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生活に近いものを作りたい

黒川「ちょっと質問の毛色を変えて。もしこの世に音楽がなかったら何をしていたと思いますか?」

PARKGOLF「実は最近そういうことを考えていたんです。椅子を作るかガラスを作るか」

黒川「その心は?」

PARKGOLF「いま音楽が無くならないとしてもいつか作りたいなと思っていて。音楽って耳で聴くことしかできないから、一方で物としてあるのがいいなって。椅子とか、ずっと使える物ですね」

黒川「それってさっきの石に近いんじゃないですか?」

PARKGOLF「そうそう、近いかもしれない。あとなかなか買い換えるものでもないから、ずっと近くにあるし、1日に1回は関わるし。そういうものがめちゃくちゃいいなと思って。ガラスのコップとかもそうですね」

黒川「〈触れる〉っていうことと〈ずっと続く〉っていうことが大事なんですね」

PARKGOLF「最終的に音楽はずっと続けるつもりだけど、そういうことも一緒にやりたい。椅子は生活感があるし。音楽にも最新のテクノロジーとかあるけど、生活にはまだ直接関係してないものだから、それよりかは衣食住に近いものの方が好きなんだなと思って」

黒川「実は僕、音楽をそこまで聴かないんですよ。だから音楽と生活の距離が離れているというか。街を歩いていても、車が通る音とか人が行き交う音のほうが好きで、イヤホンを外しちゃったり。でもゴルフさんの曲は、そういう世界の音とか地球の音に近いかもしれないです」

PARKGOLF「逆に(黒川が)詩を書くにあたって、音楽を聴いて詩が思い浮かぶことってありますか? 詩を書こうとしてる状況じゃなくて、たまたま聴いていてハッて思うみたいな」

黒川「それでいうと、インストの方が多いんですよ」

PARKGOLF「なるほどなるほど」

黒川「10年前くらいに、OVUMっていうインスト・バンドをよく聴いていて、そのおかげで当時創作の回数が多くなりましたね。ゴルフさんは街の音とか意識したりしますか?」

PARKGOLF「うーん。意識して〈いいな〉って思うことは少ないかな……」

黒川「さっき、友達と音楽を始めたときに方向性が違っていってトラックを作り始めたって言ってましたけど、じゃあ歌詞はゴルフさんにとってどういうものなんですか?」

PARKGOLF「歌詞は、自分のなかで印象の強い言葉をどんどん書いていって、そのなかから使いたいものを繋いでいくことが多くて。何か思っていることがあるときは、ひとつのことを元に話を続けていく感じです」

黒川「例えば歌い手の人に入ってもらうこともあるじゃないですか。そのときには歌詞の方向性は指定するんですか?」

PARKGOLF「例えばえみそん(おかもとえみ)との曲とかは自分が書いて歌ってもらったけど、ラッパーと一緒にやる時は、何も言わないで曲だけ渡して、自由なことを歌ってって言います。でもあんまりイメージとかけ離れたことを書く人がいなかったから、これまで歌詞を直したことはないかな。イメージを伝えてなくても、うまく歌い手に雰囲気とかが伝わっているのかなって思います」

おかもとえみをフィーチャーしたPARKGOLF“ダンスの合図 feat. おかもとえみ”のMV
 

黒川「今回、この対談を経て、僕は一曲をフィーチャーして詩を書くんですけど、全く違う感じになっちゃうかもしれない……」

PARKGOLF「そこは大丈夫ですよ(笑)。自分は、その曲のごく一部がやりたくて作っているから、全体の雰囲気にさえ合っていればあとはなんでもいいって思うところがあって」

黒川「なるほど、フィールドが広いってことですかね」

PARKGOLF「ですね。めっちゃフィールドは広いと思います。詩を書く時はどういうパターンが多いの?」

黒川「あー、ここ数年は突き詰めて作るものよりも、どこまでだったら人が言葉として読めるだろうっていうバランスを意識して作っているものが多いかもしれないですね。わかる範囲というか。言いたいことの概要は変えないけれど、ギリギリ届くっていうわかる範囲を意識して書いているかも」

