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Serphが素顔をさらけ出した理由

――Serphさんはコラボに対してどのようにお考えですか?

Serph「デデさんだからやりたかったのはもちろんだし、コラボだと自分が1人で作るよりも客観性が生まれるわけで。そこでより広い世界に開かれた作品になることをめざしました。昨日デデさんのライヴDVDを観てたんですけど、デデさんの音楽からはより広い世界を感じるんですよ。こんなにもリスナーの気持ちに近いところで作ってる人に初めて出会ったなと思っていて。

それは現場の感覚、実際に人が集まってるところで音を鳴らすとどうなるか?ということですよね。身体の感覚、耳の感覚、心の感覚のバランスが取れている人なんだと思います。こないだ一緒に飲みに行ったときも思ったんですけど、駅で待ち合わせをしていて、デデさんが階段を下りて改札から出てきたのを見たときに、自由の香りがしたんですよね。涼しい風が吹いたというか」

DÉ DÉ MOUSE「おお~、嬉しい! それ、自分のキャッチコピーにしよう(笑)」

Serph「すごく風通しのいい人が来た感じがあって。それは今回、自分が初めてマスクを外して顔出ししたことにも繋がりますけど、〈そうだよな、俺も本来、音楽をやって自由に生きたいと思ってたんだよな〉っていう感覚を思い出させてくれたんです」

DÉ DÉ MOUSE「めちゃめちゃいい話じゃないですか……! 僕はSerphさんの音楽に熱さを感じたことがなくて、自然と圧倒的なものが降りてきてるような感覚があったんですけど、こないだ呑みながらいろいろ話を聞いたら、すごく熱いものを持ってるんですよ。僕は本人に会うまで、常に本を読んでて世界から隔離されているメガネ男子、みたいなイメージがあったので。音楽を作る以外は特に興味がないみたいな」

Serph「確かにメガネはかけてますけどね(笑)」

DÉ DÉ MOUSE「でも、話してみると熱さや人間らしさをすごく感じた。闇の部分もあるし、自分の弱さをサラッと言えてしまう素直さ、真っ直ぐさがあって。だからトータルのイメージはピュアだったけど、実際に会ってみてもやっぱりピュアだった。その熱い気持ちは直接的じゃないにしてもファンに届いていたんだと思うし、〈俺の音楽を聴いてくれ〉という気持ちがすごくある人なんだなと感じた。いまの話を聞いて、それだけ自分を大事に思ってくれていたのを知り、今日は忘れられない日になりそうです」

 

天上人のSerphをDÉ DÉ MOUSEが地上に導いた“Rainman”

――さて、今回のコラボEP『DREAMNAUTS』には、お2人のコラボが2曲収められています。そのうち“Rainman”は7月に先行配信されたものですが、制作はどのように進めたのですか?

 

『DREAMNAUTS』収録曲“Rainman”
 

DÉ DÉ MOUSE「まず最初にSerphさんから3曲ぐらいの候補が送られてきて、どれもよかったんだけど、この曲はヴォイスが入っててすごくキャッチーだったので、そこに僕が手を加える形で大事に時間をかけて作っていきました。〈すごくいい曲なのに、なんで完成させずに途中で止めてるんだろう?〉と思うぐらいのものをポンと提供してくれて」

Serph「もともとストックしていた素材だったんですけど、ここぞというときに使おうと思ってとっていたものだったので、今回投入したんです。この曲は、飛びっぱなしのところを地に足つけるというか、デデさんが現場仕様にしてくれた感じはありますね」

DÉ DÉ MOUSE「この人は天上人なので気を抜くと飛んで行っちゃうから、僕がブレイクビーツやローファイ系のビートを入れて〈行かないで!〉って無理やり繋ぎとめたというか(笑)。いまのインターネット・ミームから出てきたサウンド――ヴェイパーウェイヴとかフューチャー・ファンク、ローファイ・ヒップホップって音は違えど、どれも日本の昔のアニメがキーワードになっていたり、聴いてる層が似てたりしていて。その〈ミーム感〉を日本のシーンがどう取り込んでいくのかなと思っていたときに、Serphさんがローファイ・ビーツを入れやすい素材を提示してくれたので、そういうアレンジにしてみました」

 

建設的であることを重視せず、官能の持続をめざす

――もう1曲の“Ladyland”は?

DÉ DÉ MOUSE「(“Rainman”と)逆に“Ladyland”は、まず僕がモティーフを作ってSerphさんがアレンジしたんです。僕からはR&Bっぽいコード感で、あまりキラキラさせずに、低空飛行してる感じのものを渡して。最初のドロップまでは僕が提示したパートなんですけど、そこからSerphさんが異次元に引き込むような展開をつけてきて(笑)」

――Serphさんはデデさんからの素材をどのようにアレンジしようと思ったのですか?

