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――“美しい瞳”は緊張感のある前奏と疾走感のあるメロディーが印象的で男女の関係を巧みに表現されていますね。

「これは男女のズレを描きたいなと思いました。この物語もよくある男女のケンカのワンシーンを切り取った感じです。1番と2番は同じ時間軸なんですけど、お互い言ってることとやっていることがズレてるというか。男の幼さと女性の大人びた感じを上手くだせればいいなと思っていたので伝わってよかったです。サウンドに関してもニューウェーブな感じとアコースティックを織り交ぜたら面白くなるだろうなと思って作りました」

――“黒い白鳥”は物語に登場する旅商人のデネブをイメージした楽曲ですね。

「アコースティックだけど、カッコいいナンバーにしたいなと思って作りました。一人でも成り立つし、他の楽器と合わせることでロックな感じが出るようにしたくて。クールな曲に仕上がったので最初はなんとなく“黒い白鳥”ってタイトルをつけたんです。で、よくよく調べたら黒い白鳥ってありえないことが起きるという意味があるみたいで。物語の大きな流れのなかで、もちろんデネブというキャラクターを引用している部分もあるんですけど、もう一つのお話のフックにもなるかなと」

――もう一つのお話というのは?

「これは裏設定ですけど、星追いの少女は後に傘の持ち主と再会して付き合うようになり、些細なことで大ゲンカをしてしまうけどその後彼から仲直りのしるしとして指輪なんかを出されたのかなって。ありえないこと、予期せぬことがおきるという話の流れにも広げられるかなと思ってこの曲がここにいますね」

――なるほど! とても深いです!! また違った視点からも物語が楽しめますね。“最初の晩餐”は温かく優しい音色でまさに団欒という感じが伝わってきます。

「そうですね。やっぱり食べ物って大切じゃないですか。人って空腹だと機嫌が悪くなると思っていて。まぁ、僕もそのタイプなんですけど(笑)。お腹空いてない方がハッピーな気持ちになれるというか食事の持つパワーはすごいなと思ったので、好きな人と食事するワクワク感をメロディーに乗せてタイトルもハッピーなものを付けました」

――“どんぐり”はカントリー調で軽快なリズムが心地よく、ふんわりと、優しく包んでくれるような曲ですね。親目線で子供への愛情が満ちあふれたとても優しい楽曲です。

「主人公アルのなかの思い出の一つを歌った曲ではありますが、大切な人との間にできた愛おしい存在への気持ちを描きたいなと思って作りました。物語の『星飼いの少年』に出てくる思い出も主人公の思い出でもあるんですけど、誰しもが抱く感情だと思っています」

――特に〈きみには光を 絶え間ない愛を〉というフレーズがグッときます。

「僕も聴いていて泣きそうになります。切ないな~って。ライブで歌ったらヤバいかもしれない(笑)」

――“Sweet & Bitter Days”はどこか懐かしさと温もりを感じるナンバーですね。

「スタッフさんから〈ボサノヴァっぽいもの入れませんか?〉って提案があって作ってみた曲です。最初はギター2本で進んでいくんですが、これは男女を表しています。そして最後に高い音が登場するんですが、これは二人にとっての愛おしい存在を表していて、みんなで同じメロディーを奏でているのは〈忙しさのなかにある幸せな日々〉を描きました。なので他の曲に比べてすごく短いです。この曲は最後にできた曲なので、ストーリーに沿ってタイトルも付けました」

――“眩暈”はアルがしまい込んでいた過去の思い出を思い出すきっかけが描かれているような混沌とした雰囲気が漂う楽曲です。

「これは完成形を聴いて、僕も驚いた曲です。“眩暈”という言葉からエンジニアさんが色々思いを膨らませてくれたおかげですね。後ろでミョンミョンなっているウッドベースの音がおどろおどろしさというかなんとも言えない不気味さが出て。〈やり過ぎですかね?〉って確認されましたが〈全然いいです!〉って太鼓判を押しましたね(笑)」

