優しい存在でありたい

 初めてクラブに足を踏み入れた時を思い返して歌う“Mirror Ball”や、疾走感のあるビートを駆け抜けるリリックの背景に彼が居を構える下北沢の風景も映り込む“この夜を超えて”などを経た“Happiness”は、身近な存在の死も引き寄せたペンがとりわけ彼の心をより深く掘り下げた曲に。もの哀しくも響くピアノやドラム・ループをバックに、エモーショナルな語りが届く。この曲はNHK近くの地下駐車場で声を録ったとか。

 「プロデューサーさんに〈これちょっと変わった感じで録れたらおもしろいね〉って言われて、〈昔iPhoneのボイスメモでよく録ってましたよ〉って言ったら、〈OK。じゃあそれやってみよう〉ってことになって。内容的には悲しみの中の喜び、喜びの後の悲しみ。ずっと一緒にいたいけど、人はいつか死んでしまうじゃないですか。いろんな人たちと笑って過ごしてる時間も、例えば死ぬ時に覚えてるのかなあと思ったりしてしまうし、いままで出会った人間で、これから先もう2度と会わない人もいるかもしれない。ホントにみんなどっかで笑ってくれてたらいいなあとか、いろんな思いが詰まってますね」。

 〈これから僕の目だけにしか映らない/目的地を探す旅に出るんだ〉――そう歌われる“Train”の歌詞の最後のライン〈Train Train 未来は僕の手の中〉は、言うまでもなく彼が敬愛するTHE BLUE HEARTSへのオマージュも含むものだ。そして、彼らに対してRude-αが抱く思いは、いちラッパーとして彼がめざすものでもある。

 「THE BLUE HEARTSがいいなと思うとこって、くどい言い方とかをせず、まっすぐな感じで、自分が子どもの頃に描いてたヒーロー像に当てはまってるんですよ。『少年ジャンプ』のマンガの主人公とかって、みんな強いけど優しくてまっすぐじゃないですか。フリースタイル・バトルが流行ってたりするのもあるけど、やっぱりラップって世間のイメージ的に暗い方向だし、怖い文化みたいな印象もある。自分も昔、母親に〈ラップ始めたから〉って言ったらけっこうそういうこと言われたんで。でも俺は教会、みんなの救いみたいな優しいところにいたいんです。このEPでもホントにストレートにモノを言おうとしてるので、通して聴いた時に恥ずかしいとかクサいとか思ってしまう人もいると思うんですけど、人の本質的な部分はそういうものだと思うし、こういうスタイルで走っていくよって感じです」。

 「自分が育った街にも、ここまでできるんだぜって見せたい」とも話してくれた彼の夢は、地元のヒーローとして、末は日本武道館のステージに立つこと。今回の『20』で、その歩みが本格的に始まる。

 「僕が小学生ぐらいの時はORANGE RANGEが地元のヒーローだったんですけど、自分がこうして音楽をやってることによって、子どもたちが声をかけてきてくれたりとかするんです。そういう子どもたちが大きくなった時にそのヒーローが自分だったらいいなと思ってるし、誰かが何かを始めるきっかけになれたらいいなと思います」。

 

Rude-αが自主企画ライヴ・イヴェント〈TEEDA〉に招いたアーティストの作品を一部紹介。