Serph「……」

DÉ DÉ MOUSE「たぶんそういうのがあまりない人なんですよ(笑)。僕は考え込んでからやるタイプだけど、Serphさんは聴いて自分のなかに出てきたものをそのまま出すっていう。イタコみたいなもんですよね(笑)」

Serph「その通り(笑)。本当にひらめきだけですね」

DÉ DÉ MOUSE「“Rainman”は登場人物が曲のなかを旅していくのを見ているようなイメージがあるんですけど、“Ladyland”は世界自体を表現した音というか、もう少しアブストラクトなイメージだったから、タイトルは〈誰か〉ではなくて〈場所〉っぽいものがいいなと思って。

それと官能性も表現したかったから、ジミ・ヘンドリックスの『Electric Ladyland』(68年)へのオマージュの意味も含めて、このタイトルにしました。あと、クラークが2006年にワープから出した『Body Riddle』というアルバムに“Herr Bar”という曲があるんですけど、その曲にはMVが2種類あって、ひとつは手袋が鳥みたいに飛んでるもの、もうひとつが女性の身体をコラージュした世界を冒険していく映像。僕は後者がすごく好きで、この曲はそのイメージがあって作った曲なんです」

クラークの2006年作『Body Riddle』収録曲“Herr Bar”
 

――“Rainman”のタイトルにはどんな意味を込めたんですか?

Serph「トム・クルーズとダスティン・ホフマンが出演している『レインマン』(88年)という映画があるじゃないですか。そこでダスティン・ホフマンが演じているのは、特定のことに対してすさまじい才能を発揮するけど日常的な行動はうまくできない人物という役どころなんです。だけど、それは音楽を作るにせよ絵を描くにせよ、自分の才能を頼りに生きていく人に共通する部分なのかなと思って。

それに対して、もう1曲に“Ladyland”というタイトルがつけられたのは象徴的というか、ある意味、いまの時代を切り取っている気がするんです。男性は建設的なものや生産性、新しい視点を持つことを追い求めがちだけど、そういう男性主導の文明はもう持続不可能なところにきてるわけで、何でも建設的なことを優先するのではなくて、もっとフィジカルに、生活感をもって生きることも必要なんじゃないかと思った。それは女性的な感覚なのかもしれないし、人それぞれだとは思うんですけど」

DÉ DÉ MOUSE「“Ladyland”は僕が導入部を作ったけど、その後のどんどん官能的になって引き込むところはSerphサウンドなんですよ。だから実は官能的な部分をすごく持っているんだろうなと思った。曲の展開的にも、僕が展開を作った“Rainman”はドロップやブレイクの入り方が結構明快なんですけど、逆に“Ladyland”はドロドロとしてて、わかりやすい変化の提示が明確にはないところが、ある意味女性っぽいというか。

性の部分でも、男性より女性は気持ちを大事にしている部分が強くて、男から見たらわからない神秘性みたいなものがあるし、“Ladyland”はそれが音になっている気がしていて。それがすごくピュアなものをやっているSerphサイドから出てきたのは、すごくおもしろくて興味深いことだと思います」

 

2人の共作を続けていきたい

――共作することでお互いの作家性が浮かび上がってきたのは、おもしろいですね。

DÉ DÉ MOUSE「僕らはいまお互い気持ちがオープンになってるから、自分では考えつかなかったものがあるということを、ポジティヴに受け止められるんだろうなと思っています。相性というのは確実にあるから、ダメな人とは何をやってもダメだと思うんですけどね。まずはEPをバッと作りましたけど、これで〈いいなあ〉となったら、ちゃんとアルバムも作りたいと僕は思うし。半年や1年かかったとしても、2人で世界をちゃんと作ってみたいですね」

Serph「うん、やりたいですよ。続けていきたい気持ちはすごくあります」

DÉ DÉ MOUSE「でもこの人、作るのが本当に早いから。たぶん夏休みの宿題も最初に全部終わらせるタイプだと思うんですよ(笑)。僕は締め切りギリギリまでやってる人なので。こちらから素材を送るとすぐ返ってくるからドキドキしちゃうんですよね(笑)」

――9月28日(土)には多摩六都科学館プラネタリウムでコラボ・ライヴが行われますが、こちらはどんなライヴになる予定ですか?

Serph「自分はカオスパッドやシンセを使う予定ですね」

DÉ DÉ MOUSE「僕はキーボードを弾いて、セッションみたいな感じでできたらおもしろいことになるかなと思って。ただ、プラネタリウム・ライヴなので展開をつけたり、途中でSEを入れたりして、ストーリー性のあるものにしようとは思ってます。

でも、これだけで終わらせるのはもったいないから、今後も2人でイヴェントとかに出てみたいですね。B2B(バック・トゥ・バック)でDJをやってもいいし。フレキシブルにフットワーク軽くやっていきたいので、これを読んだオーガナイザーのみなさんは、ぜひご連絡ください。新人としてやっていくので、お願いします(笑)」

Serph「アハハ(笑)。自分もやっていきたいですね。お願いします」

 


LIVE INFORMATION

Serph & DÉ DÉ MOUSE in planetalium
2019年9月28日(土)東京都・多摩六都科学館 プラネタリウムドーム
[夕方の部]開場/開演:18:00/18:30
[夜の部]開場/開演:20:00/20:30
前売り:3,800円(座席あり/自由席)
出演:Serph & DÉ DÉ MOUSE
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Serph presents “Joaquin Skywalker”
2020年1月24日(金)東京・渋谷WWWX
開場/開演:19:00/20:00
前売り:3,900円(ドリンク代別)
出演:Serph
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