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ベスト盤でもあり、ただの〈記録〉でもある

――2015年にリリースされた『井手健介と母船』についても、改めてお訊きしたいです。

燿児「曲の構成の流れが美しいですよね。本当にすごい」

井手「ありがとうございます。例えばどこですか」

燿児「“青い山賊”の〈トゥルル~頭の~〉とか〈ふたりの海に~〉(“ふたりの海”)とか。丁寧に時間をかけて曲と向き合って、メロディーが上に行くのか下に行くのか考えて作ってるんだなと。巧さというよりかは井手くんの持って生まれたセンスがまず素晴らしいです。もっと新しい曲が聴きたい」

『井手健介と母船』収録曲“青い山賊”
 

井手「そうですよね。この前お客さんにも〈井手さんはもう新しい曲を作らないんですか〉と言われました」

――『井手健介と母船』は個人的にも2015年のベスト・アルバムのひとつで、もはや名盤と言えるのではないかと思っています。井手さん自身はどういう作品だと考えていますか。

井手「このアルバムは、それまでに出来ていた曲を集めたベスト盤のようなものなんですね。でも同時にただの〈記録〉でもあって。ベーシックのレコーディングのときに集まったメンバーとセッションしながら〈せーの〉で録った結果、作曲したときに描いていた感触やアレンジとは全然違ったものになった曲もいっぱいあったんです。それで自分の曲に対して、こういう解釈もあるんだということがわかって、一部はそれに任せて録ったりしました。だからどちらかというと、僕の頭の中のものを具現化したというよりも、まずはそれぞれのメンバーが曲に対して反応して、その結果見えてきたものにゆっくりと色を塗っていった、という感じです」

井手健介と母船 井手健介と母船 Pヴァイン(2015)

――〈バンド〉という意識が強いのでしょうか。メンバーと切磋琢磨して作ったイメージ?

井手「切磋琢磨とか議論を交わすというよりは、出会った人たちとパッとやったというのが大きいです。それでもメロディーが立ったアルバムにはなっていて、その意味では僕のアルバムだと実感しているんですが」

――井手さんはもともと、どういった音楽を聴いてこられたのでしょう。

井手「歌謡曲とか、薬師丸ひろ子松田聖子といった70~80年代のアイドルでしょうか。あと筒美京平さんや浜口庫之助さんという作曲家が好きですね。よく〈歌謡曲っぽいね〉と言われるんですけど、確かに根っこがそうなんです。一方でニール・ヤングやヴェルヴェット・アンダーグラウンドが好きで、大学くらいでアシッド・フォークやサイケが好きになって、いまに至ります。ゑでぃまぁこん羅針盤山本精一さん……。それから坂本(慎太郎)さんと石原(洋)さんが一緒に作ってきた音楽への憧れはすごくありますね」

――ちなみにここ最近ではお2人ともどういったものを聴いていますか。

燿児「僕は戦前の古い音源を収録したCDを漁るのが好きなんですが、最近はデルロイ・ウィルソンというロックステディの人を聴いていました」

井手「僕は友達にカールトン&ザ・シューズを教えてもらって、よく聴いてますね。あとは昨年に出た新譜だと、ヴァニシング・ツイン『Choose Your Own Adventure』が最高でしたね。クラウトロックの影響を受けているすごくポップなサイケ・バンドで、自分の好きなステレオラブにも似ている。それとチャイルディッシュ・ガンビーノの『Awaken, My Love!』。燿児くんこれ好きなんじゃないかな? Pファンクとかプリンスっぽいテイストの人で、コメディアンでもあるらしいですね。ジャケも便座に顔がハマってるみたいでヤバイ!」

デルロイ・ウィルソンの76年作『Sarge』収録曲“Rain From Skies”
 
ヴァニシング・ツインの2016年作『Choose Your Own Adventure』収録曲“Choose Your Own Adventure”

 

