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8ビートを演奏しないバンド

――今回の新作もですが、セカンドからブラジル音楽の影響がはっきりと出るようになりましたよね。もともとお好きだったんですか?

黒澤「カエターノ・ヴェローゾとアート・リンゼイが好きなんです――明るすぎないブラジル音楽というか。ファーストのときはアート・リンゼイを意識して、ちょっとノイズを入れたギターを上野(翔)くんに弾いてもらったりして」

――カエターノはどういうところがお好きなんですか?

黒澤「いちばん好きなアルバムは『Livro』(97年)なんです。ちょっとインテリジェンスがあるというか、ダークさもあるんですけど、リズムはブラジルっぽい。そういう別のものが2つある感じがいいなあと。リズムだけ聴くと明るく感じるような曲も、上に乗ってるメロディーとかコードが全然そうじゃないので」

――そういったものをご自身の音楽に落とし込むとき、どうアプローチするんですか?

黒澤「自分はあんまり技術とか音楽理論とか、そこまで深く知っているわけではないので、わりと想像というか。あまり完璧にまねできてはいないんですけど、それはそれでいいかなと」

石黒「そう恐縮されてるわりには、曲の構造もコード進行もよく出来ていると思います。特に今回のサードになってそう思いますね。ファーストのときはもっとループが中心だったのが、展開していくものになった」

――例えば新作では“瑕疵の日”は複雑な構造を持っていますよね。前半は7拍子もあって。毛玉はリズムやビートが多彩なバンドだと感じます。

露木「毛玉は8ビートが全然ないバンドなんです(笑)。それは僕がそうしているわけじゃなくて、黒澤くんの曲に合わせたらそうなったっていうだけで」

黒澤「最近は8ビートの曲もあったほうがいいのかなと思って、そういう曲も作っていますね。でも、露木さんのオリジナリティーも強いと思います」

露木「初期の頃は、あんまり普通のことはやりたくないという気持ちが僕にもあったから。最近は、むしろ普通に寄っていったほうがいいんじゃないかと思うけど(笑)」

 

ギタリスト上野翔の不在

――今回のアルバムはこれまで以上にポップで聴きやすい作品だと思います。どうしてこういう方向性になったんでしょう?

露木「さっきと同じ話になっちゃうけど、黒澤くんの精神性や生活環境の変化が意図せずとも影響してるんですよね。今回、安定した家に引っ越ししたことか、そういうことがすごく影響している」

――ジャケット写真がベッドタウンの風景ですよね。表題曲の黒澤さんのポエトリー・リーディングではニュータウンを描写しているように感じます。そういうところに引っ越されたのかなと想像できますね。それまでは安定していなかったんですか(笑)?

露木「ファーストの頃は、わりと荒んだ生活をしてましたね(笑)」

――今回、ギタリストの上野くんは3曲のみの参加に留まっていますね。

黒澤「活動休止中なんです。なので、その3曲は休止前に録っていたものですね」

露木「上野くんの録音を、なるべく残そうと思ったんです」

――すごく存在感がありますよね。

露木「ライヴのときはそれほど感じないんですけど、僕はレコーディングするときに喪失感をすごく感じてて。上野くんがいる曲といない曲とでは、全然違うんですよね。こういう言い方は良くないけど、彼が全曲に関わっていたら、もっと強力なものになっていたかなって。上野くんがいると尖った部分が注入されるので、彼が参加していない曲はただソフトになるんです。上野ファンも多いんだよね(笑)。ライヴをやると、上野くんがいちばん褒められる」

石黒「けっこう〈毛玉らしさ〉を背負っていましたよね」

露木「ミニマルなフレーズを作ったりとか、独特だしね。この間ラジオに出たとき、石黒さんは〈今回のアルバムは3パターンある〉って言ってましたよね」

石黒「〈上野くんが参加してる曲〉と〈上野くんと合わせたけど、レコーディングには参加してない曲〉と〈ほぼ3人だけで作った曲〉ですね。例えば、“都市の時間”は上野くんがフレーズを作ったんですけど、黒澤さんが代わりに弾いてるんです」

露木「上野くんがいたらどうなっていたんだろうと思う曲もありますね」

――〈上野ロス〉は大きいんですね。