ピンクを着ながら、女だからこそできる〈カッコイイ〉を見せる
――『ほったらかシリーズ』と今回の『ほめごろシリーズ』では、かなりサウンド面でも変化がありますね。
マナ「めっちゃある」
橋本「驚きました。全体的に骨太になったし、さらにミクスチャー感が増して、まるでレッチリみたいなグルーヴもあって」
――その変化には、『ほったらかシリーズ』についての、周囲やリスナーからのリアクションも関係しているのでしょうか?
ユウキ「うーん、何も気にしてない」
マナ「何を言われても関係ないよね」
――では、なんとなくのイメージで誤ったレッテルを貼られて、憤りや失意を感じたことはない?
ユウキ「アー写だけ見てフワッとした感じかと思ったけど、実際にライヴを見たらしっかりしていた、みたいに言われることはあるね」
マナ「だいたいナメられるからね」
ユウキ「別にバンドマンっぽく見られたいわけじゃないんだけど」
マナ「でも、女の子はだいたい演奏が下手に見られるから」
ユウキ「だからこそ、上手くなりたいしゴリゴリにやりたい」
――では、今作の音の変化は、何に起因しているのでしょうか?
マナ「単純に好きな音楽が変わったから」
ユウキ「1か月単位くらいでコロッと変わっちゃうんだよね」
――『ほったらかシリーズ』以降にCHAIが発見した音楽は?
マナ「CSSもトム・トム・クラブもそう。ジャスティスも」
橋本「CSSも最近知ったんだ!? 『ほったらかシリーズ』のときからCSS感あったのに」
マナ「そのときは知らなくて、言われて聴いた」
――それは、すごく意外ですね。ちなみに『ほったらかシリーズ』の頃は何を聴いていたんですか?
マナ「えーと、岡村靖幸」
ユウキ「“ぶーしゃかLOOP”をめっちゃ聴いてたね」
マナ「あと、Charisma.comとかも聴いてたよね」
ユウキ「ゴリラズやベースメント・ジャックスはその頃から大好きだったけど」
――今作の2曲目に収録されている“クールクールビジョン”は、フリーキーでレイヴィーなダンス・チューンでベースメント・ジャックス感がありますね。
ユウキ「あー、あれはバキバキにしたかったよね。あと、Have a Nice Day!も意識した」
マナ「ハバナイも大好き。何を指してクラブ・ミュージックと言うのかはわからないんだけど、私のイメージするクラブ・ミュージックをやりつつ、ディーヴォみたいなチープな感じも出したかった」
――一方で、“ボーイズ・セコ・メン”はノイジーなギター・サウンドが格好良いロックな楽曲ですね。
ユウキ「この曲の激しいところはレッチリを意識したしね」
マナ「でも、レッチリは1曲しか聴いたことない。タイトルわかんないけど、展開の激しい奴」
ユウキ「最初はバラードみたいな始まり方の」
橋本「“By The Way”?」
マナ「それだ! あの曲のイメージで作ったんだよね」
――この曲は、ズルい男に靡いてしまう女の子に〈付いて行っちゃダメ!〉と発信していて。
マナ「でも、ボーイズのことも褒めてるんだよ。セコい人はみんな格好良いから」
――〈せこい、でもカッコイイ!〉と歌っていますしね。だから、女の子が靡いてしまうことも否定していないし、そこが良いと思うんですよ。フェミニズムとしても……。
マナ&ユウキ「……なにそれ?」
――えーと、男性中心的に営まれてきた社会のなかで、女性は〈女性〉という役割を担わされてきたという歴史があって。フェミニズムというのは、そうした男性優位的な抑圧から女性を開放していこうという主張のこと。
マナ「良いことだね」
――でも、思想が先鋭化していくことで、いわゆる〈女の子〉的な振る舞い自体への批判も内発していった。例えば、ガーリーなものはダメとか、ピンクは社会から押し付けられた女性的な色だから着ないとか。
ユウキ「それは、ちょっと怖い」
――でも、CHAIはいわゆる〈女の子らしさ〉も否定していないと思うんです。“ボーイズ・セコ・メン”でも、壁ドンにドキっとしてしまう気持ちがキュートに表現されていて。
マナ「うん、否定していない。いいと思うよ」
――そこがとても2017年的だと思います。
橋本「僕もまったく同じで、そこが凄く新しいなと思ったんです。コンプレックスを描くとすると、さっき言われた〈過激化したフェミニズム〉みたいに、女の子らしさというものに対して怒りを向けてもおかしくないと思うんですけど、可愛いものは可愛いものでアリというのが新鮮だった」
ユウキ「ピンクは好き! 衣装でも着てるし着続けたい!」
マナ「ピンクのイメージを変えたくて、意識して着ているよね。世間のイメージだと、ピンクはブリッコな気がするけど、ほんとはもっと違うと思う」
ユウキ「パワーのある色だと思う。ほんとは格好良いの。だから、ピンクの意味も変えたい。女であることを認めつつ、女でも男に負けない、女だからこそできる〈カッコイイ〉を見せたい。ピンクを着ながら、それを見せつけたいと思ってる」
――ユウキさんが描かれた『ほめごろシリーズ』のアートワークも、CHAIのそうしたメッセ―ジを表現していますよね。
ユウキ「わかる? この体型を存分に見せつけながら肉を食らうという」
――女性は細くなければいけないとか、1人で肉を食べてはいけないとか、そういった決めつけに対する〈NO!〉だと捉えました。
マナ「そういうの、あるよねー。私もまだ1人吉野家できないもん」
――橋本さんもバンドを続けていくうえで、反骨精神がモチベーションになることはありますか?
