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虚構であることに誠実、自分たちの音楽は基本的にファンタジー

――『Hang』のなかで、お2人が気になった曲はありますか?

岡村「1曲目の“Follow The Leader”から、いきなりポップですよね。これなんて初期シカゴじゃないですか。シカゴ、いいですよ。中古レコ屋ですぐ見つかる(笑)。あとはブラッド・スウェット&ティアーズっぽさもある」

大和田「最初はトッド・ラングレンかと思いきや、これはそんな大したもんじゃなさそうだぞと(笑)」

岡村「ブラスの入り方なんて、まさに初期シカゴですよね。これでシカゴが再評価されたらいいですよね。最近は、体系的に音楽を聴くというのをあまりやらなくなっている。サイモン&ガーファンクルを聴かずに、いきなりジュディ・シルにいく、みたいな(笑)。このあたりは2000年代にデヴェンドラ・バンハートあたりが登場したことによる影響の一つかもしれないですけど。でもそこでフォクシジェンは、〈いやいや王道を聴こうよ〉と張り切っていますよね。しかも無意識的に」

大和田「そうなんですよ。タランティーノ的な作為がないところは、かなり次世代感がある」

シカゴの72年作『Chicago V』収録曲“Saturday In The Park”
 

岡村「あと、“Avalon”の音はシュープリームス的だけど、歌詞はキリスト教の影が色濃くて、それに反抗的ですよね。“America”の歌詞もすごく象徴的じゃないですか」

――〈アメリカで暮らしているのなら 僕らのヒーローは勇敢じゃない、ただ失うものがないだけさ/そして映画の女の子が「セットに入って」と言った/でもハリウッドでは、人は自分の役しか演じないものさ〉という歌詞を、豪奢なオーケストラと一緒に歌っているのがたまらないと言いますか。

大和田「そこも本人たちがインタヴューで語っていましたね、ハリウッドの光と影を歌詞に採り入れていると。“Avalon”の歌詞にも〈ああ、サンセット通り、悪夢のような夢〉とありますけど、(映画の)『サンセット大通り』といえばハリウッドの悪夢ですからね」

岡村「昔のハリウッド映画は、張りぼてにお金がかかっているけど、やっぱりどこかぎこちないというか、特有の〈丁寧さ〉みたいなものがあった。それを今の感覚で観たらどれだけおもしろいのかというのを、割と正面から見ているような歌詞が多いのかな……という印象ですけど、どうでしょう?」

大和田「虚構であることには誠実というか、〈虚構を暴く〉という発想は全然なさそうですよね。2000年代以降、とにかくミュージカルが復権しているじゃないですか。それこそ『シカゴ』や『ムーラン・ルージュ』あたりから。一度調べたんですけど、そういう映画がアカデミー賞を獲るのは68年の『オリバー!』以来だったんですよ。あれって要するに、オバマの同性婚支持にまでずっと繋がってくる、キャンプ趣味のミュージカルとゲイ・カルチャーの復権だったわけで。そのキャンプ趣味の過剰さが西海岸では根強いんじゃないかな。フォクシジェンの2人はゲイじゃないと思うけど、そういう過剰さがある気がします」

バズ・ラーマン監督の2001年作「ムーラン・ルージュ」のトレイラー
 

――ある程度のキャリアを積んで、予算を確保できるようになったから作れたアルバムでもあるんでしょうね。フォクシジェンの2人も、そこは計画的に進めていたみたいですが。

大和田「だから、ハリウッド的な世界がもはや所与のものとなっていますよね。ファンタジー作家としての意識が強い。〈虚構の世界としてのLA〉みたいなアプローチの仕方じゃなくて、〈自分たちの音楽は基本的にファンタジー〉というくらい内面化されている。だからこそミュージカル的な音作りも自在にできるのだろうし、見えている風景がおもしろいなと」

岡村「単にいい曲を作ったから聴いてほしいとかではなく、これはショウなんだよ、パッケージ化された一つの商品なんだよという感じですよね。すごく平たい言い方をしてしまうと、それはサーヴィス精神なのかもしれないですけど。どういうわけか、そういうものがフォクシジェンには初期の頃からあって、今回のアルバムはそれがトゥーマッチに表出したような感じですね」

――こうやって考えていくと、フォクシジェンとレモン・ツイッグスが出会ったのもしっくりくる気がします。

岡村「この間のレモン・ツイッグスのライヴはいかがでした? 2月の〈Hostess Club Weekender〉は、残念ながら行くことができなかったので」

――新たなスターが誕生した!と言いたくなるくらい盛況でしたよ。ミュージック・ビデオほどではないけど衣装もばっちりキメていましたし、兄弟のアクションも見応えたっぷりで。あとはコーラス・ワークが素晴らしかったですね。

岡村「衣装! アクション! そこも真正面からハリボテ感と真摯に向き合っている(笑)」

フォクシジェンのジョナサン・ラドーがプロデュースした、レモン・ツイッグスの2016年作『Do Hollywood』収録曲“As Long As We're Together”
 

大和田「レモン・ツイッグスのMVも観ましたけど、やっぱり世界観はファンタジーじゃないですか」

岡村「あれはやっぱり、兄弟が子役出身だというのが大きいんでしょうね。ショウビズ界に身を置いていたからこそ、ある種の過剰感というか、楽しませるノウハウを幼い頃から習得していて。普段着でステージに登場するのではなく、煌びやかな衣装を纏うというのもそう。自分たちがやりたいことをやるというよりは、観客を楽しませることに重きを置いている。だからこそ、そういう視覚的なステージングになるのでしょう。フォクシジェンにも、そういうところがありますよね」

フォクシジェンがフランスのTV番組「Le Grand Journal de Canal+」で披露した2014年のライヴ映像。視聴者を楽しませることしか頭になさそうなステージングが痛快