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『SYMPHONY』は〈変わっていくこと〉を意識した作品

――「アメリカン・スリープオーバー」や〈New Neighbors〉を経て、今回の『SYMPHONY』はHomecomingsがこれまで以上に〈青春〉というテーマに向き合った作品だと感じたんですね。リード曲の“PLAY YARD SYMPHONY”にしても、ここまで学園の風景を切り取った曲はなかったじゃないですか?

福富「そうですね」

――ちょっと意外にも。でも、今回バンドとしてそこに向き合ったのはどうしてなんですか?

福富「実はGucchi’sさんたちの『ムービーマヨネーズ』にはすごく影響を受けていて」

降矢「え!」

福富「この本は〈青春映画特集〉だし、そういう映画のことばっかりが書いてあるじゃないですか。それに影響を受けるのと同時に、(作り手としても)これまでのやり方からもう1個踏み出したいなとも思っていたんです。自分のなかに街を作って、そのなかで起きた出来事をカメラで撮るように描いていくという手法ではなく、今回はある特定の場所を舞台に旅立ちを描きたいなと思っていた。それを考えていくうえで青春映画もそういうことがテーマになっているんだなと繋がって、ちょうどすべてがリンクしたというか」

―― 今回のEPでは、旅立ちや離別が歌われていて、それはHomecomingsとしていままでやってきたことや積み重ねてきたことから、さらに先へと行くために向き合わなければいけない感情や状況を映し出しているのかなという気もしたんですよね。

福富「そうですね」

畳野「それはホントにそう」

福富「“PLAY YARD SYMPHONY”は、出て行く側が〈思い出すよ〉と言っている曲で、“WELCOME TO MY ROOM”は残った側が〈忘れないよ〉と言っている曲という対比にはなっています。“WELCOME TO MY ROOM”はHi, how are you?の原田(晃行)くんが京都から山形に帰るとなったときになんとなく作った曲で、すべてが彼のことではないんですけど、きっかけはそこだった。だから、変わっていくということを意識して作った作品なんです」

Hi,how are youの2014年作『?LDK』のトレイラー
 

――その〈変わっていく〉という意識には、今回“PLAY YARD SYMPHONY”で初めてストリングス・アレンジを採り入れたということも関係しているんですか?

福富「それはね……それはもう完全にアヴァランチーズの『Wallflower』(2016年)の感じがやりたくて(笑)」

――ハハハ(笑)。でも、前作でトライしたループ感の延長線上として、アヴァランチーズに挑むのは論理的な発展でもあると思いますよ。

福富「うんうん」

――一方で、これまで以上にバンド最初期のルーツにあたるエモやオルタナに寄ったアンサンブルになっていると思ったんですが、そうしたサウンドの背景にも出て行くにあたって〈いままでいた場所〉を見つめ直そうという意識は関係していますか?

福富「何かをバンドのアンサブルに採り込むのは、ファーストとセカンドの際には結構がんばって意識的にやってたんですけど、今回はもうちょっと自然にやっていますね。ストレートなギター・ポップから抜け出そうとした『Somehow, Somewhere』(2014年)、さまざまなストーリーを描くために絵の具を買い揃えてカラフルな音楽性になった『SALE OF BROKEN DREAMS』(2016年)という流れがあって、それとはまた違う感じ。今回は、作品全体の世界観みたいなものを設定してなかったことがデカイと思います。好き勝手にできたというか」

――2曲目の“SLACKER”は初期ストロークスをてらいなくやっていますしね。

福富「これまでよりシンプルに、できなかったことをできるようになってきたのかも。あとは彩加さんがMacを買って、プリプロ的なことを手軽にできるようになったとか、簡単なデモを作れるようになったというのも大きいのかな」

 

「20センチュリー・ウーマン」にも通じる、日常を生きるうえでの肯定感

――サヌキさんと降矢さんは『SYMPHONY』を聴いて、どんな感想を持たれましたか?

サヌキ「これまでの箱庭的な佇まいから進もうとしているし、実際に出発しないにしても未来の話をしているなとか、そういう姿勢を感じました。しかもそれがちょっと〈切実やん?〉って(笑)。だからこそ、足元というのは象徴的になるだろうなと思って、このイラストを描いたんです。ただ、それだとあまりにも1つの意味に限られすぎてしまうので、照れ隠しとして歌詞カードでタネ明かしもしているんんですけどね」

降矢「自分は音楽に全然詳しくないので、あんまり難しいことや専門的なことは言えないんですけど、サヌキさんのイラストにも引っ張られているのか、〈新しいスニーカーを履きつぶしながら聴きたいな〉〈使い古した靴と同じで聴けば聴くほど味が出てくるな〉というのが率直な感想ですね。例えば学生のカバンとかもずっと使ってクタクタになったほうが味も出てきて、むしろそっちのほうがフレッシュに見えることもあるじゃないですか? そういう印象です」

