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DENMARK 
 

――続いてデンマークにいきましょうか。

オナガ「デンマークからは、スローター・ビーチというバンドのアルバム『Slaughter Beach』を2016年にリリースしました。彼らのことを紹介してくれたのは、さっき話にも出たストレンジ・ハローズやカックマダファッカなどをリリースしているノルウェーの〈ブリリアンス〉というレーベルなんです。スローター・ビーチは、クリエイションに所属していた90年代のバンドがすごく好きみたいですね。ティーンエイジ・ファンクラブやライド、マイブラみたいなバンドばかり聴いてて(笑)、それを彼らなりに解釈したサウンドを鳴らしている」

SLAUGHTER BEACH Slaughter Beach RIMEOUT RECORDINGS(2016)

――やっぱり、若い世代にとって90年代のギター・ロックって新鮮なんでしょうね。振り返ると30年近く前にもなるわけで、90年代のバンドにとっての60年代が、いまの若い世代にとっての90年代なのかもしれない。畳野さんは彼らが強く影響を受けていた60年代のバンドについては、どんなふうに捉えていますか? ビートルズやキンクス、フーとか。

畳野「うーん、私自身のルーツは90年代だと思っていて、その時代のバンドが参考にしてきたような60年代の音楽もなんとなくは聴いているんですけど、例えばビートルズって、本当に代表曲しか知らなくて。掘り出すと止まらなくなるんじゃないかと思って、あえて避けているんですよね(笑)。あの時代の独特のサウンドは好きです」

――デンマークからも、継続的にいいバンドが出てきますよね。ミューもレヴォネッツもそうですし、アイスエイジやコミュニオンズもそう。

オナガ「特にアイスエイジ以降は注目されるようになりましたよね。彼らに影響を受けた若いバンドが、アメリカやイギリスからも登場するようになってきたし」

カジ「コペンハーゲンはまた独特のシーンがありますよね。他の北欧と繋がっているというのではなく、そこで純粋培養されたようなバンドが多い気がする」

オナガ「以前、ミューのヨーナス・ビエーレのインタヴューを観たことがあって、同郷のアイスエイジについて尋ねられたときに、〈まったく知らない。関わりがない〉って答えてたんですよ。だから、コペンハーゲン自体に〈上の世代から下の世代に受け継がれていく〉シーンみたいなものは根付いていないのかもしれないですね」

――カジさんはコペンハーゲンでレコーディングをしたことがあるんですね。

カジ「はい。2004年に出したアルバム『lov songs』は、スウェーデンとデンマークで録音したんですよ。(スウェーデンの)マルメとコペンハーゲンってすごく近いんです。最初に行った20年くらい前はまだ橋がなくてフェリーで行き来したんですけど、それでも1時間かからないくらいだったんです。2000年にオーレスン橋が出来てからは、車でも電車でも気軽に行けるようになって。20分くらいかな」

――どこのスタジオでレコーディングしてたんですか?

カジ「昔、コペンハーゲンにジュニア・シニアがレコーディングしたデルタラボというスタジオがあって。もともとスーパーヒーローズっていうバンドのトーマス・トールセンが作ったスタジオなんですけど、60年代のレトロ・フューチャー的な雰囲気ですごくカッコよかった。すべてヴィンテージの機材で揃えていて、コンソールも16チャンのアナログで」

――その頃のコペンハーゲンって、どんな雰囲気だったんですか?

カジ「当時はレヴォネッツやジュニア・シニアが出てきて、コペンハーゲンが最初の盛り上がりを見せていたころでしたね。とにかくジュニア・シニアが世界的に大当たりして、トーマス・トールセンがプロデューサーとして大ブレイクした頃。その後トーマスはR&BやEDMのプロデューサーとしてもっと売れっ子になり、日本人や韓国人のアーティストも多く手がけているそうですね。いずれにせよ、北欧はDIY精神が強いというか、自分でスタジオでもなんでも作っちゃう人が多い」

 

ICELAND
 

――アイスランドはまた独特の文化を築いていますよね。

オナガ「うちからはヴァーというバンドのアルバム『Vetur』を2016年に出していて、昨年末に来日もさせたんですよ」

VAR Vetur Rimeout(2016)

