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noidの変拍子は音楽をより美味しく食べてもらうための手段

――じゃあ、ゆーきゃんが完成した『HUBBLE』を聴いたときの感想は?

ゆーきゃん「なんですかね……〈ぼくの知っているnoidじゃない〉と思ったな(笑)。というのは、エイジくんのやりたいことが、完成してやっとわかったという感じだったから。noidの第一印象はインディー的なザクッとしたサウンドだったんだけど、こんなに丸みのある柔らかな音を鳴らせて、キラキラしたオーラを持っていたんだとわかった。〈ここまでファンタジックなバンドだったのか〉と驚きました」

『HUBBLE』収録曲“otouto”。全編でゆーきゃんをフューチャーしたMVとなっている
 

――特に“otouto”や“already”、“Hello Stranger”といったストレートなポップ・チューンは、キラキラとした魅力があります。なかでも、ゆーきゃんが作詞をした“already”は、前作so are millions of us』のリード曲 “city”の続編として書いたそうですね。

エイジ「“city”の続編だと聞いたとき、腑に落ちました。“city”は金沢の街をイメージして作ったんです。夢や街が交錯する感じとか、バラバラだけど交わる瞬間を描いているところとか、そういったところが“city”と“already”の共通項なんじゃないかな」

――自分も“already”は〈街の賛歌〉だと思いました。歌詞にも〈バラバラの暮らしを/デタラメに並べ/五線譜をひく町の歌〉と出てきて。

ゆーきゃん「これは金沢の片町のスクランブル交差点についての歌なんですよ。年末に雪が降っていて、あちこちで忘年会がおこなわれていて、みんながそこに集まってくる。金沢ってすごく手頃なサイズの街だから、いろいろなひとがいても、それぞれが孤独ではない気がするんです。やんちゃなひとたちや酔っ払いもたくさんいるんですけど、彼らもいい意味で無頼感が少ないというか。お互いがお互いを知らなくても自然とこの街のなかで輪になっているような、不思議な安心感があって、なにかそれが懐かしいんですよね。渋谷や梅田の雑踏だと途方もない気持ちになったり、迷子みたいな気持ちになったりすることがあるんですけど、片町交差点にはそういうところがないなと思う。そんな景色を歌にしてみた感じかな」

――“already”みたいな疾走感溢れるポップソングもありつつ、“STARS”は5拍子だったり、“旧字体”は僕では何拍子かわからないような複雑なリズムだったり、各曲のアンサンブルにおいては挑戦的なアプローチをとっているとも思うんです。

エイジ「僕はリスナーとしても5拍子、7拍子の曲を上手に歌うヴォーカリストが好きなんです。スフィアン・スティーヴンスとか+/-のジェイムズ・バリュヤットとかを尊敬してしまう。複雑な拍子をいかにポップに、子どもでもおじいちゃんでも口ずさめるように表現するにはどうするかというのは、作りとしてはおもしろみの一つでもあって。だから日々、研究をしていますね。作曲したらまず5拍子、7拍子ヴァージョンを試してみる(笑)」

『HUBBLE』収録曲”STARS”
 

――変拍子をやるにあたっての演奏面での快楽みたいなものもあるのかな、と思ったんですが。

エイジ「もちろん演奏もおもしろくあれば良いとは思っています。同じことをやっていたらつまらないですし。さっき〈拍子がわからない〉と言われていた“旧字体”という曲については、日本のバンドでこんな展開の楽曲をやっているのはnoidだけだろうと思える(笑)。ただ、食べ物で言ったら、食通の人も、ただ単に食べるのが好きという人も両方から〈美味しい〉と思われるような両面をnoidではすごく大事にしていますね」

ゆーきゃん「noidを紹介したときによく使われる〈ストレンジ・ポップ〉という形容に対しては違和感を持っていて、〈ストレンジちゃうやん?〉と思うんですよね。変拍子を使っているのも〈ここにホーンを入れる〉〈ここでディストーションを踏む〉とかってのと同じじゃないかな。その音楽をよりおもしろく聴かせるための変拍子やリズムだと思うし、それは〈ストレンジ〉じゃなくて、逆にものすごく〈ストレート〉な手段。マス・ロックのバンドみたいに〈こう来たか〉と思わせられる知的な刺激ではなくて、あくまで身体で感じるリズムのおもしろさ――おもちゃで遊ぶみたいな、そういうリズムの使い方だから。noidのライヴは、ステージにいてもフロアから観ていても、お客さんのノリ方は別に変拍子の曲にノっているっていう印象はないし、そこが良いなと思う」