畳野福富「それはめちゃくちゃ嬉しいですね」

降矢「この前『20センチュリー・ウーマン』という映画を観て、その映画に、僕が思う青春を象徴する言葉が出てきたんです。グレタ・ガーウィグが演じている赤髪のキャラクターがいて、彼女は若い頃ニューヨークで写真をやっていたんですけど、NY時代の自分を回想するシーンに〈自分は傲慢だった、いつもイライラしていた、そして、とてもハッピーだった〉みたいなセリフがあったんです。その言葉自体は矛盾しているじゃないですか? イライラしているのにハッピー――だけど、いろんな感情が含まれているけれど、全部ひっくるめてハッピーと言えるという、肯定していくみたいな感じがそこにはある。このEPにも日常を生きるうえでの肯定感みたいなものをすごく感じられて、そこが青春映画というジャンルともリンクしているのかなと思いました」

――青春映画に寄せていくと、先にも出た“SLACKER”はリチャード・リンクレイター監督の同名映画がインスピレーション源ですよね?

福富「そうです。登場人物が喋りまくりながらバトンを渡していくように画面が変わっていくというあの映画の手法を、歌詞でもできたらいいなと思って作りました。いつもは1曲で1つの場面を描いているんですけど、この曲は歌詞の1ブロックが1場面で、それらがチャンネルをババッと変えていくみたいにたえず切り替わっていく。映画館で観たあとにすぐ輸入DVDも買ったんですけど、セリフがわからなくても観ているのが楽しい映画ですね。〈好きな映画〉というよりも、観たときのウワーっという興奮がずっと残っている感じの作品」

――映画の「スラッカー」は「ムービーマヨネーズ」でも最初のコンテンツとして紹介されていますね。

降矢「海外では、インディペンデントの手法で撮った映画として、カルト的な支持のされ方をしている作品なんです。かつ映画学校の授業でも採り上げられるといった位置けの作品なんですよ。だけど日本では未公開だったし、知っている人は知っているけど実際に観たことがある人は少なかった。だから、〈青春映画学園祭〉というのをやるにあたって抜けていたピースを入れておきたいというか、映画自体がある一つの〈はじまり〉となった作品でもあるから、そのスタート地点を紹介したかったし、それによって見えてくるものがあるんじゃないかと思ったんです。そういう意味でも『スラッカー』は重要なピースなんですよね」

※昨年、Gucchi’s Free School主催の〈青春映画学園祭〉で日本初上映が行われた

 

「アメリカン・スリープオーバー」の熱量がHomecomingsに変化を起こした

――Gucchi’sさんのサイトに『アメリカン・スリープオーバー』上映に際してRHYMESTERの宇多丸さんが出演されたトークショーの文字起こしが載っていて、そこで宇多丸さんがおっしゃられていた青春映画への見立てが、今回のEPの主題にも肉薄しているような印象を覚えたんです。彼は〈無限の可能性を持っている存在が、そのうちから一つを選ぶことで可能性を閉じていく作品〉と定義付けていたんですけど、実際、今回“PLAY YARD SYMOHINY”でも〈運動場に転がるいくつものボール/そのひとつだけを選びなよ〉というラインが出てきていて。

福富「〈青春の終わり〉というのもふまえつつ、僕のなかでは〈点を打つ〉というのがすごく意識としてありましたね。何かを終わらせるというよりは、ずっと地続きでやってきたものにいったん(区切りを)打ちたいなと」

畳野「それには私生活の変化やメンバーそれぞれの年齢も関係していると思う。学生時代から一緒にいる仲で、いまも4人それぞれ京都に住んでいるけど、どこか不思議な関係性でもあって。その関係性のうえで、それぞれが最近思うことがあり、そういうものが作品にも出ているのかな。いまのHomecomingsの状況、4人の心情みたいなものが反映された曲になったし、メンバーそれぞれの気持ちみたいなものが純粋なまま自然に出ているのかな。意識的ではなかったし、気にしてもいなかったけど、ちょっと気になるお年頃というか(笑)」

福富「いま言うべきでことはないのかもしれないんですけど、これまでHomecomingsというバンドは僕が思っていることを再現していくバンドでもあったと思うんです」

――ええ。

福富「それはいろいろな面――音楽的なところもそうやし、活動やライヴもそうやったと思うんですけど、いまの僕は彩加さんにそのバトンを渡そうとしているんですよ」

――へー、それはHomecomingsにとって小さくない変化ですね。

福富「だから、いまはバンドが変わっていくことを強く意識しています。〈New Neighbors〉についても、僕が主導やったら実現しなかったかもしれないなと思っていて。それは彩加さんのすごいところで、行動にすぐ移しちゃうところというか。僕は『アメリカン・スリープオーバー』を観に行っても、『ムービーマヨネーズ』を買ってGucchi’sさんのツイッターをフォローして、そこで終わってしまうタイプやと思うんです(笑)」

