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その人が滲み出た音楽が好きなんです(三輪二郎)

――さきほど少し話題にのぼった日本語の歌詞について、もう少し聞かせてください。

三輪「日本語の乗せ方って、もういろいろなことになっちゃってるよね。だからいま、昔の歌謡曲みたいな、松本隆のような職人的な詞の乗せ方やテクニックもいいなあとは思うな」

――三輪さんの歌は詞がすごく聞き取りやすいですよね。日本語として真っ直ぐ耳に入ってきます。アクセントやイントネーションが自然なのかなと。

Gotch「確かに」

三輪「俺はただ、桑田(佳祐)とかミスチルとかの手法ができてないだけなんじゃないかな(笑)」

――日本語を英語風に歌うというわけじゃないと。

三輪「うん。そんな大それた乗せ方してないしね、俺は」

Gotch「三輪さんの歌詞は、時々出てくる名盤や名作からの引用もいいですよね。ハッとするっていうか。そういうリスペクトがいいなって。それも借りてきた感じじゃないのがいい」

――三輪さんの身体から自然と、ポロッと出てきたような固有名詞とか引用とかですよね。

Gotch「そうそう。そんな感じがする」

三輪「その人が滲み出た音楽が好きなんですよね。Gotchの音楽はGotchの雰囲気がじわっと滲み出てるし。手法はどうであれ、人となりが滲み出たものに、やっぱグッときますね。

だから、ボブ・ディランの訳詞を読んだって、英語で生活してないからしょうがないと思うんだよね。井上陽水の歌詞を英訳して、日本語で生活してない人が読んでもよくわからないんじゃない?」

――最近、ロバート・キャンベルさんが「井上陽水英訳詞集」という本を出されましたよね。訳すのが難しかったとインタヴューでおっしゃっていました。

Gotch「そうでしょうね。自分の詞を英訳するときもめっちゃ難しいですよ。〈頬をなでた〉って書いたら、〈誰が誰の頬をなでたの?〉って(訳者から)訊かれちゃう。〈誰のでもないからおもしろいんじゃないか〉って思ってるのに。英語の音楽とは、そういう違いもありますよね」

三輪「Gotchさんは英語でも歌ってますよね?」

Gotch「歌ってます。『Good New Times』(2016年)のプロデューサーがアメリカ人のクリス・ウォラだったから、英語でやってみようかなって。〈日本語で歌え〉って言われましたけどね(笑)。アメリカ人の友だちに聴かせても日本語の曲がいちばんいいって言われますし。

結局、自分の魂と結びついているのは日本語なので、日本語でやるのがいいかなって、最近はまた思ったりしてますね」

Gotchの2016年作『Good New Times』表題曲

 

三輪さんのギターは、すごいチャーミングだと思います(Gotch)

――Gotchさんのセカンド・ソロ・アルバム『Good New Times』は、ウィルコのようなサウンド面での実験も特徴的ですよね。

Gotch「普通にやったらただのロックのアルバムになっちゃうから、どうやってこの曲たちをノイズで串刺しにできるかっていうのを考えて(笑)。だから、ずっとノイズが鳴ってるようなアルバムになったんですけど、それはもちろんクリスと一緒に考えながら作りました。

とはいえ、セカンドは半分バンドの作品にもなったので、次に作るアルバムこそ〈ソロ2枚目〉みたいな感じかなあって思ってますね。ただ、俺はいま急速にラップに惹かれてて」

三輪「へえ!」

Gotch「でも、ラップをやるのは恥ずかしいんですよ。やっぱね、泥棒してるような気持ちになっちゃう。だから、ちゃんと独特な感じで消化できたらやりたいと思ってるんです。例えば、ベックみたいな半分歌ってるようなやり方とか。あの消化しきれてない感じだったらできるかもって(笑)」

三輪「すげえわかるなあ、それ」

Gotch「ああいう手法は、ラップと自分との距離感として正しいと思うんです。俺らの若い頃はもう、普通にラッパーたちがいて、当時横浜ではOZROSAURUSとかSTERUSSとかがいましたし。でも、俺はそっちにはいかなかったんですよね。ギターを弾きたかったっていうのもあるんですけど」

三輪「ギター、弾きたいですよね」

――ギタリストとしての三輪さんについてはどう思われます?

