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音楽が鳴る場所って、なんかこれくらいじゃない?

――リード・シングルとして発表した“スウィートテンプテーション”も、苛立ちや疑問点を出発点に、今いる場所から出発する歌詞になっていますね。〈君の声がしない場所まで旅を続けよう〉という言葉は鮮烈だし、ある種のファンにとってはギョッとするようなフレーズだと思いました。

「その言葉から曲が出来ていったんですよ。なぜか出てきて、自分のなかでも〈そうだ! そうだ!〉となった。これはGUGにとってアティチュードの歌ですね。だから、“the band”と同じことを歌っているとも言える。とりたてて何かエピソードがあったというわけではなく、普段思っていることが自然と曲になった。サビにある〈愛と絶望と/馬鹿のしがらみと〉という言葉――あの一節を歌っているときには、なんかこう浄化されるような気がするんです」

――“スウィートテンプテーション”はパワフルなアメリカン・ロック調ではじまり、サビでいきなり3連になるのがおもしろいですね。

「自分たちでも、〈なんでこれにしたんだっけ?〉というよくわかんないのが今は良いなと思っています。〈なんでシャッフルの展開にしたんだろう?〉とか、そこに関しては全然意味とかないんですよ。単純にこのままのアレンジだとダルくなりそうだったから、〈あ、じゃあ俺あれやってみたい〉ってポール・ウィリアムスの“Someday Man”をメンバーに聴かせた。あの曲もサビでシャッフルになるんですけど、ただただ、あれをやりたかったという」

ポール・ウィリアムスの70年作『Someday Man』収録曲“Someday Man"
 

――なるほど、ポール・ウィリアムスだったんですね。自分はコーラスの展開にはナイアガラっぽさを感じてました。

「それね! 実際シャッフルにしたうえで、じゃあアコギをダブルにして、ちょっと大滝詠一みたいな雰囲気も入れようとなりました。今のGUGは、ほんとそういう楽しみ、ふざけの延長線上にある。でも、バンドって〈誰もやってないことをしなきゃ〉とかストイックになりがちなんですよ。別に誰かがやってても、自分が楽しければいいじゃんね? 昔は根詰めて朝までレコーディングしたりもあったけど、なんかね……もう無意味だなと思って(笑)。とにかく今はApple Musicとかもあるから、あの曲のあのアレンジが良いんじゃない?となれば、みんなでパパっと聴いて、やってみて……」

――そのフットワークの身軽さが、アルバム全体の風通しの良さに繋がっている気がします。

「もちろん歌がある前提での話ですけどね。〈“Someday Man”みたいな曲を作りたい〉ってわけではなくて、〈これだったらアレがハマんじゃない?〉という」

――昨年、“超新星”を出したタイミングでのインタヴューで、松本さんが〈ブルース・スプリングスティーンを発見した〉とおっしゃっていたじゃないですか? 今回の作品は、GUG史上もっともスプリングスティーン感のあるアルバムだと思います。

「いなたいものをカッコイイと思える歳になってきたんだなというのもあるし、なんだろな……昔のレコードを聴いていると、一個一個の音はしょぼくても、合わさったときになんかもう、これでしかありえないような仕上がりの作品ってありますよね。そういうのが結構バンドの匂いというかクセの部分になっていると思う。編集ありきの考えはやめて、均して綺麗にしないようにとは意識していましたね」

――特に初期のスプリングスティーンは、後年の〈マッチョイズムの象徴〉的な誤解もまだなくて、場末のロックンロール・バンド的な愉しさがありますよね。そのムードは今作にも通底している気がしました。

「街のパブ・ロックというかね。働いて、帰ってきて、ギター持って、パブでライヴする、そういうのがいちばん良いなと思うし、今は結構理想的なんじゃないかなと思ってる」

――オールディーズ/サーフ・ポップ風の“ペパーミントムーン”やストンプ・リズムの“アワーハウス”などはパブ・ロックの風景に合いますよね。酒場があり、酒があり、バンドがいて音楽が鳴っている、だけど、音楽がすべてではなくて身体を揺らしている奴もいれば、話し込んでる奴もいて……。

