カラフルなアレンジのほうが、ミナちゃんの声質には合うんじゃないかな

――楽曲の骨子の部分はミナクマリさんが考えて、あとは2人でアレンジを詰めていく感じ?

清水「そうです。思いついたことは全て試していきましたね。よければ採用されるし、半日くらいかけて練ったトラックも、ダメだったらボツになる」

――シビアな世界ですね。清水さんが全面プロデュースしたアルバム『REHENA』から、サウンドがグッとカラフルになるんですよ。その前の『Meena』はアコースティックなアレンジと内省的な歌詞が印象的だったから、余計にそう感じるのかもしれないですけど。

清水「カラフルなアレンジのほうが、ミナちゃんの声質には合うんじゃないかなと思うんですよね。あと、今回のアルバムを制作している最中、昔やっていたブリッジというバンドの再結成があって(笑)。それがわりと、自分をポップ・モードに持っていった気がしますね。その影響を受けている気がします」

ミナクマリ「あと、YouTubeで日本の歌謡曲を沢山観てましたよね?」

清水「あははは。今年で僕は50歳になるんですけど、子供の頃に聴いていた歌謡曲を聴きたくなって、酔っ払った勢いでいろいろ漁ってたんですよ。歌謡曲からニューミュージック、ニューウェーブまで」

ミナクマリ「“与作”に入っているビブラスラップが好きなんですよね?」

清水「そんなこと言わなくていいのに(笑)。〈ミナクマリの音楽になら、何を入れてもOK〉と思って前作ではビブラスラップを入れています」

――昭和歌謡の魅力はどこにありますか?

清水「とりわけ70年代〜80年代の昭和歌謡って、LPにもストーリー性というか起承転結がしっかりあった気がするんです。何度も聴きたくなる感じというか……。そこは今回、影響を受けたかもしれないです。例えば、今回はまずアルバムの曲順を決めて、仮歌が入ったデモの段階でバーッと並べ、ざっくり流れを決めてから〈この曲順だったら、この曲を外してもいいかな〉という感じで練っていきました」

――逆に、流れに必要な曲を新たに書き足すことは?

ミナクマリ「何曲か書きました。採用されたのは1曲だけだったけど(笑)」

 

CHARAちゃんやU-zhaanは歌うことを後押ししてくれた恩人

――今、清水さんは長野に住んでいるんですよね? そういった作業はファイルでやり取りしたんですか?

清水「いや、ミナちゃんに長野に来てもらって、合宿レコーディングみたいに集中して制作しました。自宅が古民家で、そこでドラム以外の楽器を録音していったんです。エンジニアリングも僕がやりました」

――宮川剛さんが叩かれているドラムは、どこで録ったんですか?

清水「彼の部屋ですね。ドラムが叩けるプライヴェート・スタジオで、いろいろ無理難題を押し付けながら叩いてもらいました(笑)。彼は前作でも叩いてくれたし、僕の作品でも手伝ってくれているので、フォーメーションとしてはだいぶ固まってきたというか。かなりいいアンサンブルになりましたね」

『shanti, shanti, shanti!』収録曲“幸せの水”
 

――清水さんが、長野を拠点にしているのは何か理由があって?

清水「とにかくツアーの回数が半端なくて。多いときは年間120本くらいあって、ぜんぜん家にいないわけですよ。それなのに、都心でわざわざ高い家賃を払っているのはちょっと馬鹿馬鹿しい。母も高齢になってきているし、放ったらかしておくのも可哀想じゃないですか。長野だったら、東京との行き来もギリギリできる距離ですし。昔は遠いなと思ってたけど、ツアーで300キロとか当たり前に移動してたら、そんなに遠く感じなくなってきましたね(笑)。あと、音も良いんじゃないかな。東京だと、一つの電柱から沢山の集合住宅に電気が振り分けられてるけど、長野の田舎の方だとほとんど〈マイ電柱〉状態ですからね」

――(笑)。確かに、サウンドそのもののクォリティーも格段に上がりましたよね。

清水「ノイズは確実に少なくなりました。とにかく、祖父の実家なので〈いじり放題〉なんです(笑)。東京の賃貸物件では出来ないような、音響上の内装をいろいろとできる」

――ところで、お2人は以前からさまざま々なミュージシャンとコラボをしているじゃないですか? ミナクマリさんは、CHARA、ユザーンやゴンサレス三上(GONTITI)、mabanuaら、清水さんはネルス・クライン、オノ・ヨーコ、デヴィッド・バーンなど名だたる人たちと一緒にやってこられたわけで。

