音楽面への多角的な評価

 いくつかの楽曲で憧れのアーティストにオマージュを捧げる姿勢もリゾの音楽を尊いものにしている。2014年に彼女はプリンス&サードアイガールの“BoyTrouble”に招かれていたが、パワー・ヴォイスが映えるブルージーなミッド・バラード“Crybaby”は「ミネアポリス・サウンドの曲」と本人が言うようにプリンスへのトリビュートだ。続く“Tempo”はイントロの直情的なギターがプリンスの“When Doves Cry”を思わせるが、リゾが体型も含めてシンパシーを感じているミッシー・エリオットを迎えたこのダンス・チューンは、ミッシーの“Pass That Dutch”も連想させる。また、オークの手を借りてニューオーリンズ・バウンスへの憧れを曲にした“Soulmate”は、「クラブでブーティー・シェイクさせてくれた」バウンスのキングことDJジュビリーに対する返礼だろう。お尻と太ももをブルンブルンさせながらトゥワークを踊る姿が目に浮かんでくるが、この曲はバウンスのクイーンことビッグ・フリーダの“Karaoke”(2018年)にてフックを歌っていた彼女も思い出させる。

 ミッシーとの共演やバウンスへの憧憬をヒップホップ・サイドとするなら、ソウルの側面を伝えるのが“Cuz I Love You”をはじめとするヴォーカル・オリエンテッドな曲だ。クリーン・バンディット“New Eyes”での客演も含め、これまでは主にラッパーとしての活動がメインだった彼女だが、本作ではラッパーらしい韻の踏み方を活かしつつシンガーとしての力も発揮。ラップをやるアレサ・フランクリンを仮想して演じながらゴスペル・ルーツも打ち出した“Heaven Help Me”に至っては、ラッパーとシンガーの両面を一曲の中で伝えている。大仰な音使いや感情過多なヴォーカルは時にクドさを感じるも、それを類稀なキャラゆえと思わせてしまうのも才能だろう。

 そうしたソウル/R&Bシンガーとしての彼女をグラミーも評価した。ロック・バンドのXアンバサダーズが制作した“Jerome”は〈最優秀トラディショナルR&Bヴォーカル・パフォーマンス賞〉にノミネート。いにしえのリズム&ブルースを思わせるこのハチロク調バラードは、同部門に選出された曲の中でも突出してトラディショナル感が強い。また、〈最優秀R&Bパフォーマンス賞〉には“Exactly How I Feel”が選出。いろいろ言われる時代に「自分の思うようにやればいいんじゃない?」と開き直った曲で、ラップはグッチ・メインに任せて自分はR&Bシンガーに徹している。