャクソン家やステアステップスと並ぶ兄弟姉妹ユニットの最高峰にして、天才プロデューサーのリオン・シルヴァーズ3世を輩出した重要グループ……にもかかわらずまったく復刻が進まないのがシルヴァーズだ。これは“Hot Line”の大ヒットを生んだ5作目で、ジャクソン5の飛躍にも貢献したフレディ・ペレンが制作を指揮。甘酸っぱいスロウや無難なディスコ、サイケ・ファンクなど後期J5を意識した作りが伸びやか。キッズに青年、お姉様まで多彩なヴォーカルを擁するカラフルな魅力も楽しめる。

 

JIMMY BRISCOE AND THE BEAVERS Jimmy Briscoe And The Beavers Wanderick/Solid(1977)

クラレンス・リードがこの世を去る一方、TK系列のリイシューが日本主導でいままでになく進んだ2016年。そのうち初CD化の作品で良かったのは、チンピラな犬の散歩ジャケも最高な本作。いわゆる甘茶ソウルの文脈で愛されるボルティモアの少年グループが、〈リトル〉を外して出した2作目で、冒頭の“No One Can Love You Like I Do”から時流に即したフィリー調のダンサーで壮麗に攻め、バラード“True Love(Is Worth More Than Gold)”もフィリー風。TK×フィリーでいうと、スタイリスティックス『The Lion Sleeps Tonight』も世界初CD化の逸品(こちらも動物ジャケ)だった。

 

VINCENT MONTANA JR. PRESENTS GOODY GOODY Goody Goody: Expanded Edition Atlantic/BBR(1978)

サルソウルで名を馳せた故ヴィンセント・モンタナJrのリーダー作もまだまだ復刻が進んでいないなか、数年前にCD化されたモンタナ名義の『I Love Music』に続き、グッディ・グッディ名義で唯一のアルバムもようやくリイシュー。シグマ録音の環境はそのままに、サルソウル・オーケストラ時代から要所で起用してきた愛娘デニースを“#1 Dee Jay”などでフィーチャー。アーバンで匿名的な彼女の歌声や機能性重視のサウンドは必ずしもソウル・ファン向けでない側面もありつつ、いま聴けば十分に濃厚に響いたりもする。あと、古巣の尻ジャケに対抗したような胸ジャケも重要だ。

 

BILL WITHERS Watching You Watching Me Columbia/ソニー(1985)

ボズ・スキャッグス『Silk Degrees』のリリースから数えた〈AOR誕生40周年〉の節目ということで、その文脈で楽しめるソウル~ブラコンのリイシューも盛んだった2016年。新リマスター盤で出たこれは、ビル・ウィザーズのキャリア上ではもっとも軽視されてきた最終作ながら、リラックスして響かせる都会的で素朴な歌声はここでも唯一無二。デヴィッド・フォスターラリー・カールトンネイサン・イーストらLAの敏腕たちの弁えた演奏もアダルトな時間を繊細に演出するかのよう。同企画ではサラ・ダッシュ『Close Enough』(81年)のCD化も嬉しい収穫だった。

 

MAURICE WHITE Maurice White Columbia/ソニー(1985)

EW&Fのリーダーが作った最初で最後のソロ・アルバム。常に入手が容易な作品ではあったものの、これも〈AOR誕生40周年〉の一環としてリイシューされたので紹介しておきたい。冒頭のデジタル・ファンク“Switch On Your Radio”から、テクノロジーへの挑戦やワールド・ミュージック志向、さらに当時のマイケル・ジャクソンライオネル・リッチーらへの負けん気が迸ってくる。顔ジャケも最高だ。モーリス絡みでは、ヴァレリー・カーターのリイシューや、エモーションズデニース・ウィリアムズのアンソロジーも相次いだので、この機会にいろいろチェックしていただきたい。