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音を散らかす作業

渡辺「でも『STiCKS』を通して聴いて、〈あ、これこれ〉って思いました。ゆらゆら帝国の“グレープフルーツちょうだい”とか、椎名林檎もそうですけど、〈うわ、痛っ!〉みたいな感じじゃないですか。いまはどうしてもその耳触りの良さっていうか、どんどんマイルドにマイルドにっていう方向に行くので」

松隈「まあ、アレンジャーとかエンジニアは、散らかってるものをキレイにする職業なので。だから、整えていくものなんですけど、今回は散らかす作業をしましたよね」

渡辺「逆にね」

松隈「それでも、やっぱマリリン・マンソンとかホントにキレイに散らかしてるし、ただ散らかすだけじゃ素人の音楽になっちゃうんで、そこは一応プロのメジャーでやってるクリエイターとして……」

渡辺「気持ち良く聴ける散らかり方を」

松隈「そうそう、やっぱり作品として聴けるのは、PJハーヴェイとか、あのへんの人たちのはちゃんとしとるけん」

――その意味で言うと、BiSHを始めた当初の〈ジョンスペみたいなのがやりたい〉っていう構想がある程度ここで実現されてる部分もあるのかなって。

渡辺「そうっすね。だから、『STiCKS』に関しては僕の希望が色濃く出てるかもしれないっす(笑)」

松隈「淳之介が昔やりたかったのはこれなのかなって、俺は勝手に思ってたけどね」

渡辺「いや、BiSHが始まって4年ぐらい経って、やっとこれが認めていただける土壌が整ったなという感じは(笑)」

松隈「いまなら良いなって思うよね。4年前にファーストでこれやったら意味わかんないと思うよ(笑)」

渡辺「そうっすね。まあ、今回avexのディレクターの篠崎さんから言われて印象的だったのは、〈とにかく好きにやってくれ〉と(笑)」

松隈「そうやったね。テーマが〈松隈と渡辺が好きなものを作ってくれ〉と。暗い/明るいっていう枠組みだけはありましたけど」

渡辺「なので、メンバーも詞を書いたんですけど、納得いかなくて今回は僕がめちゃめちゃ奪いましたね(笑)。たぶんみんなブーブー言ってると思います」

――前の『THE GUERRiLLA BiSH』でもメンバー作詞が半分以上だったのに。

渡辺「ちょっと〈好きに作っていい〉って言われたので(笑)。逆に珍しく松隈さんからも歌詞の注文がきたりして、表現の仕方だったり、いつもより細かいところまでこだわりました」

――あとは“優しいPAiN”ですね。ここにきての“スパーク”感というか。これはドラムが松隈さんなんですよね?

松隈「そうです、そうです。初心者なのに自分でドラムを叩くという、斬新な」

渡辺「凄いっすよね。曲が上がって松隈さんに会った瞬間に言われたのが〈俺のドラム良かったっしょ?〉って(笑)」

松隈「5~6時間かかりました(笑)。しかもミックスまとめなきゃいけない締め切りの日に朝から録って。だからスタッフもビックリですよ。ドラマー呼んでないのに〈ドラムのセッティングして〉とか言って。〈誰が叩くんすか?〉〈俺に決まってんだろ〉みたいな(笑)。それでやってたら楽しくなっちゃって。まあ、やっぱり若い感じというか、青い感じを出したくて、いままでもニュアンスを凄い大事にしてたんですけど、やっぱり突き抜けなきゃいけないんで、ホントの素人が叩くっていうのがいいと思って」

渡辺「いや、スゲエ良かったっす」

松隈「これをやりきるなら、俺が叩くしかないってことで。この曲はデジタル感は出したくなくて、ルーズな感じにしたかったんで、もう切り貼りも修正もせず、ズレたものはズレたまま入れて。その代わり小節単位で録ってたんで、2~3時間やって〈まだサビに辿り着かねえ〉とか言って、もうスタッフはみんな絶望してました(笑)」

渡辺「〈勘弁してくれよ〉みたいな(笑)」

松隈「また、下手なくせにこだわるんよ、俺が(笑)。自分のせいなのに、〈何だ、いまの違う! もう1回!〉とか言いながらストイックにやりました。レコーディングの時にモモコ(グミカンパニー)が〈このリズムだとライヴとか絶対揃わないですけど、どうするんですかね?〉とか悪気なく言ってたんで、〈コノヤロー〉と思いましたけど(笑)」

――(笑)これに関しては、そこまでしてでも、拙さを追求したかったというか。

松隈「そうですね。求めるイメージ、90年代の人たちの感じとか考えると、そのドラマーしか叩けないビートがあるし、打ち込みじゃ絶対再現できないじゃないですか? もともと“スパーク”も青臭さを出したくて、楠瀬拓哉にわざと良いニュアンスで叩いてもらってたので、それもかなり参考にしましたね」

渡辺「『STiCKS』に静かな曲も入れたかったんですよね。モグワイとかenvyみたいな、ちょっと激しすぎてキレイになっちゃうみたいな……感情はギザギザなんですけど、優しくなるっていう感じをめざせたので、ここに入れたいなっていうところになりました」

――この4曲でまとまりがありますね。

松隈「うんうんうん。この一曲があるだけで締まりが出るというか」

渡辺「EP感ありますよね」