カジ「ジャケットはアイスランドの氷河ですか? めちゃくちゃ寒そうですよね(笑)」

オナガ「実は僕、今までアイスランドとまったく接点がなかったんですよ。行きたい国だし、音源も出したいと思っていたんですけど、どこから手をつけていいか分からなくて。しかも、僕のレーベルとマッチするような音楽がなかなか見つからなかったんですよね。で、ある時にようやく見つけたのがこのバンド。ただ、オファーしてから返事が来たのは1年後で」

――(笑)。時間感覚も壮大かつ雄大なんですね。

オナガ「で、出してみたんですけど、やっぱり他のバンドとはまったく違いますよね。言語もそうですけど、サウンドもまったく違う。彼らもシューゲイザーや90年代オルタナティヴ・ミュージックはすごく好きなんですけど、解釈の仕方が独特というか」

――この〈アイスランド感〉って何なんでしょうね。僕は昨年末に5日ほどアイスランドへ行ってきたんですが、そこにひろがる大自然の絶景を眺めていると、確かにこういうサウンドが頭の中に流れてくるんですよ。

オナガ「わかります(笑)。ほんと、アイスランドの音楽ってどれも映像的というか。行ったことはなくても風景が頭の中にありありと浮かんでくるんですよね」

――アイスランドはメタルも人気があって、シガー・ロスもかなり大きな影響を受けていると公言していますけど、メタルの要素もこの荘厳な音楽性には含まれている気がします。

オナガ「それに、島国で隔離されているというのもあるのかもしれないですね。そういえばヴァーのライヴを観にきてくれたお客さんが、うちで出している他の北欧バンドのお客さんとはまったく異なった客層だったんですよ。会話を聞いていると、〈この間レイキャヴィクへ行ってきてさ〉みたいなことを普通に話していて(笑)。アイスランドやその文化に深く傾倒している人がとても多い印象でしたね」

――レイキャヴィクの音楽シーン自体も、すごく狭いんですよね。僕が昨年末に行ったのはシガー・ロス主催のアート・フェスティヴァル〈Norður og Niður〉が主目的だったんですが、シガー・ロスの身内で固めたラインナップなのにやたら豪華でした。

オナガ「そうなんですよね。ソーレイというモール・ミュージックが出しているアーティストが12月に日本ツアーをしていたんですけど、ヴァーは彼女も繋がりがあると言っていました。また、ヴァーのギター&ヴォーカルのお父さんは、ビョークのツアーにも参加したことのある有名なオルガン奏者らしくて」

――不思議な国ですよね。畳野さんは、アイスランドの音楽は好きですか?

畳野「やっぱりシガー・ロスが好きですね。その流れでカイトとか。彼らはライヴも観たことがあります。ビョークは私、そんなに知らなかったんですけど、〈フジロック〉で2回(2013年、2017年)観て。それですごく好きになりました。去年に出た新しいアルバム『Utopia』もとても良かったですね」

――オナガさんとしては、他にアイスランドでオススメはありますか?

オナガ「アウスゲイルの甥っ子で、アクセル・フロヴェントというシンガー・ソングライターとか。基本的に弾き語りで、ちょっと叙情的な音楽性。声は確かにアウスゲイルっぽいですよね」

カジ「アイスランドのシンガーって、こうやってファルセット・ヴォイスで神秘的に歌う人が多いですよね。きっとアイスランド語の発音とも関係しているんでしょうけど」

オナガ「確かに(笑)。あと、フファヌというポストパンクとか、ダーク・ウェーヴ寄りのバンドも今注目されていますね。デーモン・アルバーンが超お気に入りでブラーのオープニング・アクトに彼らを指名したり、〈デーモン・デイズ・フェスティバル〉に出演させたりもしているんですよ」

★フファヌを紹介した記事はこちら

 

SWEDEN
 

――最後はスウェーデンの最新情報を教えてください。

オナガ「2017年はイェンス・レークマンのアルバム『Life Will See You Now』が出て、わりといろんなレコード・ショップでも展開してましたし、〈あれ、なんか久しぶりにスウェディッシュ・ポップが来てるのか?〉って感じでしたよね(笑)。昔から愛聴している人間としては、ちょっと嬉しい状況でした。若い子たちも、そこからスウェーデンの音楽に興味を持ってくれたらいいなって」

――やっぱりスウェーデンが北欧のなかでは、音楽的にはいちばん開かれている感じがしますよね。他の国に比べるとポピュラー性が強いというか。海外を意識している感じがする。

