OKAMOTO'Sのターニング・ポイント

「いつものように盤を紹介するなら、ラストに相応しいかはわかりませんが、パトリース・ラッシェンについて話したいです。実は、“NEKO”のデモは完成形よりも少し遅くて、ダンサブルではなかった。あれはツアー中に作っていたので、アイデアをじっくり練っている時間もあまりなかったのですが、ちょうどレコーディングの前日に、これはカッコイイからもっとノれるほうがいいんじゃないかと思った時に、これを聴いたんです」

※70年代中盤から活動するシンガー/ピアニスト。セッション・ミュージシャンとしても知られ、リー・リトナーやドナルド・バード、エディ・ヘンダーソン、ヒューバート・ロウズら数多くのアーティストの往年の作品に鍵盤奏者として参加している

97年の「メン・イン・ブラック」サントラ収録曲、ウィル・スミス“Men In Black”
 

「ウィル・スミスによる、映画『メン・イン・ブラック』の主題歌。ウィル・スミスはネタをモロ使いする楽曲も多くて、僕はもともと好きだったんです。これもすごくカッコイイから、“NEKO”もこういう感じにしたいなと思って、録音前日にメンバーへLINEを送ったら、ああいう仕上がりになった。それで、後からこの“Men In Black”がパトリース・ラッシェンのモロ使いだということを知りました」

パトリース・ラッシェンの82年作『Straight From The Heart』収録曲“Forget Me Nots”
 

「ベースいいな~と。ぴったりじゃないし雑味もすごくあるけど、ドラムのタイム感よりベースのタイム感がいい。この楽曲が収録された『Straight From The Heart』(82年)は他も全部良くて最高です。そのベースを弾いていたのがフレディ・ワシントン。“NEKO”をはじめ、OKAMOTO’Sのいまのモードにおいて、かなり扉を開いてくれました」

――へぇ~、いまの路線におけるターニング・ポイントになったわけですね。

「細かい話になりますが、スラップという弦をはじく奏法には、レッチリのフリーのように親指を下向きにして弾くパターンと、ベースを抱えるようにして上向きに弾くパターンがあって、僕はこれまでずっと下向きでやっていました。でもこの時代の人はみんな上向きなので、僕も練習しようと思って」

パトリース・ラッシェンと共演するフレディ・ワシントン
 

――やっぱり感覚的に全然違うものなんですか?

「やっぱり上向きで弾く免疫がないので、難しいんです。それで制作している時に、日野“JINO”賢二さんというものすごく有名なスタジオ・ミュージシャンがいらっしゃるのですが、その方と楽器サイトの企画で対談させてもらう機会がありまして。JINOさんは本当に巧くて何でもできるので、〈僕、こっち(上向きの演奏)ができないんですよね〉と話したらアドヴァイスをくれまして。それでJINOさんの教え方が上手かったのか、練習していたらできるようになってきたので、“NEKO”なんかは全部上向きで弾いています」

★日野“JINO”賢二×ハマ・オカモトの対談記事(デジマートマガジン)

――プレイの面でも変化があったんですね。

「いまの音楽シーンの傾向もそうですし、フレディ・ワシントンが自分のなかで新しい扉を開いてくれたこと、そんな時にJINOさんに出会ったこと、そして新しい奏法にチャレンジしようと思ったことが全部上手くハマって、いまOKAMOTO’Sがそういう音楽をできるようになった」

――なるほど。

「でもそれにチャレンジにするにあたって、お手本にするものは鍵盤やストリングスが入っているものが多いのですが、僕らは4人しかいないので、この編成で体現しているものじゃないと参考にならないんです。そこで、クライマックス・ブルース・バンドというバンドがいまして……(笑)」

――クライマックス……。

「名前からして微妙だし、花形のメンバーもいないアメリカのバンドで……」

――いまネガティヴなことしか言ってませんよ(笑)。

「60年代後半からずっとやっている人たちで、もともとはブルースのバンドなのですが、70年代のディスコ・ブームに乗ってリリースした『Gold Plated』(76年)というアルバムがあるんです。これを何で知ったかというと、ベイカー・ブラザーズのカヴァー・アルバム(2008年作『Avid Sounds』)に彼らのカヴァー曲が入っていて、それをまんまコピーされていたんです!」

クライマックス・ブルース・バンドの76年作『Gold Planet』収録曲“Couldn't Get It Right”
 
ベイカー・ブラザーズの2008年のカヴァー集『Avid Sounds』収録曲“Couldn't Get It Right”
 

★ベイカー・ブラザーズ『Bakers Dozen』(bounce 2012年2月号)

「(クライマックス・ブルース・バンドは)ジャケも本当にダサイ(笑)。でもメンバー全員がマルチ・プレイヤーだったりして、すごく良い。要はファンク・バンドじゃないということがミソなんです。なので、こういうものを参考にしています」

クライマックス・ブルース・バンドの75年作『Stamp Album』収録曲“Running Out Of Time”

 

いま好きな音楽にも先があるかもしれない

――ということで、そろそろ締めに入らないといけないのですが、ハマくん自身が印象に残っている回はありますか?

