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二人で演奏することで、ゲーム音楽が原点だったことを再認識した

――そんなお二人のデビュー・アルバム『soLi』は、ハード・ロック/ヘヴィメタルやクラシックというそれぞれが特化しているサウンドをベースに、ゲーム・ミュージックの要素を取り入れています。なぜそこで選ばれたのがゲーム・ミュージックだったのでしょうか?

ISAO「僕自身、音楽に目覚めたきっかけがゲーム・ミュージックだったんです。これまでの人生でいろんな音楽をやってきたけど、これがミュージシャンとしての自分の原点。それを2年前から沙織ちゃんと一緒に演奏するようになって再認識したところがあって。それに、ゲーム・ミュージックを語る上でストリングスって凄く重要なファクターだと思っているんですよ」

『soLi』トレーラー

――というと?

ISAO「今やゲーム機のサウンドってフル・オーケストラが当たり前ですが、8ビットの〈ファミコン〉時代はスペック的に4つの音しか使えなくて、その中の1つは効果音に割り当てられるので、実質3和音で曲が作られていたんです。それをクラシックの作曲家が作曲していたりするんですけど、そうした制約の中で、スケールの大きな音楽が奏でられていた。で、少なくとも僕の耳には、そこに無いはずの荘厳なストリングスの響きが聴こえていたんですよね。

その後、コンソールの進化と共に生音とかも使えるようになって、90年代後半の〈プレステ〉時代からは完成されたサウンドでプレイができるようになった。その頃、僕は高校3年生くらいでしたが、当初の世界観に時代が追いついたというか、やっと自分の耳に時代が追いついたような気がして、凄く嬉しかったのを覚えています」

――星野さんも元々ゲームやゲーム音楽がお好きで?

星野「はい。私はISAOさんとは10歳違いで、ISAOさんが〈ファミコン〉世代なら、私は物心がついた頃に〈スーパーファミコン〉版の『シムシティ』とかが家にあった世代ですね。よく遊んだのは〈プレステ2〉で、映像がとても美しくて好きでした。

でも、先に興味が向いたのはゲームよりアニメだったかな。父親の影響で好きになって。特に高橋留美子先生の『うる星やつら』や『めぞん一刻』とかは昔からファンで、ラムちゃん、弁天さま、おユキさま、ランちゃん……大好きでした。

どちらかというと作画のほうに興味があったので音楽はあまり意識していなかったんですが、そのうちアニメの劇伴は夢中になって聴くようになりましたね。今や、クラシックよりもゲームやアニメの音楽のほうが好きなくらいです(笑)」

 

理想のゲーム音楽をとうとう作っちゃった

――ゲーム音楽って劇伴やサントラとも違って、自分=プレイヤーのための音楽というか、ゲームの主人公である自分を盛り上げてくれる音楽なのかなと思っています。そういう意味でも、ミュージック・ビデオも公開されているアルバムの1曲目“Opening Gambit”は「俺って凄え」と気分を高揚させてくれるようで、冒頭から心を掴まれました。

ISAO「“Opening Gambit”はまさに戦闘モノのゲームみたいに〈今から戦いが始まるぜ〉っていう気持ちのナンバーで、沙織ちゃんとsoLiを一緒にやるって決まった時に、ゲームっぽい音楽を書こうと思って作ったものです。

これを初めて一緒に演奏した時は、〈来たな〉と思いましたね。子供の頃に夢に描いてた理想のゲーム音楽を、とうとう自分で作っちゃったなって。沙織ちゃんと一緒に演奏することで、〈やっぱり自分に足りなかったものはこれだったのか〉って確信したんですよ。

『soLi』収録曲“Opening Gambit”

というのも、それまで主にプログレ・メタルやロックの世界にいて、海外の一流ミュージシャンたちとも共演するため、ポリリズムとか変拍子を7弦、8弦ギターで表現することだったり、ギタリストとしてスキルやサウンドを追求して来たつもりだったけど、いつもどこかで物足りなさを感じていたんです。それを払拭してくれたのがツイン・ギターでもなく、彼女のヴァイオリンだったんですね。

以前にもヴァイオリンを入れたバンドはやったことがあるんですが、当時は〈バンド脳〉な考えで、音を歪ませてギターのように弾かせたりして、生音を活かしきれていなかったのかなって。でも沙織ちゃんと共演した時に衝撃を受けて、打ち込みのストリングスにはない生演奏の魅力に目覚めました

――ヴァイオリンはパフォーマンスとしても見栄えがしますよね。

ISAO「まさに。クラシックのヴァイオリンってそうですよね。絵的にも美しい」

星野「私にはISAOさんの言う〈バンド脳〉が何なのかもよくわからないけど(笑)、私は元々ピアノと対等にかけあって演奏できるヴァイオリン・ソナタが大好きなので、soLiでもつねにお互いが主役のつもりで弾いています」

ISAO「一曲の中で何もかもをヴァイオリンにリードしてもらったり、ユニゾンばっかりにしたり、単に交代でメロディーを弾けばいいってわけでもないと、沙織ちゃんとの共演から学びましたね。

例えばギターのバッキング・パターンをヴァイオリンで再現させたりするとか、型破りな発想でイメージを膨らませていくのが面白いというのもsoLiを始めて気づきました」

――ちなみに、お二人が今回レコーディングに使用した楽器ってどんなものですか?

ISAO「僕はESPの、8弦仕様の最新シグネチャー・モデルを全トラックで使用しました」

星野「私は1770年代に作られたイタリア製のヴァイオリン。かのベートーヴェンと同い歳のものですね」