こんなノイジーな音楽を聴いたことなかった

倉本「そういうわけで、僕たちはTVでザ・ビートルズを観ようとしてミスった世代なんですよ。でも、子供の森川さんは行ってるし、大人だった湯川さんは堂々と……」

湯川「私? 私は聞かないでください」

倉本「ハハハハ(笑)。でも、森川さんは同じ空間にいたんでしょ? 」

森川「そうそう。だから僕は、ザ・ビートルズが出て来たときに11歳だったんですよ」

湯川「どうして良いと思ったんですか」

森川「いやだって、聴いてみて本当に良かったんですよ。11歳のときに洋楽を好きになりだして、その頃はラジオで、クリフ・リチャードやリッキー・ネルソンとかを聴いていたんですけど。そこから64年、小学5年生の3学期にザ・ビートルズが出てきたんですよ」

湯川「じゃあ、最初に聴いたのは“I Want To Hold Your Hand”〈抱きしめたい〉ですか?」

森川「“Please Please Me”でしたね。〈日本でのデビュー曲〉だとラジオで紹介されていたんですよ、前田武彦さんがパーソナリティーを務めていた番組で。ただ、それはあまりピンと来なかったんですけど、その次の週にかかった〈抱きしめたい〉が、物凄く変な感じがしたんですよね」

浦沢「ザ・ビートルズは上手いのかどうかも、最初はわからなかったんですよ。そこにまず疑問があって。こんなノイジーな音楽を(それまで)聴いたことなかったから。あの頃はブラザーズ・フォーだとか、フォー・シーズンズみたいな綺麗なハーモニーが(ポップスの)主流だったので、〈このノイジーなものは正しいのかな?〉っていう疑問がまずあって」

ブラザーズ・フォーの60年のシングル“Greenfields”
 

倉本「それこそ森川さんは、ラジオから最初に流れてきた時にオンタイムで聴いていたわけじゃないですか。それくらいの世代の話を聞くと、ザ・ビートルズは〈気持ち悪い〉から入ったみたいですね」

森川「“Please Please Me”はそんなに気持ち悪くないけど、“抱きしめたい“は気持ち悪いじゃないですか」

亀田「そうですか?」

森川「GからDマイナーに入る、これは音楽的にどうなんだろうって。こんなタイプの音楽なかったですよね」

浦沢「サビから(曲が)始まる感じとかも、〈これ始まったの?〉みたいな感じで。それまでなかったですよね」

亀田「確かに。その頃のポピュラー・ミュージックだと、チャートを制するような音楽には必ず流麗なイントロがついていたりだとか」

湯川「書き方が決まってましたよね」

浦沢「それが、〈いきなり何かやりだしたぞ〉っていう」

湯川「そうか、今やっとわかった。最初に高嶋弘之さんという東芝のディレクターに、〈ザ・ビートルズの音が入りました〉と言われて、初めて〈抱きしめたい〉を聴かせてもらったときに、口をまん丸と開けて、一生懸命頭を振りながら、可愛らしい男の子たちが叫んでるような感じがしたんですよ。でも、その当時はポール・アンカやコニー・フランシスとか、あまりエネルギーのない3連音符のヒット曲がほとんどで。私はいわゆるヒット・チャートものを担当していましたから、ザ・ビートルズについては〈何これ、エルヴィスみたい!〉って言ったんですよ。エルヴィスが最初に出てきた頃の衝撃に、非常に似ていたんですよね」

浦沢「でも、あれは地声の叫びなんですよね。声楽とか、そういうものがない」

倉本「それが世の中にバーンって出てきて、声楽とかそういうのに興味がない若い女の子たちがキャー!ってなるわけでしょ。そこから〈勉強をしなくたっていいよ!〉っていうふうに、常識を変えてくれたと思うんですよね。ヴォーカルひとつ取ってもそう、何でもアリ感がありますよね」

湯川「その何でもアリ感に、森川さんみたいな方が最初に飛びついて。そういう人だからこそ、今ここにいるのよね」

倉本「そうそう。そういう人じゃないと、おもしろいものを作ってこられなかったと思うんですよ」

森川「でもその時は、ちょっと聴くのも大変でしたよ。親とか学校の先生たちがね、ザ・ビートルズがどうのこうのってメディアに出てきたじゃないですか。親父が持ってた週刊文春かなんかで、4人のグラビアを見たんですよ。そのときも奇妙な感じがして。髪の毛がなんというか……当時は坊ちゃん刈りだって僕らは言ってたんですけど、わかります? あのマッシュルーム型の。当時の小学生はみんなそういう髪型をしていたんですよ。だから、〈俺たちとあまり変わらないな〉とも思いましたけど、こいつらがそういう音楽をやってるんだっていう」

64年作『Beatles For Sale』ジャケット写真
 

森川「そこからラジオで“Twist & Shout”がかかったときに、それこそ叫びながら歌っている感じだったから、世界で一番やかましい曲だと思ったんです。本当にすごかった。それまで聴いていた音楽とは、全然違うわけですよ」

湯川「その頃、私はすでにこの世界にいましたけど、ザ・ビートルズが出てきて、ローリング・ストーンズが出てきて、チャック・ベリーやクリフ・リチャードみたいな人の意味が初めてわかったんですよ。この間、チャック・ベリーが亡くなって話題になりましたけど、私はエルヴィスが出てくる前に、米軍放送でチャック・ベリーやリトル・リチャードも聴いていたんです。でも、(当時は)いいと思わなかった。わからなかったんです」