Page 2 / 2 1ページ目から読む

LAのビート・シーンはテルアビブで物凄く影響力がある

――原さんがロウ・テープスに興味を持つようになった経緯を教えてもらえますか?

「最初は5年前かな。イスラエルと日本の外交関係樹立60周年を記念した、〈TEDER TEL AVIV TOKYO〉という文化交流イヴェントが開催されたんですよ。その一環で、TEDER.FMというテルアビブのネット・ラジオが東京に滞在して、3週間くらい出張放送をやっていたんです。それで、僕も呼ばれて番組に出演したんですよね。そのときに、TEDER.FMのスタッフがいろいろと音源を渡してくれて、そこからロウ・テープスの存在を知りました」

リジョイサー「僕もそのとき、DJをするために来日していたんだ。TEDER.FMのスタッフとも仲良しだよ。滞在中は、ジャイルズ・ピーターソンや松浦俊夫に会ったりもした」

※ほかにイスラエル勢ではバルカン・ビート・ボックスや、小島麻由美との共作でも知られるサーフ・ロック・バンドのブーム・パム、ロウ・テープスに在籍するビートメイカーで、今年に入ってデビュー作『Daily Affirmations』をストーンズ・スロウから発表したコーエン・ビーツも来日していた

リジョイサーの2013年作『Recollection』。原氏が初めて耳にしたロウ・テープスの音源

コーエン・ビーツの2017年作『Daily Affirmation』、クエール・クリスをフィーチャーしたタイトル・トラック

――原さんはLAのdublabとも関係が深いわけですが、同じネット・ラジオのTEDER.FMにはどんな印象を抱いたのでしょう?

「TEDER.FMは、LAのdublabとやっている内容も近かったんですよ。5年前といえば、僕もちょうどdublab.jpという日本ブランチを立ち上げる直前の時期だったので、〈イスラエルにもこういう動きがあるんだ〉と興味深くて。それで辿っていくと、僕がよく知っているLAの連中と彼らが繋がっていたみたいで。それでさらに興味を持つようになりました」

リジョイサー「LAのビート・シーンは、テルアビブで物凄く影響力があるんだよね。フライング・ロータスやブレインフィーダーはもちろんだし、僕が高校生の頃にはストーンズ・スロウの音楽がテルアビブで大流行していた。LAのジャズやヒップホップも人気だよ。あとはそもそも、LAにはイスラエル出身の人たちがたくさん住んでいるんだ。それこそ、ハリウッドにはユダヤ人やイスラエル人が大勢住んでいるからね」

――そういえば以前、原さんとお話したとき、LAとテルアビブ、そしてオーストラリアのメルボルンには通じるものがあるんじゃないかと聞いて、それからテルアビブが気になっていたんですよね。

「サラーム海上さんの話によると、LAとテルアビブは気候が似ているそうなんです。それに、最近のメルボルンではハイエイタス・カイヨーテが人気ですけど、あそこもビート・シーンが活発な土地で。現地に住んでいる日本人のトラックメイカーによると、やっぱり気候も温かいし、優れた音楽家がたくさん集まってきていると。そういう意味で、この3都市には共通するものがありそうだと思ったんですよね」

リジョイサー「ハイエイタス・カイヨーテは僕らも好きだよ。それに、LAとテルアビブの間では、10年くらい前からアーティスト同士の交流はあったんだよね。オーディエンスがそれを認知するようになったのは、わりと最近の話だと思うけど。特に近年は、コーエン・ビーツがストーンズ・スロウと契約したり、ニタイ・ハーシュコビッツがマインドデザインとコラボしたりと、繋がりがますます太くなってきていると思う」

ニタイ・ハーシュコビッツの2016年作『I Asked You A Question』収録曲“Leaded Sanity”のライヴ映像。リジョイサーがプロデュースした同作には、カート・ローゼンウィンケルやジョージア・アン・マルドロウも参加

――テルアビブにはどんな音楽シーンがあるんですか?

ケレン「素晴らしいミュージシャンがたくさんいる。クティマンのオーケストラに、イエメン・ブルースも凄くおもしろい。テルアビブは小さな街だから、みんなお互いのことを知っている感じね。スタイルはそれぞれ違うんだけど、一緒に何かをすることも多いし」

――そのなかで、ロウ・テープスを立ち上げようと思ったのはどういった動機があったのでしょう?

リジョイサー「そもそもテルアビブには、インディー・レーベルというものがなかったんだ。2008年頃にレーベルを立ち上げたときも一番早かったし、今でも国外へのアピールについては、ロウ・テープスがオンリーワンだと思う。そもそも立ち上げようと思ったのは、自分の音楽をSoundCloudやMyspaceを通じて紹介したかったから。あとは、友達の作品を集めて、一つのカタログとして提示してみたかった。バラバラに動くんじゃなくて、同じ屋根の下でまとまるような感じが良さそうだと思ってね」

――そして2017年現在までに、70作以上ものタイトルをリリースしてきたそうですね。

リジョイサー「うん、本当にラッキーなことだと思うよ」

「ひとつ訊きたいことがあって。例えば日本でも、イスラエルのジャズは積極的に紹介されているし、ワールド・ミュージックという枠のなかでもイスラエルの音楽が取り上げられてきた。でも、バターリング・トリオやロウ・テープスの音楽は、そういう枠組みとは別のところから出てきた感じがするんですよね。自分たちのなかでも、何か違うことをやろうという意識はあるのでしょうか?」

ケレン「確かにそうね。今では多くの人たちが、そういう定義に拘らずに音楽とコネクトできるようになった。そういうことじゃないかな? 私はジャズもワールド・ミュージックも好きだけど、既存の枠に囚われることなく、もっとパーソナルな解釈で聴く人が増えてきたんだと思う」

リジョイサー「そもそも、僕らはトラディショナルな音楽をやっているわけではないしね。僕とケレンの両親はヒッピーでね。そういう環境で育ってきたから、自分がやりたくないことを無理にやらされることもなかった。だから今でも、特定のカテゴリーに収まるようなことはやりたくない。僕はイスラエル人やジャズ・ミュージシャンとかである前に、僕というひとりの人間なんだ。だから、これからも自分らしいことをやりたいと思う」