――“ありふれた物語”は何度聴いてもこみ上げるものがあります。

「もともとはファンの皆さんへの感謝の気持ちを歌いたくて書き始めた曲なんです。歌詞のなかに〈誇れるのは そう君が出逢ってくれた そう君が僕を選んでくれた〉というフレーズがあるんですが、そこをどうしても歌いたくて。いろんな作品が作れるのもファンの皆さんが僕と出会ってくれて、数ある音楽のなかから僕の音楽を選んで手にしてくださっているからこそできることなので、きちんと言葉にして伝えたいと思っていました。

そこから『星飼いの少年』の物語とどう絡めていくか考えていきました。主人公のアルもきっと去りゆく大切な女性にそう思っただろうなと。そして彼は弱い人間だと思うんです。守るべきものを守り切れなくて闇におちてしまった心の弱さがあり、〈自分はなにもできないありふれた奴だ〉と思っているのですが、そのなかでも彼女への感謝とか、誇れるものとかポジティブなものを残してあげたくて。僕自身が伝えたい言葉と物語の流れを合わせて〈二人だけの花見〉のシーンを彼の思い出として描きました」

――先日MVも公開されました。オフィシャルTwitterで制作風景が公開されていました。絵を重ねて1コマ1コマ作っていかれたのでしょうか。

「今回は立体アートで作っています。イラストを描いては切って色を塗装して重ねてという作業を繰り返しました。下塗りだけで6回行いましたね」

――すごい作業量ですね。

「そうですね(笑)。大変でしたが、これを繰り返すことで紙なのにすごい味のあるものが出来上がるんです。そこに自分で豆ピンを取り付けて糸で吊って動かして撮っていきました。男性スタッフに手伝ってもらいながら撮ったので、撮影風景はシュールですが(笑)、すごくヒューマンチックな映像になりましたね」

――AKIHIDEさんにとっても思い出深い曲ですね。

「『星飼いの少年』の核となる楽曲ですね。すごくアルバムを伝える曲になっています」

――〈すれ違う人は誰も楽しそうで悲しみなんて見せちゃくれない……〉という歌詞の部分で自分たちには色がついていて周りがモノクロというのも印象的でした。この歌詞からすると、普通は主人公たちがモノクロで、周りがカラーというイメージになるかと思うのですが、あえて逆になっているのは?

「みんな普段の生活のなかで何かしら抱えてると思うんです。楽しそうに見える人たちもつらいことや悲しいこととか。二人からしたら周りの人たちが羨ましく見える状況かもしれないのですが、そういうことってありふれてると思うんです。周りの人から見たら二人が幸せそうで羨ましく見えてるかもしれない。みんな笑っているけど何かしら心に抱えているよってことを表現したくてカラーではなくモノクロにしたんです。主人公たちは物語のメインなのでカラーにしてコントラストをはっきりさせました」

――AKIHIDEさんの世界に登場する桜はいつも、もの悲しく切なさを助長する象徴として描かれているような気がします。

「僕自身、今は桜に悲しいという印象は持ってないんです。桜って一瞬じゃないですか。悲しいというよりは一瞬咲くことの〈儚さ〉を教えてくれるものだと思えてきて。それがあることで、より美しく感じることができるというか。日本語で〈さようなら〉に込められた意味が〈もしこのまま会えないならば〉という意味があるらしいんです。これを知った時に、日本語や日本人の感性って根本的に死や別れっていうのを意識しているなと感じて。〈桜は散るから美しい〉ってよく言われていると思うんですけど、年がら年中満開の桜がそこらじゅうにあったら、みんな本来桜が持つ美しさや儚さ、ありがたみを感じなくなってしまうだろうなと思います。だから、悲しさというより大事なことを教えてくれるものかなと思います」

――このアルバムのもう一つの核となる“星飼いの少年”は孤独の中にも温もりを感じられるノスタルジックな曲ですね。

「寂しさが持つ冷たさと思い出が持つ温かさみたいな相反するものを表現しました。思い出が温かいからこそ、寂しさが余計冷たく感じるというか。この曲はプライベート・スタジオで弾いたのでラフに、リラックスした状態で演奏しています。音にも表れているかもしれません」

