満足したことがない

 とはいえ冒頭のマークの言葉にもあったように、今作にも〈これぞライド!〉と快哉を叫びたくなるような楽曲と共に、新たな試みに挑戦した楽曲も数多く含まれている。例えば、バンド名を曲名に冠したその名も“R.I.D.E.”は、ギター・オーケストレーションやコーラスなどにマイブラからの影響が強く感じられるインスト曲だ。

 「確かにあの曲は、フェンダー・ジャズマスターのトレモロアームを駆使しているし、ケヴィン・シールズ(マイブラのリーダー)からの影響を指摘するのは理解できるよ。それとオープン・チューニングはサーストン・ムーア(ソニック・ユース)が編み出したものだ。俺はこのアルバムのすべての曲で、このチューニングを用いているよ」(アンディ)。

 「インストはローレンスから出たアイデアだった。そこから全員でさまざまなアイデアをトライしていったんだ。僕自身はマイブラを意識してなかったけど、(クリエイションでの)レーベルメイトだった90年代は、彼らのことが大好きだったよ。人としてもバンドとしても素晴らしかったからね」(マーク)。

 また先行曲“Repetition”は、個人的には中期YMOを想起するニューウェイヴ色の強いアレンジ。歌詞の部分はアンディによれば、ジョン・バージャー(小説家)やブライアン・イーノからの影響について語る、ジャン・ミシェル・バスキアのインタヴューから大きな影響を受けたという。この曲をはじめ、“15 Minutes”や“End Game”など、全体的にポエトリー・リーディングっぽいスタイルの楽曲が増えているのも印象的で、とりわけ静と動を行き来するようなダイナミックな楽曲“15 Minutes”は、〈たった一度の過ちが、その人の一生を左右する〉という強烈なセンテンスを含んでいる。

 「これは、アンディ・ウォーホルの〈15 minutes of fame(15分の名声)〉を引用している。〈未来の世界では、誰でも15分間は有名人になれるだろう〉という有名な予言だ。ここでは、〈訴訟を起こしてバンドの立場を悪くするような真似は、そいつにとっては束の間の名声かもしれないが、死ぬまで後悔するほどの過ちになりかねない〉ということを歌っているんだ」(アンディ)。

 他にも、ポスト・パンク風のソリッドな楽曲“Kill Switch”や、ベックの影響を受けたというヘヴィー・サイケな“Dial Up”など、これまでになかったタイプの楽曲が並ぶ。もちろん“Eternal Recurrence”や“In This Room”など、〈これぞライド!〉と快哉を叫びたくなるような、メランコリックで美しいハーモニーの楽曲もあり、最後まで飽きさせない。結成から30年以上経ったいまも、マークとアンディのソングライティング能力が、衰えぬどころかむしろ円熟味を増して豊かになっているのは驚きだ。

 「僕自身、これまで作ってきたものに満足したことがないんだ。そうなることは恐らく一生ないと思う。アルバムを作り終えるたびに、次の作品こそ自分たちの最高傑作になると信じているし、最高のレコードを作りたくて仕方がない。新しい音楽を聴くのも、作るのも大好きなんだよね。それって、自分が初めてレコードを手にした時の気持ちから何一つ変わってなくて。音楽は僕にとっての生命力であり、執着なんだ」(マーク)。

 今年11月には東京と大阪でのライヴも決まっている彼らが、本作からの楽曲をどんなふうに再現してくれるのか、いまから期待に胸が膨らむ一方だ。

ライドの作品を紹介。