Gotch「俺はすごいチャーミングだと思います」

――どういうところにチャームがあるんですか?

三輪「(恥ずかしそうな顔をしている)」

――(笑)。

Gotch「上手さにもいろいろな上手さがありますからね。〈ギターが上手い〉っていうと、どうしてもこうなってきちゃうんです(ライトハンド奏法の真似をする)。

じゃなくて、三輪さんはちゃんと味がある感じ。そういうのがすごく好きで。人となりが出てるところがおもしろいと思うんです。そういう意味で、チャーミング。歌と合わせて、すごく愛嬌がある。そういうことがすごい大事な気がしますね」

 

Gotchさんは結構、横浜にまみれてたんですね(三輪二郎)

三輪「横浜在住のときの思い出深い街ってありますか?」

Gotch「思い出深い街はやっぱりね、福富町」

三輪「ええっ、福富町!?」

Gotch「バイトしてたんですよ、福富町の時給が超いいカラオケ屋で」

――どんな街なんですか?

Gotch「コリアン・タウンですね。あと、ソープランドがあって。ソープで働いてる方や、お店が終わった韓国のママたちがカラオケ屋に歌いに来るんです。韓国語のカラオケ屋もいっぱいあったし。野毛のほうとは違う、暗いヴァイブスがあるんですよ。当時は川の向こうに赤線もあったしね」

三輪「Gotchさんもそういう空気感に触れてるんですね。いまだにヤクザがいるし、怖い街ですよ」

Gotch「俺が働いてたときも発砲事件がありましたからね。ビクビクしながら行ってましたよ。

その後、福富町のカラオケ屋が潰れちゃったので、中華街の別の店に移籍したんです。毎晩のように台湾系の人と中国系の人たちが喧嘩してたり……割れた瓶を持った血まみれの人が入ってきたときは、さすがに〈マジかよ〉と思って血の気が引いたけど(笑)。

その店は中国語のカラオケが1番と2番の部屋にだけ入ってたから、取り合いになってました(笑)。みんな楽しみ方がすごい豪快で、終わったら海みたいになってるんですよ。嵐の後みたいになってて、片づけるのが大変でしたね。それと〈またあの曲だ、なんであの曲ばっかり歌うんだろう〉みたいな曲があって、1時間に1回くらいその曲がかかって、すっげえ盛り上がるの。〈うお~!〉って(笑)。

あと、横浜のキャバクラチェーンで、ホームページのキャバ嬢の写真を加工するアルバイトもしてました。ぼかしを入れたり、痣とかおっぱいが見えちゃってるのとかを消したり」

三輪「あはは(笑)。結構、横浜にまみれてたんですね。意外だなあ」

――“野毛の唄”など、三輪さんの曲には横浜を歌ったものも少なくないですが、三輪さんにとって横浜とはどういう街なんでしょう?

三輪「どっちつかずの街になっちゃったよね。昔は〈俺たちは東京とは違うんだぞ〉みたいな意地っ張りなかっこよさがあったんだけど。

結局、俺らも東京に歌いに行っちゃったりするじゃないですか? 横浜にも音楽をやれる店、いっぱいあるのに。この憂うつ感ってなんだろうって思ってます、ずっと。だから今回、同發でパッとやって盛り上がりたいですね」

三輪二郎といまから山のぼりの2008年作『おはよう おやすみ』収録曲“野毛の唄”

