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ロックンロールを好きな人間がやっている、いまのポップ・ミュージック

――残った時間でアルバム前半のシカゴで録音した4曲についてもお伺いできればと思うのですが、シカゴ編のほうがトラップの色が強い楽曲が並んでいる印象です。

佐々木「トラップへの関心はあるうえで、〈バンドマンがなんちゃってでラップやってる〉って思われるのがいちばん嫌だなとも思ったんです。なので、トラックメイクしてもらってラップするんじゃなくて、歌とどう絡むかをトラックメイクの段階から考えてることが大事だと思って。自分はバンドマンで、ロックンロールが好きな人間だという、このアイデンティティーをかき消すつもりはないから、〈そういう奴がやってるいまのポップ・ミュージック〉というところまでたどり着きたいなって」

――現行のラップ・シーン自体、もはやラップというより歌に寄っているので、そこに関しては自然にできた部分も大きかったかもしれないですね。

佐々木「ポスト・マローンの新曲もラップしてないし、フューチャーのアルバムも歌ってるだけだし、これ作ってるときタイラー・ザ・クリエイターのアルバムが出て、ぜんぜんラップしてなかったし、おもしろい人たちがそっちに行ってるってのは感じてたので、追いかけるわけじゃないけど、俺たちなりのやり方でそこに行きたかったっていうのはあるかな」

タイラー・ザ・クリエイターの2019年作『IGOR』収録曲“EARFQUAKE”
 

――そこはロック・バンドでずっとヴォーカル/ギターをやってきた佐々木さんだからこそできる部分でもありますよね。

佐々木「だから、実はギターは全曲入ってて、そこもひとつのアイデンティティーかなって。こういう音楽からギターはどんどん消えてると思うけど、こういうトラックのなかでもアリなギターを探そうというのは裏テーマでした。トラップのビートをいっぱい聴いたり作ったりしてると、(ドラムマシンのTR-)808っぽい音とかガレバンに入ってるドラムの音と相性がいいギターの音がなんとなくわかってくるんです。

生のアンプを鳴らしてるだけだと、クラシックないい音を目指しちゃうけど、デスクトップ上のギターのいい音の正解って、アンプ的なギターの音の正解とは違うんですよね。シカゴで録った“Fireworks”は真ん中にギター・ソロが入ってて、フィーチャリングで参加してくれたカイナが〈これ自分で弾いてるの? めちゃめちゃいいね〉って言ってくれて。ラップやトラックのカルチャーのなかにいる人たちが聴いてもかっこいいギターというのは意識しました」

『RAINBOW PIZZA』収録曲“Fireworks”
 

三船「いまのアーティストはいわゆるロック・ヒストリーの黄金比みたいなのをぜんぜん無視して、現行品を使っておもしろい音を出すよね。いままでいいとされていたところじゃないところから新しいものが出てくるっていうのは、すごく楽しいです」

 

〈もっとよくなる〉ための労力を惜しむ気はない

――“Sofa Party”では〈シカゴの空も/東京の空も/メンフィスの空も/ロンドンの空も/同じなんて信じられない/けど世界は広いって感じてたい〉と歌っていて、〈手放せないのは場所じゃないのさ〉というパンチラインもあるように、『RAINBOW PIZZA』という作品であり、今日のおふたりの対話からは、国境やジャンルを超えて、いまの時代を自由に楽しむ空気が伝わってきます。その裏側には、ポジティヴな絶望もあるのかもしれないけど。

佐々木「ビートルズやデヴィッド・ボウイが好きな自分にとって、あの頃のロックと比べて、いまの〈ロック・フェス〉の〈ロック〉はすごく狭く感じてて、シカゴに行ったのは、チャンスの言うラップにかつてのロックを感じたのもあるし、〈まだあるでしょ? もっとおもしろいことできるでしょ?〉みたいな気分だったっていうか。バンドだけでやってると、どうしてもネガティヴになりやすいんですよ。マジでニッチになりかけてて、歌舞伎とか茶道とか、〈尊敬すべきカルチャーだけど、ティーンエイジャーは喜ばない〉みたいなものになっちゃうんじゃないかって」