PARKGOLF「じゃあ細かいディテールより、言いたいことがひとつあって、それを伝える方法をギリギリのところでやってみる、みたいな?」

黒川「うーん……ディテールが全部決まっていった結果、そうなるというか」

PARKGOLF「おー、へえ……」

黒川「〈てにをは〉をどこか省略するとか、細部を固めていくと、結果として言葉の橋が全部繋がっていくというか。言いたいことがある時に、〈こことここが何かに触れるかもしれない〉って思うところがあるとしたら、そこの細部を詰める。すると、気づいたら言葉の橋が勝手にかかっている。それが〈意識しているのがギリギリ伝わるところに落とし込む〉っていうところですね。例えばゴッホのように、死んでから作品の意図が広まって伝わる人もいますけど、そうじゃないような寄せ方を最近は意識して作ってます」

PARKGOLF「ディテールを決めてたら自然に出来る……なるほど」

黒川「だから、僕も詩を書く作業台についたら書けるっていうことは、普段からそのディテールを詰めていく作業をしているからで。そういうところは音でもあると思いますけど」

PARKGOLF「うんうん。僕も曲の全体よりかは、曲の一部の、聴いている人には細かいディテールの部分がめっちゃ大事で、その部分さえよければ後は個人的に満足しちゃうから。だから、それ以外の部分は譲るって言ったら変だけど、それ以外の部分もよりわかってもらえるかもな、って考える時も結構ありますね。ディテールか……結構ディテールの方が重要みたいな?」

黒川「そうですね。〈これを書く〉っていうものが決まっていたとしたら、それをどう書いていくかというよりも、その解像度をめちゃくちゃ上げる。粒子を際限なく細かくできたらなって。例えば、〈今後はこっちの作品にシフトしたい〉って思った時でも、その細かささえあればどっちにでも振れるっていうのもあって」

PARKGOLF「いやー、それはめっちゃわかるかも」

 

自分の手に収まる幅のもの

黒川「そういえばゴルフさん、映画で泣けないっていう話もしてましたよね」

PARKGOLF「1回もないですねえ。映画もドラマも音楽も」

黒川「好きな映画とか本はありますか?」

PARKGOLF「いや……子供の頃の思い出で好きっていうのはあるけど、〈このメッセージが〉とか〈この演出が〉とかは全くなくて。最近〈感動〉について考えていて、多分感動はしているんだけど全然長続きしないんだろうなと思って。〈あっ! いい!〉って思うことはあるけど、秒単位とか一瞬で終わって、あとはどうでもよくなっちゃう。その話のうちのめっちゃズームした一瞬とかがいい。それがあればいい映画だなって思うぐらいの感じ」

黒川「じゃあ音楽を作るって時も感動させようっていう意識は……」

PARKGOLF「ない。全くなくて」

黒川「それって、僕はすごく好きな姿勢かもしれないです。今より若い時は〈これ書いたら感動するだろうな〉って考えたことがあったけど、その意図が見えるものって受け入れる側からすると全く〈来ない〉じゃないですか」

PARKGOLF「〈来ない〉ね。そういうのが見えれば見えるほど引いちゃう」

黒川「ですよね。だからすごく共感しますね」

PARKGOLF「うんうん。でも人によっては、とことん感動させる場所を作って欲しい人もいるよね」

黒川「僕のなかでとても残っている言葉があって、映画『おくりびと』の脚本を書いた小山薫堂さんにお会いした際に、〈たくさんの人を感動させようとして作ったものがそんなに遠くまで届かなくて、誰か特定の人に書いた手紙みたいなものが、結果として世界の端まで届いたりしたことがあった〉と言っていて。みんなを感動させるっていうすごく抽象的なことよりは、さっきの生活の話じゃないですけど、自分の手に収まる幅のものの方が、心に入り込みやすいのかもしれないと思いますね」

PARKGOLF「なるほどね。できればそうであってほしいという願いもありますね」

 