一同「ハハハ(笑)!」

福富「何かのタイミングがあればお話しすると思うんですけど、まずその前に外堀を埋めていくタイプというか」

畳野「この人はそうなんですよ。すごく時間がかかる……かける人」

福富「そうじゃないとダメだという意識もあるし、その人の作ったものとかもちゃんと理解して、そのうえで近付かないといけない……と思っちゃうんですよね。でも、彩加さんはそこを飛び越えて行く勢いやパワーがあるから、それは100%良いことやし。なんかね、いろんな面についてそう思うんですよ。例えば東京というものに対してもそうで、僕はずっと苦手……ではないけれど、出て行きたいとは思わない。でも、彩加さんはそこを飛び越えて行けるから、東京に知り合いも多いし、『アメリカン・スリープオーバー』についても彩加さんが東京で観たことがきっかけやし。そういうのがいろいろあって、バンドの原動力的なところで僕が多くを占めてなくてもいいんじゃないかなと、このEPを制作しているくらいから思いはじめたんですよ」

――そうだったんですね。

福富「というのを、この次の作品を出したときくらいのインタヴューで言おうと思っていました(笑)」

一同「ハハハ(笑)!」

畳野「彼の変化は私も感じていて、これまでは福富くんの頭のなかに完成しているものが細かくあって、どれに対しても〈こうです〉というのがあるうえで、私は〈じゃあこうしよう〉とサポートする役目をずっとしていたんです。それが〈New Neighbors〉をひとつのきっかけに、福富くんが譲ってきているなと思う局面が増えた。〈あれ? 何かおかしいぞ〉と居心地が悪いというか(笑)、急に支える側じゃなくなったことは感じていて。最初は〈私はサポートするほうが向いているから、いままでとおりのやり方でやってほしい〉と言っていたんです。でも、最近は、これはこれでひとつの形としていいのかなと思ってきた。この人のなかに太い芯はいつもあるし、自分がこうしたいという発想――そのときどきで自分の周りにあるものを採り入れてアウトプットするのがすごく上手な人だし、そこは私にできないところだから。だから、福富くんにしかできない部分があり、それ以外の彼ができない部分――行動力ややりたいことを形にすることは、たぶん私のほうができるし、背負っているとかではなくて、これもこれでひとつの形。半分半分になったということ?」

福富「半分半分というよりは、それぞれができることをやったら、おもしろくなるやろうなという感じかな。僕にできないことを彩加さんができるということがわかったので、いろんな意味でバンドが変わっていく、もうひとつ前に進んでいくんやと思う。次のアルバムは〈旅立ちました〉という作品になるだろうから、そうなる前に一個こういう作品を出しておきたかった。そこもちゃんとドキュメントとして残しておこうって。だから、まさにサヌキさんが描いてくれたジャケットとおりで、〈一歩踏み出していく瞬間〉を切り取りたかった。ほんとに〈New Neighbors〉を経て、バンドが変われたんですよ。だから、〈なんてことをしてくれたんや〉って(笑)。それをふまえても『アメリカン・スリープオーバー』という作品が振り撒いている熱量はすごいと思うんです。いろいろな人やものを動かしていっているなかで、僕らもそれに巻き込まれていった。その結果『SYMPHONY』が生まれたんです」

 


「アメリカン・スリープオーバー」Blu-ray+DVD、9月4日(月)一般発売予定!
・上映情報
7月29日(土)東京・シネマート新宿
8月11日(金)神戸・ふたば学舎
8月19日(土)金沢・Etc.link
8月26日(土)東京・新文芸坐

 

■Homecomings
〈Homecomings presents “BOWLER'S DELIGHT”〉
2017年8月18日(金)京都 磔磔
共演:おとぎ話
2017年8月27日 (日)石川・金沢 vanvan V4
共演:COMEBACK MY DAUGHTERS
DJ:TOMMY(BOY)
〈Homecomings “PLAY YARD SYMPHONY” TOUR〉
2017年9月7日(木)愛知・名古屋 TOKUZO
2017年9月8日(金)大阪・梅田 シャングリラ
2017年9月9日(土)東京・渋谷 WWW
2017年9月15日(金)福岡the voodoo lounge
2017年9月16日(土)広島BANQUET (SPACEO92)
DJ:のりんちょ (グッドネイチャー部!)
★詳細やその他のライヴ情報はこちら

 

■サヌキナオヤ
8月7日(月)にちくま文庫から発刊される獅子文六「バナナ」新装版の装画を担当

 

■Gucchi’s Free School
「キングス・オブ・サマー」
8月19日(土)アップリンク渋谷にてロードショー
〈ほぼ丸ごと未公開! 傑作だらけの合同上映会〉
10月、12月に開催予定。プレ・イヴェントが7月30日(日)、ユーロライブにて開催