――“涙の海、越えて”はつらい思いや悲しみを肯定しながら、乗り越える強さをくれるとても、穏やかで温かい曲です。

「実はこの曲は1番最初にできた曲なんです。でもこの時はストーリーも固まっていなくて。ギター1本で成り立つ温かみのある曲を描きたいなと思っていたくらい。そしてこの時は違うタイトルだったんです。“紫陽花の海”というタイトルでした。『星飼いの少年』とは別のストーリーを考えていたので。インストゥルメンタルって歌詞がない分、タイトルが鍵になるんですね。タイトル次第で物語の開くドアか変わるので。ストーリーが固まって振り返った時に、これは涙の海だなと思ったんです。これを越えたことで明るい世界が開けたというか。とにかく包み込んであげるような曲に仕上げました」

――ラストは“青空”。大切な人を失った主人公が悲しみや苦しみを抱えながらも進もうとする儚さと力強さを内包したドラマチックなナンバーですね。これは物語が完成するにつれてできあがった曲でしょうか。

「いや、これは16年ほど前に作った曲です。当時は作品にするとか何も考えずに生まれた曲で、時おり弾いて歌ったりしていたんです。自分の中ですごく大事にしていた曲だったので。今回〈NAKED MOON2-星追いの少女-〉ツアーをやっていた時に、ふとこの曲を思い出して披露していたんですね。演奏していくなかで、〈もしかしたらアルバムにも合うんじゃないかな〉と思っていざはめてみたら、物語が固まったんですよね」

――凄いですね。まさにこのアルバムのラストをかざるのにふさわしい至極の1曲ですよ。

「歌詞は昔のままなんですけどね。『星飼いの少年』の世界そのものだなと思いました。長い間このアルバムのために待ってくれていたんだなと。なんだか不思議な感じですね」

――さらに今回は、初回限定盤にコンセプトストーリーブックレットとAKIHIDEさん本人による朗読CDが付いてきますね。これはAKIHIDEさんの案だったのでしょうか。

「これはスタッフさんから出たアイデアで、面白いなと思ってやりました。最初は物語の一節を楽曲の間に入れ込むという話だったんですが、尺が足りなかったのでCDにしちゃえと(笑)」

――そうだったんですね(笑)。朗読初挑戦ということでいかがでしたか?

「面白かったです。自分とセッションしてるみたいで。3人のキャラクター+ナレーションで声色を変えるのが難しかったですけど、自分の作品を自分で喋るのは楽しかったです」

――今作を、どんなふうにファンの方に受け止めてもらったら嬉しいですか?

「音楽CDとして今の音楽シーンのなかでは浮いた存在のような面白いものができたと感じています。でもアコースティック・ギターならではの優しい音色だからこそ、心に突き刺すようなものではなく包み込むような世界に仕上がったので、そこを感じていただけたらと思いますし、後はすごく深読みができる設定や余地を僕なりに残しておいたので、自由に考察していただければと思います」

――最後に今作を引っ提げてのツアーがこれから始まります。今回のツアーの見どころや聴きどころを教えてください。

「今回はレコーディングにも参加してくれた砂山くん(ベース)と豊田くん(パーカッション)と3人でまわるんですけど、3人編成でライブをやるのはAmberツアー以来で。当時はパソコンからシーケンス音が出ていたりもしたので、完全に3人だけの音じゃなかったんですよ。今回は完全に3人だけの音になるので、すごく優しさや切なさ、そして熱さみたいなものが出てくると思います。凄腕ミュージシャンとその日だけの熱いバトルが繰り広げられると思いますので、楽しみにしていてほしいですね」

――余談で2020年はどんな1年にしたいですか?

「オリンピックイヤーですからね。皆すごい熱量で盛り上がるだろうから、それに負けないように活動していきたいと思います。ミュージシャンとしても成長したいと常に思っているので、成長した姿をお見せできるように頑張ります!」