「寝ちゃってる奴もいたりね(笑)。自分が夜遊びに行ったときでも、好きな風景は床で寝ている人がいるとか、半裸で踊ってる輩がいるとか、そんなムードなんですよ。音楽が鳴る場所って、なんかこんくらいじゃない?みたいな。それがちょうど良いし、それ以上になるとショーや演劇のスタンスになってくるんだなと思う。でも、俺の好きな音楽に関しては、もうちょっとフラットで、いろんなことを気にせずに、なんていうか自由にできたらいいのになって思うし、まだ不自由だなってところもたくさんある。ただ、偉そうに言うなら、そういう俺の哲学は、どんどん作品に反映できるようになってきたと思う。勝手に乗るようになってきたんです」

 

〈ライヴには行けない、もうCDを買ってない〉―全部それで良いと思うと言いたい

――とはいえ、アルバム全体としては愉しいだけではなくて、メランコリアや翳りもある。たとえば“HOBO”なら夜明けにバーを出て孤独に帰路を歩いている感じというか。

「“HOBO”に関しては、俺としては土臭すぎて、最初はボツ方向でもあったんですよ。これ、ちょっといなたすぎるかもなってのがあって。ただ、iPhoneに入れてたデモをナカザが聴いたとき、〈これは相当良いんじゃないの?〉という話になった。そこで、〈まぁ一回録ってみよう〉とデモを作ったとき、俺も〈良いかも〉と思えて」

――実際、懸念された土臭さは払拭されていると思います。ギター・サウンドの刺々しさ、立体的なドラムの配置だったり、プロダクションにはグランジ感があるような。

「グランジ感は相当近いと思うな。俺とナカザはもう中学校から一緒にいるから、あいつは俺が良いなと思う感じとか、たぶん全部わかっているんですよ。たとえば中学校のときに、ケルアックの『路上』(57年)を、〈これ読まないとヤバイらしいぞ〉って読んでみて、ナカザにも貸すみたいな。そういう共有があるから、話が早いってのはある。“HOBO”も、〈なんかさ、ケルアックの感じでやろうよ。だけど渋すぎないようにさ〉って。〈ガソリンスタンドで働いている兄ちゃんが、仕事おもしろくねぇなって思いながら弾くギターの感じでやってみてよ〉とか、そういう言い方で通じるんです(笑)。2人だけにわかる言葉で話せる」

――理想のパートナーシップですね。そんな中澤さんが今回書いた“スターシェイカー”は、ブリット・ポップ的とでも言いたいグルーヴィーで快活なロック。

「俺は〈もう9曲で良いな〉と思っていたんですけど、ナカザが“スターシェイカー”のデモを送ってきたんです。そのときなぜかクーラ・シェイカーをめちゃめちゃ聴いていて(笑)。今クーラ・シェイカーとか言うと笑われるだろうけど、〈これ、やっぱ相当カッコイイぞ〉と思ってたときにデモが来たから、ナカザに〈クーラっぽくしてみよう〉と戻して。次のリターンには、あの当時のUKロック特有な跳ねたリズムで返ってきたんです」

――リズムという点で訊くと、“もしも”はうっすらと打ち込みのビートを重ねていますね。なにか参照点はあったんですか?

「えーとね、“もしも”のあの感じは、ムーディマンじゃないかな」

――ムーディマン!

