FLEET FOXES
〈崩壊〉の先にある〈祝福〉をただひたすら信じて……

 「選挙の段階でアルバムは大よそ仕上がっていた。ただ、選挙の結果を受けて歌詞の内容を少し変えたのは確かだ。あと、タイトルがより腑に落ちたというか……。『Crack-Up』というタイトルは、あの選挙の後だからこそ、より広い意味合いを持つようになったと思う」(ロビン・ペックノールド、ヴォーカル/ギター:以下同)。

FLEET FOXES Crack-Up Nonesuch/ワーナー(2017)

 選挙とは言うまでもない、昨秋の米大統領選のこと。そして、〈Crack-Up〉の意味には〈弱る〉〈くじける〉〈めちゃくちゃになる〉などがある。けれども、本作はそうした状態に甘んじているわけではない。前作『Helplessness Blues』から数えて6年ぶり、ノンサッチ移籍作となる今回のニュー・アルバムでフリート・フォクシーズにインスピレーションを与えたひとつが、スコット・フィッツジェラルドのエッセイ「崩壊(Crack-Up)」だ。ロビンは言う。

 「フィッツジェラルドが言わんとしているいくつかの部分に共感できた。自分が精神的に少し参っていると感じる部分とか、音楽に気持ちが向かずこの先どう向き合うべきか確信が持てなかったこととか。この世界から自分が後ずさりしているような気になっていて、たぶん彼もそうだったと思う。ただ、新作を作るにあたり、そういう気持ちに止まっているものにはしたくなかった。そういうものを示唆したり、触れたりしながらも、そこを切り抜ける道を示したり、あるいは乗り越える過程を描きたかったんだ」。

 なぜ私たちが6年も新作を待たなければならなかったか?という答えも、この発言には含まれている。しかし、待った甲斐は十二分にあった。こんなにも美しく、そして力強く、ポジティヴで包容力のあるロビンの歌声を聴くことができようとは。ニュアンスに富んだデュエットもコーラスワークも、圧倒的な存在感を放っている。「ヴォーカルを録音するだけで6週間もかかったよ。本当に濃密な行程だった。デュエットはレコーディングしていても楽しかったね。加えて、より高音、より低音で歌おうとか、より人格を持って歌おうと心掛けた。音楽で何かを伝えるうえで、よりシアトリカルに、機微を大切に歌うようにしたよ」と話す彼の苦労は報われたと言えるだろう。

 ハーモニーと寄り添うように鳴り響く演奏は、その音色もスタイルも多岐に渡りながら、迷いがなく、一定のテンションを保っている点で一貫しており、堂々とヴォーカルをサポート。前作に比べるとアーシーなフィーリングは後退し、そのぶん繊細でエレガントなモダン風味が増した感もある。影響を受けた音楽としてロビンは、ボブ・ディラン、ローリー・アンダーソン、スティーヴ・ライヒ、アーサー・ラッセルにビーチ・ボーイズ、グナワ音楽やエチオピア音楽、イーゴリ・ストラヴィンスキー……などを挙げているが、これだけのものを咀嚼して新たな世界を作り上げるセンスと力量には、脱帽するしかない。

 「フィッツジェラルドの場合は、作品の終わりでお手上げだと生きることを諦めてしまっているように思える。でもこのアルバムの終わり方は、むしろ両手を広げて、生きることを受け入れている。生きることから身を引く代わりにね」。

 〈世の中どうかしている〉と思う毎日。でも、こんなおかしな時代だからこそ生まれる尊い音楽があり、私たちは少しだけ救われる。 *赤尾美香

 

フリート・フォクシーズのアルバムを紹介。