三船「わかる。去年『HEX』を出したときもよくそういう話をしたんだけど、ロックって何かをブレイクスルーするために起きたムーヴメントのひとつだったのに、いつの間にか作り上げられたロックの形を守ろうとしちゃってて、本質を見失って、張りぼて化しちゃっている。なので、それを一回土に返そうって気持ちで『HEX』を作ったから、その感覚はすごく近いよね」

佐々木「めっちゃわかるわ。自分はロック・バンドの人間だと思ってるし、そこを切り捨てたくはないから、そこを自分でおもしろく感じたいし、おもしろくしたいんですよ」

三船「佐々木くんがポロッと〈フラッドのお客さんも若干意識してる〉と言ってて、でも〈あえてぶっちぎってもいいじゃん?〉と思った。そのほうが、新しい扉を開けるものになるんじゃないかなって。これがフラッドのメンバーにも影響を与えると楽しいし、届くといいなってドキドキしてます」

佐々木「基本的に、世の中は後ろには戻れない仕組みだから、先に進むしかない。なので、いままでやってきたことを見つめて、いいところはいいと言い、でももっとよくできるかもってポイントは、時間をかけてよくしていくのが大事だと思っていて。ロックをやる、ラップをする、批評をする、僕のなかでは全部一緒で、〈もっとよくなるかも〉に全部を賭けたいし、そのための労力を惜しむ気はない。

今回エルトンや三船くんとやったなかで、恥をかく瞬間もあったと思うけど、恥と失敗がないと先に進めないのはもう知ってるし、誤解は恐れたくないし。結果的にどういう角度で聴かれてもオッケーだと思える作品を一緒に作れたことは、めちゃめちゃ誇りに思ってます。もの作りをしてて、先に進もうと思ってる人がいたら、何か感じてもらえると思うし、自分ももっと先に進みたいなって」

三船「うん、ブレイクスルーな作品になったと思いますよ」

佐々木「毎日曲作ってるのは、降ってくるわけじゃなくて、昨日よりちょっとでもいいものができるんじゃないかと思って作ってるうちに、ホントにいいものが出てくる気がして……続けるのいいっすよ(笑)。アルバム2枚で燃え尽きるタイプのバンドも好きだけど、俺はあきらめが悪い男でいたいというか。この前うちのディレクターの小学生の息子が、アルバムに入ってる“Bi-polar Tokyo”というテンポ70くらいのトラップの曲でちゃんと倍で踊ってて、〈日本もちゃんと進んでんじゃん〉と思ったんですよ。だから、希望は持ってるんです」

 


■佐々木亮介

LIVE INFORMATION
RAINBOW PIZZA Delivery Tour 2019
2019年9月1日(日)京都 紫明会館
2019年9月6日(金)北海道・札幌 KLUB COUNTER ACTION
2019年9月12日(木)愛知・名古屋 Vio
2019年9月13日(金)大阪・梅田 Shangri-La
2019年9月24日(火)宮城・仙台 STAR DUST
2019年9月27日(金)長野 Live House J
2019年10月2日(水)東京・渋谷 WWW
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■ROTH BART BARON

LIVE INFORMATION

ROTH BART BARON Tour 2019
2019年8月21日(水)東京・渋谷 WWW X
2019年8月23日(金)愛知・名古屋 APOLLO BASE
2019年8月25日(日)大阪・心斎橋 CONPASS
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RELEASE INFORMATION

7インチ&配信シングル“Skiffle Song”

ROTH BART BARON 『Skiffle Song』 felicity(2019)

リリース日:2019年8月21日(水)
品番:PEKF-1176 felicity cap-313
定価:1,700円(税別)
24bit/96KHz WAVデータのDLコード付き

TRACKLIST
Side A: Skiffle Song
Side B: GREAT ESCAPE -Okada Takuro mix-