「2回だけでしたけど、MUROさん、隼太(SuchmosのHSU)と対談できたのは良かったなと思います」

★MURO対談(bounce 2013年5月号)

 

――あ、対談ではないですが、Mikikiになってからすごく反響のあった回のひとつが初回のジャパンで、土屋昌巳さんが参加されていた時のライヴ映像を観ながら話していたことに対して、ご本人が別のインタヴューで反応してくださった事件もありました(笑)。

「あれは最高でした(笑)!」

話題に上っている土屋昌巳が参加したジャパンの82年のライヴ映像。詳しくは上掲の記事で!
 

――まだ読んでない人はぜひいずれの記事もチェックしてもらいたいです。

「こうやってすべての回をリストアップしてみて、自分のなかで(好きなものが)ブレていないということを確認できて良かったです。2012年にタワー・オブ・パワーの『Urban Renewal』を紹介した時には、さっき話したパトリース・ラッシェンは聴いていなかったり、2013年にシックの『Risque』を紹介した時はまだシスター・スレッジを聴いていなかったりするんです」

※71年にデビューしたフィラデルフィア発の姉妹4人によるグループ。シックのナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズがプロデュースした“We Are Family”(79年)が大ヒット。ディスコ・クラシックの一つとして認知されている

★タワー・オブ・パワー『Urban Renewal』(bounce 2012年8月号)
★シック『Risque』(bounce 2013年4月号)

シスター・スレッジ“We Are Family”
 

「当時もヒューマン・ツリーを追っている感じで話していますが、実はまだまだ聴けていなかったなと。最近ではシック本隊よりも、その2トップ(ナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズ)がプロデュースした仕事のほうが好きだったりして。それに、2014年にマイケル・フランクスの『The Art Of Tea』を紹介した時はまだネッド・ドヒニーをきちんと知りませんでしたが、彼の作品がまさか2012年に取り上げた(ブッカーT&ザ・)MGズのスティーヴ・クロッパーがプロデュースをしていたとは……といったように、いろいろ聴いていくなかでそんな繋がりを知ることになるんですよね。それは古い音楽だけでなく、新しいものでも」

★ブッカーT&ザ・MGズ『Hip Hug-Her』(bounce 2012年5月号)

――果てがないですよね。

「やはり、(新しく何かを聴くことだけに)意欲的になりすぎるのもどうなのかなと思います。だから自然に身を任せる(笑)」

――意識して意欲的にならずとも、普通に聴いていれば自然と幅は広がっていくものだと思いますし。

「そうですね。この連載を通じて誰がどこで繋がっているかわからないということも痛感したので、新しいものを知ることも大事ですが、いま自分が好きなものを改めて洗ってみるのもまたいいなと思います。そこで自分では気が付かなかった好きな音楽を見つけることができると思いますし。〈家堀(いえほり)〉と呼んでいる、買っていたことを忘れていたレコードをある日家で見つけて聴いてみたら、B面がすごく良いことに気付いたりすることもありますから」

――ありますねー。買った当初はピンときてなかったのが、数年後に試しに聴いてみたら、めっちゃイイじゃん!となる時。

「いま自分が好きだと思っているものにも先があるかもしれないし、振り返ることで新しい発見があったりするかもしれないので」

――それにあたって、この連載がのちのち役立つことがあるかもしれません。

「とにかく、連載を地味な楽しみとして読んでくれた人たちには本当に感謝です」

――bounceの最終回で終わるかと思いきや、まだMikikiで続きがあったという流れもまた斬新だったかと思います(笑)。

「そうですね。また何かのタイミングで復活することがある……かもしれない(笑)」

――そういう余韻を残して終わりましょうか。では、長きに渡って読んでくださった方、何かの拍子にぶち当たって読んでくださった方も、本当にありがとうございました!

 

PROFILE:ハマ・オカモト


OKAMOTO'Sのヒゲメガネなベーシスト。バンド活動の傍ら、TV番組のMCや数多くのアーティストの楽曲に参加するなど、忙しい毎日を送る好青年。2015年の最新アルバム『OPERA』の発表以降、2016年は“BROTHER”“Burning Love”“ROCKY”とシングルを立て続けにリリース。その最中にはOKAMOTO'S初の47都道府県ツアー〈OKAMOTO'S FORTY SEVEN LIVE TOUR 2016〉を半年かけて完走。そして同年末にはTシャツ付きアナログ盤&配信のみでミニ・アルバム『BL-EP』(ARIOLA JAPAN)をリリースする。現在は本文中で語られている通り、フル・アルバムを絶賛制作中&6月30日からは名古屋と東北全県を回る対バン・ツアー〈OKAMOTO'S tourw/ 2017〉も控えている。またハマ個人の最近の活動としては、吉澤嘉代子の最新作『屋根裏獣』やCharisma.comの初フル作『not not me』にプロデュースなどで参加したのをはじめ、外仕事も引き続き精力的ですよ! そのほか最新情報はこちらへ!

Charisma.com“classic glasses”のメイキング映像
 

OKAMOTO'S tourw/ 2017
6月30日(金)名古屋BOTTOM LINE w/ドレスコーズ、Creepy Nuts
7月5日(水)郡山CLUB #9 w/ドレスコーズ
7月7日(金)仙台darwin w/ドレスコーズ
7月8日(土)秋田club SWINDLE w/Creepy Nuts
7月9日(日)盛岡CLUB CHANGE WAVE w/BRADIO
7月16日(日)山形ミュージック昭和Session w/ペトロールズ
7月17日(月・祝)青森Quarter w/ペトロールズ
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