Gotch「お客さんが東京に行っちゃう感じもありますよね。電車が品川とか渋谷とかに向かって、全部通過していっちゃうから。あとは、〈関内よりも横須賀のほうが〉ってどぶ板(通り)に行って、PUMPKIN(横須賀かぼちゃ屋)でライヴやったりとか」

三輪「PUMPKINなんて、よく知ってますね」

Gotch「アジカンも出たことあるんですよ。何年か前にもやってます」

三輪「えっ、アジカンで!?」

Gotch「アジカンで。Dr.DownerとQomolangmaTomatoのツーマンが毎年あって、シークレットで出たんです。でも全然勝てないんですよ、ああいうところでやると。俺らがいちばんダメだった。やっぱ、やり慣れてないからルールが違うなって」

※2011年12月27日に開催された〈ガゼルイートガゼル〉

 

俺がギターを弾くので、Gotchさんには詩を読んでもらって(三輪二郎)

――そんな横浜で開催される三輪さんとGotchさんのツーマンですが、どんなライヴになりそうでしょうか?

Gotch「いまはまたソロの弾き語りも変わってきて、自分としてはだんだん慣れてきた感じなんです。三輪さんの弾き語りはむちゃくちゃかっこいいけど」

三輪「いやいや(笑)。Gotchさんはライヴでポエトリー・リーディングもするんですよね?」

――〈弾き語りと朗読とノイズをやろうかなと思っています〉とTwitterでおっしゃっていましたね。

Gotch「最近は読みますね、詩を。自分でドローンを作って、その上で詩を読むのをやったりとか、そういうことも最近はしてます。

でもそれも、小説家の古川日出男さんとか、ひとがやるのを観て感化された部分もあります。詩人の和合(亮一)さんともセッションしましたし、いとうせいこうさんもそういうことをやってますし。

もっとみんなに〈詩を読むことってかっこいいな〉って思ってほしいですね」

三輪「俺は〈ここにきて朗読なんだ!〉って思って。それがなんかいいなあって」

Gotch「俺が思春期の頃は、詩を書いてるやつなんて〈ポエマー〉って言われて笑いの種だったんです。でも、自分の言葉を使って心象風景をクールに切り取ったり、かっこいい言い回しを考えたりするのって、すごく素敵なことじゃないかなあって思って。そういうのをちゃんと、恥ずかしげもなく、照れずにやりたいなって。

もっと詩を書いたり読んだりすることに接してほしいですね。そのほうが楽しいし自由になれるかなって思うので」

――三輪さんは?

三輪「いい夜にしたいです。でも、想像つかないですね。

ただアイデアはあって、アンコールでサザンの曲を俺のバンドとGotchさんでやろうかなって。“涙のアベニュー”っていう曲、わかります? 『タイニイ・バブルス』(80年)ってアルバムに入ってて、横浜っぽい、とっぽい曲なんですよ。それをGotchさんに歌ってもらおうかなと。

ちなみに詩の朗読って、即興のオケがあってもできそうな感じですか?」

Gotch「できます! 即興のオケでもやりますね」

三輪「じゃあサザンじゃなくて、それをやってもいいですか? 俺がギターでインストを弾くので、詩を読んでもらって。トーキング・ブルースみたいな。アンコールでそれを一曲やって、さっと終わるのもいいかなあ」

Gotch「なんでもできますよ。俺は本当に楽しみにしてるんです、同發でやるのって初めてですし。どんな感じかもちょっと想像つかないですけど、楽しみですね」

――特別なライヴになると。

三輪「はい!」

Gotch「なりますよ、それはもちろん!」

 


LIVE INFORMATION
2019年6月26日(水)神奈川・横浜中華街 同發新館
出演:三輪二郎バンド(三輪二郎/伊賀航/北山ゆう子)/Gotch(後藤正文)
開場/開演:18:00/19:00
前売り/当日:3,500円/4,000円(いずれもドリンク代別)
前売り予約メール申込先:0626douhatsu@gmail.com
http://www.douhatsu.co.jp/access.html