集大成であると同時に新境地、スロウダイヴの現在

スロウダイヴの再結成は今から遡ること3年前。2014年1月にバンドの公式Twitterにて突然発表されました。同年5月、スペインはバルセロナにて開催された音楽フェス〈プリマヴェーラ・サウンド〉にて復帰後初のライヴを行い、大成功を収めた彼らは以降、様々なフェスへの出演を果たします。同年には〈フジロック〉にも登場し、貫禄のステージを展開したのも記憶に新しいところ。再結成メンバーのなかでは、ニック・チャップリン(ベース)以外は全員、ミュージシャンとして何らかの活動をしていたのもあって、ウォームアップにもさほど時間はかからなかったのでしょう。

スロウダイヴの2014年〈Pitchfork Music Festival〉でのライヴ映像
 

ヴォーカル&ギターのレイチェル・ゴスウェルは、翌年からモグワイのスチュアート・ブレイスウェイト、エディターズのジャスティン・ロッキーらと共にマイナー・ヴィクトリーズなる新ユニットを結成し、ライヴやレコーディングなどを積極的に行うようになります。そのため、スロウダイヴとしての活動は一旦落ち着くのかな……と思った矢先に届けられたのが、新作発表のニュースでした。レイチェル、ニール・ハルステッド (ヴォーカル/ギター)、クリスチャン・セイヴィル(ギター)、サイモン・スコット(ドラムス)、そしてニックの5人で、顔を合わせては思いつくままにジャム・セッションを繰り返しているうちに、次第に曲が集まっていき、去る5月5日にデッド・オーシャンより世界同時リリースされたのが、彼らにとって通算4枚目となるニュー・アルバム『Slowdive』です。

SLOWDIVE Slowdive Dead Oceans/HOSTESS(2017)

〈これぞ本家シューゲイザー!〉と快哉を叫びたくなるような、初期の彼らを彷彿とさせる曲もあれば、生活音などのSEが挿入された“Go Get It”のように、『Pygmalion』時代の作風に近いアンビエントな曲もあり。かと思えば、ビーチ・ハウスっぽい酩酊感を漂わせる“Suger For The Pill”や、ひんやりとした感触がXXあたりにも通じる“No Longer Making Time”のような曲もあり。僕が行った最新インタビューで、ニール本人が〈ビーチ・ハウスもXXも大好き〉と語っていたので、そんな最近のリスニング傾向が、少なからず楽曲にも反映されたのでしょう。スティーヴ・ライヒのピアノ・フレーズに触発されて生まれたという、8分を超える楽曲“Falling Ashes”も、彼らにとって新境地と言えるもの。つまり新作『Slowdive』は、彼らの集大成であると同時に、次の展開をも予感させる意欲作なのです。

 

ライドは和解を経て、さらなる高みへ

ライドの再結成およびツアーの日程が発表されたのは、スロウダイヴの再結成から10か月後の2014年11月でした。マイブラやスロウダイヴとは違い、メンバー同士の不協和音によって解散してしまったライドこそ〈再結成はあり得ない〉と思っていたので、このニュースには本当に驚きました。

こちらも僕が行ったバンドのリーダー、スティーヴ・ケラルト(ベース)の最新インタヴューによれば、マーク・ガードナーとアンディ・ベル(共にヴォーカル/ギター)の不仲は、バンドが解散して数か月後にはほとんど修復されていたとのこと。その後は年に1度、必ず4人全員で集まりビジネス的な話し合いを行っていたそうです。再結成のプランもその都度テーブルに上がっていたのですが、今回上手くまとまったのは、アンディが加入していたビーディ・アイが解散したおかげ(?)だったというから、人生何が起こるかわかりません。

ライド解散後、マークはフランスに移住し、ロビン・ガスリー(元コクトー・ツインズ)と共同名義の作品を作るなど、ソロ・アーティストとしてマイペースに活動していました。アンディはご存知のようにオアシスのベーシストを経てビーディ・アイのメンバーとなり、コンポーザーとしてもグループの中核を担っていました。ローレンス・コルバート(ドラムス)はサポート・ドラマーとして、ジーザス&メリー・チェインやギャズ・クームス(元スーパーグラス)の来日公演にも帯同。唯一、スティーヴのみが音楽業界から身を引き、地元オックスフォードに戻って家族と共に過ごしていました。

RIDE Weather Diaries Wichita/HOSTESS(2017)

そして、今年6月16日(金)にリリースされるのが、前作から実に21年ぶりとなる通算5枚目の新作『Weather Diaries』です。マークとアンディによるハーモニーは相変わらず美しく、2人のソングライティング能力は、衰えるどころかむしろ円熟味を増して豊かになっています。地響きのようなフィードバック・ノイズが轟くタイトル曲“Weather Diaries”は、初期ライドのシューゲイザー・サウンドを思い起こさせますが、これは本作のプロデューサー、エロル・アルカンの功績だとスティーヴは振り返ります。

「彼は僕らに〈Weather(天気)をプレイしてほしい〉ってリクエストしてきてね。思わず僕ら、録音ブースで顔を見合わせちゃったんだけど、おかげでちょっと過剰な演奏ができた。さらにエロルがそこに、様々なアウトボードを通し、エフェクトを加えて作り上げたのがあのサウンドなんだ。彼はDJだし、〈僕らエレクトロなバンドにされちゃうんじゃないか?〉って少し心配もしたけど(笑)、インディー・ロックにも造詣が深くて、とても信頼できる人物だったよ」(スティーヴ・ケラルト)

他にも、スペースメン3ばりの暗黒サイケな“Rocket Silver Symphony”、アストロブライトやフライング・ソーサー・アタックもかくやと言わんばかりのアンビエント曲“Integration Tape”、ホーリーかつドラマティックな展開にポスト・ロック以降のセンスも感じさせる“White Sands”など、サウンドメイキングやアレンジ面で新たな試みに挑戦しています。

ミックス・エンジニアは朋友アラン・モウルダー。マイブラの『Loveless』やナイン・インチ・ネイルズの一連の作品を手がけ、ライドの作品にも深く関わってきた人物です。それにしても、20年の時を経てもなお進化し続けようとする彼らの心意気には、ただただ心打たれるばかり。本作を引っさげての来日公演が、1日も早く実現することを願ってやみません。

2010年代に入って、まさか〈御三家〉の新作を聴ける日が来るなんて。10年前には想像すら出来ませんでした。いやー、長生きするものですね。というわけで、4回に渡ってお届けした〈シューゲイザー講座〉はこれにて終了です。みなさま、最後までお付き合いくださってありがとうございました!

 


今回のシューゲイザー講座をまとめてチェック
再結成後の名曲&〈御三家〉による関連音源をプレイリストで復習しよう!

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