橋本「昔は誰々を見返したいとかだっかけど、今はもう少し社会に対しての反骨になってきているかもしれないです。僕らの活動って〈売れる〉という観点からすれば決してイージーな道筋じゃないんですよ。楽曲は良いけどその良さがわかりやすく言葉で打ち出せるものじゃないし、ビートはあるけどフェスとかでめちゃくちゃ騒げるほどでもない。ダサさと紙一重のセンスもあるからお洒落一辺倒にもならないし。あとSNSを 駆使して器用にアピールすることも苦手ですしね(笑)」
――この間に、〈今年の自分のテーマはヘルシンキラムダクラブなめんな〉とツイートされていましたね。
橋本「僕らは、悪く言えば中途半端な立ち位置ですけど、それでも良い音楽をやっている自信はあるから、そんな音楽をもっとちゃんと見つけてほしい。自分の価値観や好みで物事を選択してほしいと思うので、そういう意味では反骨がモチベーションになっていると思います」
――Helsinki Lambda Clubの歌詞にも、今の時代ならではの男の子の感性が出ていますよね。
橋本「書いているときは、そこまでは考えてないんですけど、自分が生活していて思うこと表現しています。今の時代に暮らす僕が書いているものなんで、自然とそれは出たものにはなっているんじゃないかな」
――リスナーとして、今こういう歌詞を持ったポップ・ミュージックがあればいいなと思うテーマはありますか?
橋本「そうですね……人間は絶対に矛盾を抱えている存在だと思うんです。だから、もっと矛盾を持った生き物であることを肯定する音楽が出てくればいいなと思います。人間の複雑さが見えるポップソングを聴きたいな」
マナ「ヘルシンキの歌詞もそうだよ。“しゃれこうべ しゃれこうべ”の〈口づけを交わして そのまま首を絞めたよ だけど死なないで 愛しい人〉とか、薫さんはこうやって人を愛しているんだなって思ったら胸が苦しくなる。だから、何回も聴けないんですよ(笑)。でも、すごく好き」
ユウキ「薫さんの言葉は生々しいのに汚くないんだよね」
――矛盾を抱えた人間というのは、CHAIの描こうとしている女の子像とも共通していると思います。だから、大きく表現の在り方としては重なっているのかもしれませんね。
マナ「だから私たちもヘルシンキが大好きなのかも。ライヴでも、うわべの言葉で歌っていないのが伝わるから」
ユウキ「ツーマン、超楽しみだよね。私たちのイヴェントのテーマは〈グラミー賞〉で」
マナ「今回のHelsinki Lambda Clubは〈やさしいね! 草食クラブ部門〉なんですけど」
橋本「ノミネートありがとうございます(笑)」
マナ「すごく、今の時代を表している男の子たちだと私たちは思っているの。今回は絶対にツーマンにしたかったし、このタイミングで絶対に観に来てほしい!」
CHAI presents〈ロード・ツー・ダ・GRAMMYs season3〉
2017年5月24日(水)東京・渋谷TSUTAYA O-nest
出演:CHAI/Helsinki Lambda Club/DJ TMI
開場/開演:18:30/19:00
料金:前売り 2,500円(1D別)
ぴあ(Pコード:325-534)
e+
ローソンチケット(Lコード:77302)
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