「ムーディマンとかデトロイト・ハウスって、テンポもそんなに速くないじゃないですか。カッチリもしてなくて。ああいうのがポコッと入ってくるといいなって」

――キックの音像がくぐもっている感じなど、すごく納得できました。この曲は轟音ギターも特徴ですよね。今回は、ギター・サウンドがものすごく多彩で、中澤さんの調子の良さが窺えるなと思いました。

「調子が良いというか……元に戻った、かな。俺から言うとそっちのほうが近いかもしれない。それはナカザの人生経験をふまえてのことだと思うし、具体的に言えば俺はやっぱりぐっちゃん(橋口靖正)が死んでからだと思っているんです。橋口くんが亡くなった瞬間、なんかもう完全に中澤が戻っていたっていうかね。それはね、あの日を境に俺が感じていること」

※GUGのサポート・キーボーディスト、2016年12月8日に急逝した

――ええ。

「『FILMS』はナカザがいないと出来なかったんじゃないですかね。12歳のときに2人で〈バンドやろうぜ〉と言って、まだMTRとかも持ってないから、ラジカセで重ねて録音していたような雰囲気で作れた。だから、本来のやり方に戻ったってのが、自分たちのなかでは納得いく言葉というか。そこで石原はね、もうまったく変わらず(笑)。誰にも迷惑かけない妖怪みたいな、部屋の隅で佇んている感じ。でも、それもGUGだと思うし」

――以前、〈最近は、昔GUGを聴いていた人に、今のGUGを聴いてもらいたいと思う〉とおっしゃってましたよね。そういう、いわば同世代にあたる、かつてのリスナーへの眼差しが作品としても貫かれていると思います。

「同世代にかぎらず、昔の友達に電話する感覚じゃないかな。〈まだ音楽を聴いているのかな?〉とか、〈まだレコード買っている?〉とか、その感じ。〈何、買ってんの?〉〈あ、最近はもう全然買ってないんだー〉――そういうやりとりをするようなね」

――それは『Out Of Blue』のときとは、また違う視点だと思います。あのときは、〈音楽がないと生きていけない人にGUGを届けたい〉とおっしゃっていて。

「今もその気持ちは持っているけど、その〈音楽がないと生きていけない人〉ってそもそも俺自身のことなんですよ。だから、自分に向けている側面もあるし、やめていったメンバーとか……いなくなった人たちに向けている面もある。20年もやっていると、同時期に登場したバンドでも残っている人たちは数えるほどしかいないし、そういうなかで自分たちは〈俺たち、まだ売れて、これやりたいんだ!〉みたいな目標もないのに、よーやってんなとも思う。実際、俺の嫁さんから〈なんでやってんの?〉って言われますし(笑)」

――ハハハ(笑)。

「ただ、バンドマンであろうがなかろうが、多かれ少なかれそういうものを抱えながらみんな生きていると思うんです。実際ライヴの動員とか、そりゃ減るだろうなと思いますよ。明日、仕事だったらライヴ行くより、寝てなきゃダメだろうし。俺たちはバンドマンという視点で見ちゃうけど、そうじゃない立場を考えてみると、なんだろうな……いろんな理由があるなかでライヴに行ったり、CDを買ったりするんだろうし、〈レコードはもう全部売っちゃってないよ〉という人がいることも想像できる。

俺はそれらのすべてを〈全肯定してたい〉んですよ。その人なりに一所懸命やっていれば、鼻で笑いたくないし、〈あいつさー〉っていうのも言いたくない。〈全部それで良いと思う〉って言いたいし、それで大丈夫だと考えていたいんです。自分たちの作品でも、そこは正直にやりたいと思う。この世の中のほとんどは、正しくもないし間違ってもないと思うから、そのなかで音楽をやって、今このキャリアでこの年でこの関係性で出るものをちゃんと出したい。そういう気持ちだからこそ、今は他人に対しても〈あいつ、何してんのかな?〉って考えるんです」

 


Live Information
〈GUG 20th ANNIVERSARY RETURN OF THE ICE CREAM TOUR〉

2018年10月27日(土)千葉LOOK
2018年10月28日(日)栃木・宇都宮HEAVENS ROCK
2018年11月2日(金)宮城・仙台enn 2nd
2018年11月4日(日)名古屋CLUB UPSET
2018年11月11日(日)福岡Queblick
2018年11月18日(日)大阪・心斎橋JANUS
2018年12月1日(土)東京・代官山UNIT
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