Page 3 / 3 1ページ目から読む

DISC GUIDE FOR SEASONS

JORJA SMITH Lost & Found FAMM/The Orchard/HOSTESS(2018)

エラ・メイがマスタードなら、ドレイクとの邂逅で北米進出を果たしたのが彼女。物憂げで情熱的な歌声の印象もダブるが、ジョルジャの影響源は00年代のR&Bやネオ・ソウルで、コンシャスな出世曲“Blue Lights”でのディジー・ラスカル曲使いなどUKアンダーグラウンドの出自も匂わせる。『Black Panther: The Album』で同席したSZAにも通じるブルーなフィーリングが渦巻く。 *林

 

NAO Saturn RCA/ソニー(2018)

シックの復活作にも参加していた歌姫のセカンド・アルバム。ムラ・マサなどを招いてUK的なエッジを究めつつ、エリカ・バドゥ“Next Lifetime”へのオマージュ的な“Another Lifetime”やSiRとの“Make It Out Alive”などで見せるレイト90sへの憧憬はエラ・メイにも通じるものだ。クワブスとのデュエットでも際立つ速回ししたようなハイトーン・ヴォイスの澄んだ響きは唯一無二。 *林

 

H.E.R. H.E.R. RCA(2017)

エラの“Gut Feeling”に参加しているのは、〈Having Everything Revealed〉を名乗るヴァレホ出身の21歳。正式なアルバムにはまだ至っておらず、フィジカルで入手できるのも2作の配信EPをまとめたこのLPのみだ。謎めいた雰囲気より何より歌がいいのは言わずもがな。フューチャーの『Superfly』や別掲の『Uncle Drew』といったサントラでも参加曲を聴くことができる。 *出嶌

 

TONI BRAXTON Sex And Cigarettes Def Jam(2018)

新世代の女性R&Bシンガーたちの歌唱にいまもっとも色濃く影を落としているのがトニ・ブラクストンの物憂げで切なげなヴォーカル。となれば、ここにきて本人がふたたび好調なのも納得がいく。恩人であり続けるベイビーフェイスも絡んだこの最新ソロ作ではウィークエンドあたりの空気を纏いながら90年代的な自身のシグネイチャーを決め込み、改めて後進の手本となるかのようだ。 *林

 

TINASHE Joyride RCA/ソニー(2018)

マスタード製の楽曲(“2 On”)でブレイクしたという意味ではエラ・メイの先輩とも言えるティナーシェ。メジャー3作目ではミーゴスのオフセットを迎えたトラップやタイ・ダラー・サインらとのトロピカルなダンスホールを奔放に乗り回すだけでなく、ジャネット~シアラ的な高音域から表題曲などでのトニ・ブラクストンっぽい翳りのある低音域まで、ヴォーカルの自由度も実に高い。 *林

 

ALINA BARAZ The Color Of You Mom+Pop(2018)

ガリマティアスとのアンビエントな共同名義作を出した2015年頃なら〈オルタナティヴR&B〉と呼ばれたかもしれないが、現在は“Electric”をデュエットしたカリードと共に本流を行く。カリードとふたたび共演した“Floating”を含め、ゆるふわなスロウをジェネイ・アイコ系の人懐っこくセクシーなヴォーカルで歌っていく初ソロ作は、全体が〈Boo'd Up〉なムードに包まれている。 *林

 

PLEASURE P She Likes X-Ray(2018)

フロリダ熱が凄まじかった2000年代半ば、ヒップホップ・マインドを下地にしたナスティーな兄弟グループのプリティ・リッキーでブレイクし、離脱後にはソロでも成功を収めていたプレジャーPが(一応)新作を発表。現行ラップ作法を流用しても若作りにならないのは流石だが、より魅力的なのは時流への色目よりもオーセンティックな歌唱の放つ色気だ。飾らないスロウが絶品。 *出嶌

 

K. MICHELLE Kimberly: The People I Used To Know Atlantic(2017)

リル・ロニーが制作の中心となった最新作。もともと歌ぢからで勝負してきた人だが、プライヴェートを曝け出した私小説的な内容の本作では過去最高にエモーションが炸裂。ジェイ・Z“Song Cry”のR&B版とでも言うべき“Make This Song Cry”などのバラードを全身全霊で歌う彼女は、もはやソウル・シンガーといった趣だ。クリス・ブラウンとの共演にはエラ・メイと似た空気を感じる。 *林

