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自分たちを定義しなきゃ

 〈I'm a stranger〉という歌い出しで始まる本作の1曲目は、変則的な4つ打ちとアシッドな音像が池貝の混乱した内面を想起させる“Hypnosis”。ミニマルなサウンド・メイキングが際立つ“Nomi”や、魅惑のハイトーン・ヴォイスによるメロディアスな“Rude”など、アルバム前半は基本的に穏やかでありながら、同時に胸のざわつきも感じさせ、内省の時期が強く反映されているように感じられる。

 「最初の頃は普通にヘコんでたんで、ドーターとかをよく聴いてたんですけど、揺れるビートに飽きたのもあって、一時期はひたすらクラブに4つ打ちを聴きに行ってた時期もあったり。でも、XXとかケレラを聴いて、〈本質は歌だな〉って思ったんですよね。僕はもともとトム・ウェイツが大好きだし、ソングライター・タイプが好きで。最近一番ヤバかったのもジュリアン・ベイカーのライヴですし」(池貝)。

 「実際の作り方の変化で言うと、今回はとにかく〈僕たちのなかでの絶対的な解〉を探すことに時間を使いました。ファーストのときはリファレンスのなかから相対的な解を探そうとしていたけど、そうじゃなくて、あくまで自分たちがしっくりくる音を探す。〈汚して、詰める〉っていう作業をギリギリまでやった感じですね」(篠田)。

 アルバム中盤のキー・トラック“Polytheism”には、以前からファンを公言していた韓国のヒップホップ・デュオ、XXXのラッパーであるキム・シムヤが参加。ヴォーカル・エフェクトを用いた池貝の歌とキムのラップが鮮やかな対比を生んでいる。

 「アルバムのコンセプトとして、〈仏教感があるものを作りたい〉っていうのもあったんです。去年はマジ辛かったんで、輪廻を一周させたくて(笑)。あと自分たちの素性を隠すことでこんなに誤解されるなら、ちゃんと自分たちを定義しなきゃって思ったときに、〈クール・ジャパン〉とか〈サムライ〉みたいに表層的なステレオタイプじゃなくて、〈日本人ってこう考えがちだよね〉っていう、インナーの精神面のほうがアイデンティティーを打ち出せるとも思って。“Polytheism”はその仏教感が一番出てる曲だと思うんですけど、トラックに合う〈仏教フロウ〉が出来たんですよ(笑)」(池貝)。

 「チベットのお坊さんのチャントっぽいよね。で、〈フロウ〉って観点で見たら、これにキム・シムヤを入れたらおもしろいんじゃないかなって。汎東アジア的な感じも出るっていうか、日本だけじゃないカラーがあるのもいいなって」(篠田)。