別の世界を救う夢

黒川「あと聞いておきたいのが、子供の頃からの記憶に残っている夢ってあります?」

PARKGOLF「めっちゃある。例えば……変な話になるけど、〈別の世界を救う〉みたいな。そういう夢を見ることが本当に小さい頃からあって……」

黒川「異世界ものだ(笑)。それってどういう設定なんですか?」

PARKGOLF「一番最近見たのだと、人と公園を歩いていて、振り向いたらいきなり違うところにいて、いままでとは違うデカい草とか刺々しい木々がいっぱいあるところに、小学校から高校ぐらいまで住んでいた実家が出てきて。〈実家だ、行こう〉ってなったら、母親に〈この世界はもうダメだ、終わりそう。だからそれを自分の世界のほうに伝えてほしい〉って言われて。〈わかった〉って言って振り返るとさっきの公園に戻れて。そこで一緒に歩いていた人に〈いまこうこう言われたんだけど、あっちの世界はダメらしい〉みたいなのを言って目が覚める。そういう夢が何個かあって」

黒川「え、異世界に救いに行く手前で覚めるの?」

PARKGOLF「いや、救いに行ってるのもある。例えば、結構大きめの駅で、その植物が生えたらその場所がダメになる、生物が死んじゃうっていう植物テロみたいな設定で。ただ植物がもう生えかけているところがその駅にあって、そこから次の駅に行って、みんなに走って〈早く逃げろ!〉って知らせて目が覚めるっていう」

黒川「じゃあ戦ったりしているっていうよりかは」

PARKGOLF「知らせなきゃいけないらしい。〈知らせなきゃいけない役目〉っていうことで言うと、よりリアリティのあるヴァージョンの夢を2年前くらいに見て。友達のBUDDHAHOUSEと最初の半年くらい東京で一緒に住んでいた時の夢で、家の4階で向かい合って話していて。奥に窓があって、窓の奥からおじさんが来る。〈ここ4階なのにあり得ないな〉って思っていたら金縛りに遭うんです。〈やばい、動けない〉ってなって、解けて寝たらまた最初から夢が2回くらい繰り返されて。そのうちにピンポンってインターホンが鳴って、〈あのおじさんなんじゃないか〉って思って、BUDDHAHOUSEが出てみたら、本当にそのおじさんで。〈どなたですか〉って言うと、〈昔ここに住んでいた者で、たまたまBUDDHAHOUSEの遠縁の人です〉って言われて。〈こんな珍しいことあるんだ〉と思いながら、〈起きたらまた現実世界のBUDDHAHOUSEに伝えてください〉って言われて(笑)」

黒川「また伝言なんだ(笑)」 

PARKGOLF「で、起きてからちゃんと本人に伝えたら〈だから何?〉って感じで言われて」

黒川「あしらわれて終わったんだ(笑)」

PARKGOLF「毎回伝言させられる……」

黒川「いまやっている仕事も、何かしら伝えていかなきゃいけないっていうアナウンスなのかもしれないですね(笑)。誰か夢の研究者がこの記事を見つけてくれたら嬉しいです。じゃあ最後の質問なんですけど、『笑っていいとも!』の〈テレフォンショッキング〉のように、今回はおかもとえみさんから紹介してもらったゴルフさんと対談をしたので、次の対談相手を紹介してもらいたいんですが……」

PARKGOLF「誰がいいかな……。めっちゃ近いところでいったらBUDDHAHOUSEですかね。結果としてゴールは近いんだけど、考え方が違うからおもしろいと思うし。あとはSUSHIBOYSのファームハウス。話していて突拍子も無いことを言ったりするので」

黒川「ご紹介いただきありがとうございます。今日はなかなか好きな話が出来たし、一見音楽から遠いテーマでもまた音楽に結びついていくのがおもしろかったです」

PARKGOLF「こちらこそありがとうございました」

 

この対談を経て、黒川氏がPARKGOLFの楽曲“PINK”を浴びて書いたアンサーポエムはこちら



PROFILE:黒川隆介
神奈川県川崎市出身。16歳から詩を書き始め、国民文化祭にて京都府教育委員長賞受賞。「詩とファンタジー 寺山修司抒情詩篇」に山口はるみ氏とのコラボレーションで掲載。柏の葉T-SITEにて登壇、ファッションブランドとのコラボレーションなど、近年、詩と映像を軸に広く活動中。