アジアでの興奮が菅原の〈モンド魂〉に火を点けた

――菅原さんはマージナルな音楽を掘っていく過程で、帝さんの著書や活動に出会ったんですか?

菅原「まさにそう。大学時代に〈モンド・ミュージック〉と出会って影響を受けたんです。その頃からずっと帝さんは遥か遠くにいる方って印象があった。〈モンド・ミュージック〉がリリースされた90年代って僕はまだ小学生だったし」

――つまり出会ったときからレジェンドだったと。そんな雲の上の存在と近付いていった過程は?

菅原「この数年、音楽を聴くのがまた楽しくなってきたのがまず背景にあって。というのも、2010年から14年ぐらいって、人生でもっとも音楽を聴いていない時期なんです。シャムキャッツの活動で生活のすべてが埋まっていて、目の前のことをガムシャラにやるしかないって感じだった。

外に目が向くようになったのはここ数年ですね。バンドでアジア・ツアーをやるようになって、自分の知らないものにあらためてワクワクできる感覚が取り戻せたんです。アジアの未知なる音楽にすごく興奮できたことで、また自分の〈モンド魂〉に火が付いたんですよ。それと同時期に、ミツメと帝さんが親交を深めていることを知って、〈あの小柳帝!? いったいどういうこと?〉って」

小柳「間を取り持ってくれたのはファゴット奏者の内藤彩さんでしたよね。僕がミツメのメンバーたちとやっている〈Record Snore Day〉というDJイヴェントに彼女にゲストで出てもらった時に、〈菅原さんのソロのバンドでも演奏しているからぜひライヴを観に来てください〉って誘われたんです。で、足を運んだ」

菅原「渋谷の7th FLOORでおそるおそるご挨拶しましたよ。そしたら、すごく気さくだったからビックリした。ぜんぜんイメージと違ったから。なんせ圧倒的な経験と知識を持たれている方ですからね」

小柳「みんな僕と会ったときにそんなことをおっしゃるんですよ。名前が偉そうだから、会う前は怖そうな人だと思わせてしまうのか(笑)」

――それは否めない(笑)。

小柳「初めて会ったときに印象的だったのは、フランスのアヴァン・ポップの代名詞的なバンド、ZNRが好きでよく聴いているって話をしてくれたこと。たぶん、僕に気を遣ってくれてのことだと思うんですが」

菅原「でもいまふたりで話すことといったら、ご飯のことやSMAPの話題とか」

小柳「ハハハ、ユルい話しかしていませんよね」

菅原「そうなったことで逆に惚れ直したというか。ZNRからSMAPまで大いに語れるこういう器の大きな大人になりたいって思う」

 

ジャンルを横断する楽しさを発信していく

小柳「90年代は、一見繋がりそうにない点同士をその人なりのセンスで結び付けて楽しむやり方が有効だったと思っていて、〈モンド・ミュージック〉もまたカテゴライズしにくいものに対する興味を持ってもらうことからスタートした。でも最近仕事をしていても、ジャンルを跨ぐような企画は通りにくくて、特定のジャンルにタグ付けできるようなものしか編集者や出版社に採り上げてもらえない傾向があるんです」

菅原「そういう状況をできれば変えていきたいし、僕と帝さんが交わる意義を形にしていきたいという思いから、〈Tripod〉というチームを組んで、ジャンルを横断する楽しさを発信していくイヴェントをやり始めたんです」

――コンテンツディレクターの安永哲郎さんを含めた3人で行う〈Schoolyard Council〉がそれですね。

小柳「30代の菅原さんと50代のボク、そして40代の安永さんという年代も職種もバラバラな3人なんですが、ジャンルの垣根を取っ払っていろんなものを学べる場を作ろうとしていて」

菅原「勉強・学習することを放棄している人が多いような気がしていて。例えば好きなアーティストができたら、そのアーティストが好きな人は誰なんだろう?っていうふうに興味が広がっていくのが自然じゃないですか? そういうのはネットで調べればパッと答えが出てくるけど、おもしろい語り部がさまざまな蘊蓄を交えながら語ることでより楽しく学べるんじゃないかと。

そういう必要性をつねづね感じていたので、帝さんたちと協力しあい、形として残していこうというのがイヴェントの趣旨ですね。でも無理やり結びつけるわけじゃないですけど、シャムキャッツもそういうバンドだと思うんですよね」

小柳「いやいや、端からはそういうふうに見えてましたよ」

菅原「もう僕らも若くはないですし、バトンを渡していく役割について考えることも増えてきたし、良い媒介者になれればいいなと思うようになっている。僕らがシャムキャッツでやってきたことも、ただライヴをやるだけじゃなく、ZINEを制作したり、さまざまなクリエイターと組んで、カルチャーを発信してきたわけで」

小柳「そういう活動を見ていて、シャムキャッツって〈ただ音楽だけに収まらないバンド〉なんだなということはわかっていました。事務所になぜかリソグラフがあるってことが象徴的ですよね(笑)」

※簡易印刷機。ZINEを作る際によく使われており、アーティストからの人気が高い