Page 2 / 2 1ページ目から読む

曖昧な境界を過ごす時間

 それぞれのパートが絶妙なバランスで絡んで生み出される太いグルーヴ。そこに乗るメロディーは淡々としているようで味わい深い。リズムの存在感が前に出がちだが、メロディーを活かすためのリズムだったのは先に述べられた通り。では、ソングライティングの方向性はどのように変化したのだろう。

 「今回のアルバムで、これまでと大きく変わったのはメロディーだと思ってて。もともと歌い上げるタイプの曲はそう多くはなかったけど、さらにもうちょっと抑えようと思ったんです。ヘタしたら(耳に引っかからずに)流れていってしまうかもしれないけど、飽きずに何回も聴けるようなメロディーになればと思って。言葉も乗せやすくなる気がして」(豪文)。

 「音の絡み方はこれまでで一番おもしろいと思ってて。そんななかで、これまではサビが来たら、アレンジもそこそこ盛り上げたりしてたんですけど、今回は〈あえて盛り上げないで良い感じにするにはどうしたらいいのか〉っていうのを個人的に考えていましたね」(友晴)。

 そこで思い出されるのが、二人が「曲同士が滲んでいるような」アルバムをイメージしていたということ。曲の途中に一旦終わったかのようなブレイクを挿んで続いていく“二度も死ねない”や、途中から別の曲のようにゆるりと変化していく“山をくだる”など、目鼻立ちはクッキリしていないものの、それぞれに不思議なムードを持った曲がなだらかに繋がって、アルバムに大きな川のような歌の流れを生み出している。そして、一度、その流れに身を任せる心地良さを知ると、何度でも聴きたくなる麻薬的とも言える魅力が本作にはある。

 「これまでのアルバムのなかで一番統一感があると思ってます。まだ歌詞が出来ていない状態で曲順は早めに決まったんですけど、完成してみたら、前の曲と同じ言葉が別のニュアンスで次の曲に入っていたり、フルートとサックスが交互に入っていたり、偶然なんですけどなんかいい感じの流れになっていたんです」(豪文)。

 そんなふうにサウンド面でアルバムに統一感を持たせる一方で、歌詞に関しては共通したテーマやイメージがあったのだろうか。

 「最初から意識していたわけじゃないですけど、後から思ったのは〈時間〉のことを考えて作っていたのかなって。それで〈時間〉というキーワードをアルバムのタイトルに入れようと思って、『The Blue Hour』にしました。〈ブルー・アワー〉というのは、日の出前とか夕暮れ時の時間帯のことなんですけど、そういう曖昧な境界的な時間を過ごしているようなイメージがこのアルバムにはあって。〈ブルー〉には〈憂鬱な〉って意味もあるし、前半は悶々とした感じだけど、後半からちょっと明るくなって微妙に変化する感じとかも〈ブルー・アワー〉っぽいなって」(豪文)。

 「そう。だから、このアルバムは頭から通して聴いてほしいですね」(友晴)。 『The Blue Hour』とは、キセルの歌と一緒に過ごす時間でもある。それはささやかだけど、かけがえのない時間になるはずだ。

 

文中に登場したアーティストの関連作品。

 

キセルの作品。

 

キセルのライヴDVD。