清水「ほんと、ラッキーだなあって思います。僕がミュージシャンになろうと思ったキッカケは、ジョン・レノンの『John Lennon / Plastic Ono Band(ジョンの魂)』(70年)を聴いたことなんです。そのプラスティック・オノ・バンドのメンバーに、自分が加わるなんて想像もしなかった。初めてショーン(・レノン)の自宅に行った時、リビングに〈ジョンの魂〉と、ジョンの直筆のメッセージが飾られているのを見たときは、本当に不思議な気持ちでしたね。〈俺はいま、なんでここにいるんだろう?〉って(笑)」

――それはもう、すごい経験としか言いようがないです。

清水「ルー・リードとも、まさか一緒にやれるとは思っていなかったですからね。聴いているだけじゃなくて、一緒に演奏した人たちからはやっぱりものすごい影響を受けますね。小山田(圭吾)くんも本当に素晴らしいミュージシャンだと思うし。彼はブリッジのファーストのプロデューサーでもあるから、僕の人生の局面に登場する人っていう感じ(笑)」

ミナクマリ「以前、私は歌が苦手だったので(歌うことは)躊躇していたんですけど、U-zhaanやMONOのGOTOさん、CHARAちゃんに〈自分で曲を作るのなら自分で歌ったほうがいいよ〉というようなことを言われ、歌うことへの良いキッカケをもらいました。特にCHARAちゃんには時間をかけて私のデモ音源を何十曲も一緒に聴いてもらったり、いろんな素晴らしい演奏家の方と繋げていただいたり心から感謝しています。ゴンザレス三上さんやmabanuaくんは演奏者としても尊敬していますが、いつも心に留めてくれている気がするし、優しくて人柄も大好きです。

あと、やっぱりシミーさんは私の音楽人生の超重要人物(笑)。私が少しでも成長できるようにといつも叱咤激励してくれててありがたいです!!」

清水「(笑)」

――そういえば、ネルス・クラインがミナクマリのライヴを観に来たこともあるそうですね。

清水「そうなんです。高円寺のすごく小さなカフェでライヴをやってたらフラリと遊びに来て」

ミナクマリ「目の前で座って観てたからビックリしました(笑)」

清水「最初はマイク・ワットに紹介してもらったんですけど、その頃すでにウィルコのギタリストとして日本でもかなり話題になっていました。彼は本当に素晴らしい人物です。すごいジェントルマンで、優しくて気が利く人。音楽理論的なことでも、〈どうやってアプローチするの?〉と尋ねると、ネタをこと細かく教えてくれた。とにかく、今も僕を弟のように可愛がってくれてますね」

――レコーディングは無事終わりましたが、これから長いツアーが始まるんですよね。次の作品のことも考えていますか?

ミナクマリ「なんとなく(笑)。曲順も考えていますが、とにかく楽しいです!」

清水「本当にすごい勢いで曲を作るんですよ。ツアーやりながら、このペースで作るのって大変だと思うんだけど、やってのけてるから偉いなあと思います。見習わないと」

ミナクマリ「いやいや、皆さんに助けてもらってばかりです……!」

清水「レーベル、chai chaiの社長でもあるからね、これからもがんばって(笑)」

 


Live Information
「シャンティ シャンティ シャンティ!」ミナクマリ×清水ひろたか Live Tour
4/17(火)大分 宇佐・Michiyard cafe
4/18(水)熊本・sazae
4/19(木)長崎 佐世保・TEATRO
4/20(金)長崎・デモッソ・ノット・キーノ
4/21(土)長崎・Kuriya (チャイのブレンドワークショップ)
4/22(日)福岡 糸島・安蔵里かふぇ
4/23(月)福岡 港・Cafe & bar Brisa do
4/26(木)広島・ 音cafe Luck
4/27(金)兵庫 神戸・ボナルーカフェ
4/28(土)愛知 新安城・カゼノイチ
4/29(日)千葉 西千葉・1room
4/30(月・祝)東京 稲城・いな暮らし
6/16(土)新潟 新発田・金升酒造
6/17(日)山形・称念寺
6/19(火)秋田 横手・CAMOSIBA
6/20(水)青森・cafe0371
6/21(木)青森 野辺地町・柴崎牧場拓心館
6/22(金)秋田・エレファントトーク
6/23(土)山形 鶴岡・orphans
6/24(日)宮城 名取・熊野那智神社
6/29(金)東京 目黒・蟠龍寺
7/1(日)山梨 北杜・Night Market
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