――変拍子という手段が目的化していないというか、あくまでも音楽をどうおもしろくするかの手段として使われているってことですよね。

エイジ「リスナーに対しては、〈この曲は何拍子〉とか感じさせたくないんですよね。〈なんか違和感あるなあ、でもちゃんと聴けるなあ〉ぐらいがいいなと思っています」

 

暮らしのなかで、時間を作って、曲を作って、自分の居場所を作っていく

――最後に今週末の10月21日(土)に新代田FEVERで開催される今作のリリース・パーティー〈Magical Colors Night in Tokyo〉の話をしましょう。〈MCN〉を金沢以外で開催するのは初めですか?

エイジ「富山で開催したことはあったんですが、東京のように離れた地域でやるのは初ですね」

――noidはもちろん、ROTH BART BARON、王舟、UQiYOという、いずれも過去の〈MCN〉に出演した3組がライヴをされます。

エイジ「出演していただいたアーティストの中でも特にウマが合ったというか、活動のスタンスを尊敬できる部分がすごく多いアーティストたちですね。3組とも東京の人たちなので、金沢でやるよりは自分たちが東京へ行ってやったほうがいいんじゃないかと思って(笑)。誘ったらすぐに返事が来て、快諾してもらえたんです」

王舟の2015年作『Wang』収録曲“New Song”のライヴ映像
UQiYOのライヴ映像
 

――ゆーきゃんも東京の〈MCN〉にはnoidメンバーとして来られるんですか?

ゆーきゃん「この日はね……僕、仕事で行けないんですよ(笑)」

エイジ「えっ、そうなんですか(笑)!?」

――エイジさんもそれをいま知ったんですか(笑)?

エイジ「来ないのは知っていたんですが、(ゆーきゃんが主催の1人を務めている)〈ボロフェスタ〉やからって完全に思い込んでました」

※〈MCN in Tokyo〉と同日に開催

ゆーきゃん「〈ボロフェスタ〉にさえ行けない仕事ができてしまって……」

――でも、ゆーきゃんがお仕事をされながら、noidとしても可能な範囲で活動していくというあり方も、このバンドらしいように思います。

ゆーきゃん「noidのメンバーはみんな忙しいですからね。暮らしのなかで時間を作って、曲を作って、自分の居場所を作って、みたいな。そのライフスタイルと音楽活動の創作スタイルが両輪になっているのがnoidのおもしろさだし、〈地方のバンドかくあるべし〉と思います」

エイジ「僕はウィルコがすごく好きで。ジェフ・トゥイーディは息子(スペンサー・トゥイーディ)とバンド(トゥイーディ)を組んでやっていますよね。故郷でフェスをやっているし、そこに住んでもいるし、やっぱり〈そうありたいな〉とは思います。この先10年か20年か30年かわかんないんですけど、ライフワークとして今後もバンドを続けていきたい」

――ゆーきゃんはどうです?

ゆーきゃん「うーん……わかりません(笑)。でも、noidのなかで自分ができることを、その局面ごとにやり続けたいなと思っています。バンドのあり方というものの固定観念をちょっと緩くしていくような、そういう役割が果たせたらいいな。個人的には、〈はよ、noidチルドレンが出てこおへんかな?〉と思ってますね。まずは地元――金沢・福井・富山からnoidがやっていることを見て〈俺らもやりたい〉って立ち上がってくれるバンドが出てきたり、〈Magical Colors Night〉に遊びに来てくれた学生たちが、自分たちでおもしろいことをしようと思ったり、そういう連鎖反応が起きていくといいですよね」

 


Live Information
〈Magical Colors Night in Tokyo~noid 3rd album "HUBBLE" release party~〉
2017年10月21日(土)東京・新代田FEVER
出演:noid/ROTH BART BARON/王舟/UQiYO
開場/開演 16:30/17:00
前売り/当日 ¥3,000/¥3,500(いずれもドリンク代別)
当日学生証提示で¥1,000キャッシュバックあり。
※学割の方は公演当日に学生証を必ず持参下さい。
※入場時に¥1,000キャッシュバックいたします。
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