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実はアルバムごとに冒険してきた〈繊細なトルバドゥール〉の足どり

 ジェイムズ・ブラントが“You're Beautiful”で世界を席巻したのはいまから13年前。同曲を収めた初作『Back To Bedlam』(Atlantic)にて、ピアノ(時々ストリングス)主導の上品な演奏、切ない歌詞&旋律、ナイーヴなファルセット・ヴォイスというコンビネーションを徹底した彼は、ダニエル・パウターやジェイムズ・モリソンらと共に、ブルーアイド・ソウル系シンガーのブームを巻き起こすのでした。

 が、そこに張り付いたイメージを刷新すべく、2007年の2作目『All The Lost Souls』(同)では無骨な面も開陳。鍵盤のタッチは強くなり、ロックンロールやファンクを交えた色彩豊かな内容でファンを驚かせます。冒頭曲“1973”のみならず、全体的に73年のエルトン・ジョンやギルバート・オサリバン作品みたいな雰囲気もあり。

 カラフルさでは2010年作『Some Kind Of Trouble』(同)も引けを取らず、2作連続でタッグを組んだトム・ロスロックの元を離れ、グレッグ・カースティンら複数のプロデューサーと合体。新作の“Lose My Number”に通じるようなエレポップもさることながら、スラッシュ風のギターが轟くハード・ロックや、スティーヴ・ロブソン(ラスカル・フラッツ他)製のカントリーを溌剌と歌う様子が特に印象深く、デビュー時と比べてだいぶ変わったな~といった感じです。

 そして、トムを呼び戻した2013年作『Moon Landing』(同)では、ハイな部分と内省的な部分をイイ塩梅に配置。前者については、ワン・ダイレクション以降のパワー・ポップやマムフォード&サンズっぽいネオ・フォーク、そのマムフォード作法をEDMに持ち込んだアヴィーチーと共鳴してみせる“Bones”などトレンド志向が強め。それらとの対比により、ホイットニー・ヒューストンの追悼歌をはじめとするスロウ群の普遍的な美しさがいっそう際立っているように思いました。こうして“You're Beautiful”の残像を振り払おうとする2作目以降の動きが、『The Afterlove』という新たな代表作に繋がっていくのです。

 

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