Page 2 / 3 1ページ目から読む

社会のモブ・キャラでいることを怖れちゃいけない

――昨年リリースした『COUNT/ELATION』は、ハードコア・パンクのフォーマットで縫い目を意識させないアレンジに取り組んだ楽曲と言えますよね。しかも、このシングルに関しては、2曲がほとんど繋がっていて、組曲みたいになっている。

「なんか景気づけとなる1曲を作りたいと思ったんです。2018年は〈自分たちで自分たちのことをガンガン推し進めていく〉というテーマをもとに活動していたんですけど、そう決めた背景には悩んでいた過去があって。2015年にファースト・アルバムを出して以降、平日は働いたり学校に行ったりして土日はライヴをやり、また月曜からは働いてというルーティンが続いていて、〈それははたして自分が本当にやりたいことなのかな〉と考えちゃったんです。しんどさもありました。そういう悩みを持っていたときにGEZANとの出会いもあって、彼らの〈自分で自分のことを決めてやっていく〉という動き方に感化されたんですよ。そこで、2018年を思ったように動いていくための、自分たちで自分たちに火を付けるもの……という気持ちで作ったら、速くて短いのが出来たんです」

――新作にもこの2曲は並んで収録されています。組曲的でありつつ、主人公の心境が各曲でガラリと変わっている歌詞にはおもしろさを感じました。〈調子が悪いんで一人でいたいんだよね〉と歌っている“Count”に対して、“Elation”では〈少し一人にしてくれよ/この快感味わっていたいんだ〉と豪語している。

「歌詞に関しても意識が変わってますね。照れみたいなものをぜんぶ捨てたいと思ったし、〈汲み取ってもらえるでしょ?〉みたいな態度をやめたんです。言葉を飾って曖昧にする必要はないし、そんなことよりも正直でいるほうが大事だなって。ただの一人の人間でいたいんですよ。何者かになりたいって気持ちはみんなが持っていると思うし、僕にもあるんですけど、同時に社会のモブ・キャラでいることも怖れちゃいけないと思う。今回は〈何者かになりたい〉と〈何物でもない〉を並立において歌詞を書きましたね。無理に背伸びしたり憧れたりするのをやめたんです」

――正直に自分自身であれば、周囲からの視線は気にならないし、何をしたっていい。

「僕自身が言っていることが同じならば、こうやってインタヴューで話してようと、ライヴハウスで話してようと、そこにはなんの違いもないと思うんです。やっている音楽に関してもインディーだろうが自主制作のデモだろうが、メジャーからのリリースだろうが、それが良いものであれば一緒。そこに僕自身が左右されることはないと思えたんです」

――レーベルがメジャーのcutting edgeであろうとKiliKiliVillaであろうと、このタイミングでNOT WONKが出すものは変わらない?

「意識してないですね。安孫子さんからKiliKiliVillaでNOT WONKを出したいとお誘いをもらったときも、安孫子さんはパンクのレーベルをやると言っていたけど、僕たちはパンクだけをやるつもりはないという話をしました。僕が何をやるかってのは僕自身が選び取ることだし、それを良いか悪いかは、聴いた人が選び取ること。〈こういう人に聴いてほしい〉とかもないですし、僕がお客さんを選ぶことはない。そのかわりに僕も自分のやる音楽は自分で選ぶんです」

 

ヴィラロボスやユセフ・デイズ、スネイル・メイル……新作に影響を与えた音楽

――新作の青写真はどんなものを描いていたんですか?

「まず、ルールとしてディストーション・ギターで左右のチャンネル両方を埋めることはやめようというのがありました。隙間を作って、それを活かすための録りとミックスをめざした。音数が減って、サウンドからギターの割合が減ったぶん、歌に回せるスペースが増えたんです。そこで、いかに歌の説得力を高めるか、どういうふうに歌いたいかをより考えることができた」

――確かに前作以降、加藤さんの歌唱法も変化していきましたよね。艶やかなファルセットなどを駆使していて、音域が格段に広がった。またギターのスペースを減らしたことで、リズムもより際立っています。

「特に1曲目の“Down the Valley”はリズム面への意識が強かったですね。まずベースとドラムだけで録音するんですけど、この曲は最初タムだけじゃないですか。それを聴いてエンジニアの柏井(日向)さんがリカルド・ヴィラロボスみたいだよねと言っていて(笑)。スネアが入ってくるとちょっと気持ちが上がる/嬉しいとか、そういう細やかなリズムの変化を意識しました。“Down the Valley”は、自分たちなりのダンス・ミュージックにちゃんとできた感じがする」

※チリ出身、2000年代以降のシーンにおいて絶大的な影響力を持っているミニマル・テクノのDJ/トラックメイカー

“Down the Valley”

――音の面では“Shattered”のダビーな鳴りも印象的でした。

「あれはサウス・ロンドンのジャズ・シーンからの影響ですね。ドラマーのユセフ・デイズやピアニストのアルファ・ミストとか、あのあたりをよく聴いていて、彼らがアビー・ロードでやったセッション映像があるんですけど、それがすごいカッコよくて。ロック好きでもスッと聴ける感じもあったんですよ。それを観て、こういうのだったら僕らにもできそうかなと思ったし、バンドにもやろうと提案して。アキムのドラムはディラっぽいリズムを意識していたり、急にレディオヘッドっぽい雰囲気になったりと、これは演奏していても楽しい曲ですね」

――確かにこの曲の歌とギターは相当にレディオヘッドっぽい。アルバムのなかで、この曲が出来たことでアルバムに芯が通ったという楽曲は?

「それは“Down the Valley”と……あと9曲目の“The Bare Surface, I’ve Longed For You”かな。〈The Bare〉の原型は数年前に出来て、良い曲になる予感はあったんだけど、〈いまやるのはもったいないかも〉と思った楽曲だったんです。当時はまだ力不足な気がした。

どういうアプローチがいいかなと考えていたときに、自分がソウルにハマっていくなかで、90年代のエモとソウルに親和性を感じたんですよ。歌い方やギターのアプローチが近いと思った。最初、この曲はもっとエモ・リヴァイヴァル的なアレンジにするつもりだったんですけど、ソウル的にやってみてもしっくりきたんです。自分の作る楽曲には、やっぱりキャップン・ジャズとかの影響がデカイんですけど、エモのギターをソウルのギターとして捉えられることがわかってきて、ほかの曲への解釈も変わった。ソウル/エモが表裏一体というのが見えたことでアルバムのムードが決まったというか」

――“Come Right Back”あたりもオーソドックスなギター・ロックのようで、リズムの細やかなコンビネーションでフックを作っています。

「この曲は、最初スネイル・メイルみたいにやりたいと思っていたんです。でも、あのままやっても意味がないし、リズムに関しては僕らのほうがおもしろくできると思った。現行の音楽を聴いてそれを真似しても、すでに現行じゃないですよね。だからキーワードにしたのはティーンエイジ・ファンクラブとリプレイスメンツ、あとブルース・スプリングスティーン……。ああいう音楽がどうして気持ち良いかを考えたときに、聴いていて、そのバンドの生活する土地が見えてくるからかなと思ったんです。そういう風景が見えてくる感じを今回は意識していて」