どこにもない自分の表現を追求している

――お2人の近々のご予定についても訊かせてください。

井手「はい。いま、モーラムやルークトゥンといったタイの音楽を聴きまくっているんですが、そんな曲を作っています。また、4月22日(土)に公開となる瀬田なつき監督の映画『PARKS』にはサントラと出演で参加しました。以前勤めていたバウスシアター時代から交流があり大好きな監督さんなので、こういった形で作品に関われて嬉しいです」

――燿児さんは『ANGRY KID 2116』のレコ発も先日終わったところで。

燿児「そうですね。しばらくはアルバムを引っ提げてライヴをやっていく感じです。あとはせっかく東京に住んでいるので、そのうちテレビに出たいなと」

――いいですね。何に出たいですか。

燿児「ミュージックステーション。あとはやっぱり紅白でしょうか」

井手「まじか!」

燿児「そんなツテはないけど(笑)」

――ハハハ(笑)。そして、お2人には〈Mikiki Pit Vol.2〉にご出演いただくわけですが、ほかの出演者で気になっている方はいらっしゃいますか?

燿児「ジョルジオ・トゥマさんの“My Last Tears Will Be A Blue Melody”がとにかく素晴らしくて。身体を滝が流れていくような感じ。ラヴェルの〈ボレロ〉的なフレーズが重ねられていて」

ジョルジオ・トゥマの2016年作『This Life Denied Me Your Love』収録曲“My Last Tears Will Be A Blue Melody”
 

――ツイートもされていましたね。井手さんはトゥマをご存じでしたか?

井手「知らなかったけど、聴いてみてすごくいいなと思いました。マルコス・ヴァーリの『Previsao Do Tempo』(73年)がすごく好きなんですけど、あの感じと似ているというか。特にトゥマさんの2作目『My Vocalese Fun Fair』(2009年)に顕著だと思うんですけど、宙に浮いているようなふわふわしたサウンドが非常に素晴らしいです。ライヴが楽しみですね」

――ゆうきはいかがでしょう? 燿児さんは京都でしたし、YTAMOさんともご親交があるそうですね。

燿児「はい。実はこの間(折坂悠太バンドのサポートとして)対バンしたんですが、やっぱりオオルタイチさんのセンスがすごいなと思いました。ご本人にそこまでの意識はないかもしれないですけど、どこにもない自分だけの表現を追求していますよね。これは井手くんにも感じていますけど、歌心というか歌をどう良くしていくかという意識が感じられて」

井手「僕もやっぱりウリチパン郡に衝撃を受けた1人で、ずっとライヴを観てみたかったので、(共演できるのは)めちゃくちゃ嬉しいです」

ゆうきの2016年作『あたえられたもの』収録曲“あたえられたもの”
 

――お2人のライヴはどのようなものになりそうですか?

井手「母船はギタリストとして松本頼人さん(vapour trail惑星のかぞえ方)が参加したり、いつもとは違うちょっとおもしろい編成になる予定です」

燿児「うちは6人のフル編成でやります。もしかしたら井手くんも特別にコーラスで入るかもしれません」

――最後に仲の良いお2人ならではの視点で、お互いのライヴの見どころを紹介してもらえますか。

井手「燿児くんはMCがめちゃくちゃおもしろいです。とにかくずっとはにかんで、ひとりで笑っている(笑)。あと、スティールパンとかシェイカーを振っている八木(隆晃)くんという人がすごくキュートなので、注目してほしいです。僕の推しメンです!」

燿児「ただのおっさんですよ(笑)。母船は始まり方がすごくいいんですよね。洪水の前夜のような静けさというか。あとはやっぱり、風呂場のようなリヴァーブに期待してください」

 

Mikiki Pit Vol.2
日時/会場:2017年2月23日(木) 東京・恵比寿batica
出演:ジョルジオ・トゥマ/ゆうき(オオルタイチ&YTAMO)/yoji & his ghost band/井手健介と母船
ラウンジDJ:谷口雄1983、元・森は生きている)/Mikiki DJs(田中亮太&小熊俊哉)
開場/開演:19:00/19:30 
料金:前売り/1,500円、当日/2,000円(+2 drinks代別)
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