 

VARIOUS ARTISTS Uncle Drew RCA/ソニー(2018)

新旧NBA選手が老人に扮したバスケ・コメディー映画のサントラはヒップホップに加えてR&Bのトレンドも伝える内容。カリードのスロウ“Stay”、ネイオがハイトーン歌唱を響かせるティーナ・マリーのブギー名曲“I Need Your Lovin'”、そしてトーン・スティスが甘い声で本編のダンス・シーンそのままに若さを振りまくニュー・ジャックな“Light Flex”は〈現代の歌声〉の好サンプルだ。 *林

 

LLOYD Tru LP Young Goldie/Empire(2018)

キッズ・グループのN・トゥーン時代から数えれば、まだ32歳の彼もキャリア20年の大ヴェテランだ。メジャー時代にサグな色男を気取った反動なのか、公開時にフルチンのジャケだけが話題になってしまったブツだが、単純に7年ぶりの待望作として味わいたい。盟友ジャスパー・キャメロンを総監督に迎え、ラッパー陣も交えつつ甘悶えするようなアトランタ・ソウルを披露してくれる。 *出嶌

 

KALI UCHIS Isolation Rinse/Virgin(2018)

“Tyrant”で共演したジョルジャ・スミス同様、コロンビア出身の彼女もR&Bの越境を象徴する存在だ。ゴリラズやスティーヴ・レイシーも駆けつけたこの初作は、ヒネリの効いたポップネスもさることながら、妖艶なヴォーカルが何よりの魅力。ブーツィー・コリンズとタイラー・ザ・クリエイターを迎えたサイケ&メロウな“After The Storm”をくねるように歌う様は現代のシルヴィア、か。 *林

 

EN VOGUE Electric Cafe En Vogue/eOne/ビクター(2018)

SWVやTLC、デスチャらの大先輩にあたるキャリア30年のグループがゴチャゴチャを乗り越えて発表した15年ぶりのアルバム。フォスター&マッケルロイの指揮下でクラシック・ラインナップの半分が在籍している変わらなさも凄いが、にもかかわらず奇を衒わないEVの品格が時を越えてモダンに響くのはもっと凄い。現行シーンに与えている影響の大きさも逆によくわかる傑作だ。 *出嶌

 

DERRIC GOBOURNE JR. Supremacy Derric Gobourne Jr./Pヴァイン(2018)

リヴァイヴァルが叫ばれるニュー・ジャック・スウィングに愛を捧げ、臆面なく模倣してみせた若きシンガーのデビュー盤。ガイ“Teddy's Jam”の換骨奪胎的な“She Makes Me Feel Good”などNJS特有のハネたダンス・トラックに無条件で持っていかれるが、ヴォーカルはゴスペル直系ではなくライトで甘めなのが現代らしい。ブルーノ・マーズ的な清々しさも好感な快作だ。 *林

 

LENNY HAROLD Cosmic Drink Up The Music/Pヴァイン(2018)

テディ・ライリーの抜擢を受けてブラックストリート2で活躍し、グループでの来日歴もあった情熱的なヴォーカリスト。こちらはグループ脱退を経て作り上げたソロ・アルバムで、彼一流のスムースな品格をヴェテランのアルマンド・コロンが控えめにバックアップしている。テディのお眼鏡に適った歌声の力強さも軽快なアップ・チューンで感じることができる、端正な一枚だ。 *出嶌

 

CASE Therapy X-Ray(2018)

華のある実力派シンガーが次々と表舞台に出てきた90年代とは何だったのか……と思わざるを得ないほど、この時代のアクトは本当に息の長い支持を獲得している。『Heaven's Door』から3年ぶりに届いた新作もまずまずの堅調で、テディ・ライリーとタンクが集っているのはキース・スウェット新作にも通じる。こちらも息の長い112からスリムが馳せ参じているのも聴きどころだ。 *出嶌

 

911 The Pressure Pヴァイン(2018)

これもNJS再燃~テディ・ライリー再浮上がもたらした産物か。元ベーシック・ブラックのウィルター“ムーチョ”スコット率いるヴォーカル・トリオが90年代にテディの助力を仰いで吹き込んでいた未発表アルバムの公式リリース。ブラックストリートと同じ時代感を持った正真正銘の90s R&Bで、濃厚だがしなやかなリードと端正なハーモニーはさすがに後進には真似できぬ味わいだ。 *林