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アンダーグラウンドではなくインディペンデント

――スマッシュさんは昨年の上海・台北編から加わったそうですね。

河合「ぶっちゃけこの2人(倉橋慶治、山本紀行)がいなかったら、(上海と台北は)失敗してましたね(笑)。マジで、失敗したと思います」

――ちゃんとイヴェントのプロがいないと。

ロビン「大枠はもちろん自分たちがDIYでやるんですけども、サポートとやっぱりアドバイスが必要な場合も多くて」

倉橋慶治(スマッシュ)「もともとそれぞれのバンドとは関わり合いがあって、〈After Hours〉自体も知っていました。だから、この3人に呼び出されて、ちょっと相談があると言われたタイミングにはビックリしました。上海・台北で開催するということで、もうほぼエアーや日程も、パッケージとして出来上がっていた。そこで、じゃあ日本のプロモーションを手伝いましょうかみ?たいな話から入ったんですよ。全体をどうやって統括するという話ではなくて」

山本紀行(スマッシュ)「最初は日本のプロモーションを協力して、〈After Hours〉をどうやって世界と日本に広げて行くかみたいなところだったんですけど、気づいたらまっただ中にいた、みたいな」

Goto「ははは。実際に去年の上海、台北が終わって、みんなで打ち上げしたときに、スマッシュのこの2人が、〈これ日本でもやりましょうよ〉って言ってくれたんです。〈もう1回東京でやってもいいんじゃないですか〉というアイデアをいただいて、僕らはその時点で、来年やりたいとは思っていたけど、まだ具体的なアイデアはなかった。なので、2人の言葉が始まりだったような気がしますね」

山本「日本の音楽を海外で紹介するショーケースとかっていうのは、いままでもあったんですけど、それぞれ海外に行けばちゃんと単独ができるような人たちが集まって、パッケージで行きますよっていうのって、ほとんどなかったと思うんですよね。だから、日本ではこんなことやってくんないのに、なんで?っていう(笑)」

倉橋「(今回の東京開催への)僕らの発想もそこだったんです。これは日本のお客さんにも見せてあげましょうよと思って」

上海・台湾で開催した〈After Hours 〉のオフィシャル・ドキュメンタリー。
フランス人の映像作家、ジュリアン・レヴィが監督

山本「インディペンデントっていう言葉は日本だとアンダーグラウンドとワンセットみたいな感じなんですけど、海外ではちゃんと、インディペンデントがワンカテゴリーとして定着している。だから前売りが3分とかで売り切れたりすると思うんです。そういうことを日本に紹介したいなと思うんですよ。僕たちの立場としては」

――なるほど。

山本「アンダーグラウンドを集めてやってるわけではないですよ。やっている音楽のジャンルがただ単に、みんながそんなに接することの少ないタイプの音楽なだけで。インディペンデントというひとつのジャンル、ひとつの現象が海外では普通にあるし、そういった活動ができて、受け入れられてもいる。でも、日本だとなかなかそこの部分が伝わりにくい。それを例えば〈After Hours〉のような形で紹介できる機会があればいいと思いました。ポップスもあればパンクもあれば普通のロックもあるなかに、〈After Hours〉に出るようなバンド――ちょっとヘヴィーだったり歌がなかったり、ちょっと奇天烈だったりするバンドが、普通に音楽として存在するんですよっていう。〈After Hours〉を通してそれを発信できると思ったから、手伝いをできればな、と考えたんです」

一同「ホントにその通り」

――インディペンデントのアーティストとそうじゃないアーティストって何が違うんですかね?

倉橋「メジャー・ディールがあるか/ないか、ではないと思います。インディペンデントであってもメジャーと同じことをやれているバンドもいるから。なので、志とか独立心とか自分たちで掴んだ活動できる場所の広さとか、そういうところの差なんじゃないかなと思うんですよね」

河合「自主独立したバンドっていうのは、出音の作り方がまず個性的に感じるんですよ。ギターの音ひとつにしたって、ありきたりで予定調和な音ってあるんですよね。〈After Hours〉に出演するようなバンドは、ギターの音を聴けば誰が弾いているのかがすぐわかる。そういうことなんじゃないかな」

envyの2018年のシングル『Alnair in August』収録曲“Dawn and gaze”

河合「いまは音作りの仕方とか、売れる曲のコード進行まで検索すれば出てくるでしょ。そういうマニュアル通りの音楽じゃなくていい。僕は先を急いでマニュアルを見ること自体、意味がわかんないですよ。いちばん楽しい部分を端折ってしまっていると感じる。もっと自由で良いじゃないですか。すぐ成功を求めようとすると、インスタントな答えを欲しがって、プロセスを端折るでしょ? でも音楽制作って、楽しいのはプロセスじゃないですか。確かに、良い機材をそろえて、そういう音作りや参考書見ながら作曲すれば売れたりするんだろうけど、俺はそういうの全然かっこいいと思わないんです。みんな一緒じゃなくて良いでしょ? 要は選択肢のひとつとして、こういうのもちゃんとあるってことを伝えていく義務があるんじゃないかなと思うんですよね」

――なるほど。

Goto「EDMが流行っていて、リアルなロック・バンドがもう古いとかそういうニュースを日本でよく読むんですけど、俺なんかずーっと外でツアーやっているじゃないですか。なので、一切そういう感覚がないんですよ。自分も友達も常に多くのお客さんの前で演奏していてそのシーンのなかで、ずーっと生活してる。そのなかでつまらないバンドは消えていくし、良いバンドは研ぎ澄まされて、どんどんレジェンドになっていく。それだけのことなんじゃないのかなって思う。

2015年と比べてCDの売り上げが25%落ちたっていうニュースとかを読んでも、だからどうした、ってなるんですよ。僕らはツアーをやっているわけであって、やることは変わらない。90分のワンマンショーをどれだけ価値のあるものに見せるかっていうことには変わりはない。CDセールスの数字で見える世界と、ライヴの動員で見えている世界って違うんです。少なくとも、動員が落ちずにずーっとやれているインディペンデントのバンドは世界中に山ほどいる。僕は、ロックや生バンドが衰退してるという意見には賛成できないんです。CDセールス的には衰退しているように見えるかもしれない。なぜかと言うと、Spotifyをはじめ買わなくても聴ける環境があるから。でも実際にお金を払ってコンサートに行く人の数は、そんなに変わったようには感じていない」

――事実、上海、台北の公演はあっという間に売り切れたわけで。

Goto「ミュージシャンのやることなんて、良い曲を書いて、良いライヴをする、その2つしか究極はない。それはこの先何百年経とうが消えるわけがない。もともとベートーヴェンの時代にはCDなんてなかったんだから。ストリーミングでライヴを観られる時代になっても、コンサートで生演奏したものの価値、実際に音を出して空気を揺らす演者のリアルっていうのは、変わらない。そういう体験は、Spotifyで音楽を聴くのとは全然違う体験じゃないですか」