カジ「そうですね。アバとかいますし。ただ、今は昔ほど大きなシーンがないですよね。2000年代の半ばくらいは、スウェーデンのバンドも結構イギリスやアメリカで売れたし、そこにシーンがあった感じがするんです。イェンス・レークマンやホセ・ゴンザレス、ラヴ・イズ・オールっていうバンドなんかも出てきて」

オナガ「爽やかで切ないメロディーで、日本人が好きそうな音楽が多かったのが、2000年代頃のスウェーデンのイメージだった」

カジ「その後しばらくは、結構ダークな音楽が流行っていたんですよね。アメリカの影響だったのかな。それが、ここにきてようやくポップなシーンも戻ってきた感じ。去年はすごく良いアルバムやシングルが出ていたし、たとえばモリー・二ルソンとか大好きでした。これが大きな流れになると嬉しいですね」

――ここ数年は、ラストを筆頭にスウェーデン発のシューゲイザー・バンドも勢いある気がします。

オナガ「レディオ・デプトのブレイク以降、そういうバンドが増えましたよね。さっき畳野さんが話してくれた、アルパカ・スポーツも所属しているラグジュアリー(luxury)というレーベルからは、サンデイズやウェストカストなどちょっとシューゲっぽいサウンド、まるでペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートみたいなバンドが出ていて。その流れで、ヨーテボリ出身のアゲント・ブローというバンドが去年アルバムを出したんですよ。あまり話題にならなかったけど、カジさんはたぶんめっちゃ好きだと思います」

カジ「はい、聴いたけどめっちゃ好きでした。ちょっとゴスも入ってて」

オナガ「シューゲイザー・シーンは、スウェーデンに限らず定期的に盛り上がるんだけど、爆発しそうで爆発しきれない感じがいいですよね(笑)。あと、Homecomingsのメンバーがペイヴメントを好きだと聞いていたので、一つオススメのバンドを持ってきたんですよ。PNKSLM Recordings(パンクスライム・レコーディングス)というレーベルのアーティストはどれも超ローファイで、なかでもマジック・ポーションっていうバンドを聴いてみてください」

畳野「あ、いいですね。好きな感じです(笑)。これもスウェーデンのバンドなんですか?」

オナガ「そうなんですよ。ここのレーベルから出てるバンドの多くがこんな感じのローファイ・サウンドなんですよね。90年代のオルタナを通過しつつ、60年代のサイケ・ポップなども取り入れていて。ラグジュアリーとパンクスライムは、海外のインディー・ポップ好きはぜひ押さえておいてほしいレーベルですね」

――今回また、北欧の音楽をいろいろと聴いてみていかがでしたか?

カジ「やっぱり、90年代のUKやUSのインディー〜オルタナティヴな要素を独自に解釈しているバンドがすごく多いですよね。結構、世界的な流行りではあると思うんですけど、北欧のバンドはまた取り入れ方がユニークで、オリジナリティーに繋がっているのかも」

畳野「いろんな流れがあるんだなって、とても勉強になりました。北欧って一括りにはできないけど、その土地の風景や人柄が音楽性にも影響すると思うので、こういうカラフルな音楽を生み出す国々にとても興味があります。これからもっともっと、知りたいです」

オナガ「そうやって音楽をきっかけに、その国自体に興味を持ったり、実際に行ってみたりするのってすごく素敵なことですよね」

 


カジヒデキ
Live Information

2018年3月23日(金)京都 磔磔
2018年3月27日(火)東京・代官山 晴れたら空に豆まいて
2018年3月30日(金)京都 SOLE CAFE 
2018年3月31日(土)兵庫 BO TAMBOURiNE CAFE
2018年4月1日(日)三重・伊勢 FOLK FOLK
2018年4月3日(火) 東京・下北沢 SHELTER
2018年4月8日(日) 東京・恵比寿 LIQUIDROOM
2018年4月14日(土) 神奈川・横浜 STUDIO OLIVE
2018年4月18日(水)岡山 城下公会堂
2018年4月19日(木) 名古屋 K.D ハポン 
2018年4月20日(金) 静岡 QUATRE EPICE 静岡店
2018年5月13日(日)東京・代官山UNIT / UNICE
2018年6月16日~17日(土、日)〈YATSUI FESTIVAL! 2018〉

 

Homecomings
Live Information

2018年5月26日(土)〈Shimokitazawa SOUND CRUISING 2018〉