今年で40周年を迎えたカシオの電子楽器。その代表格である〈カシオトーン〉といえば、全ての人にとって鍵盤楽器をより身近にしてきた存在であり、その機能性と創造的な音色で、日本の音楽文化醸成に深く貢献し、音楽ファンから親しまれてきた。

電子楽器のみならず、電卓〈カシオミニ〉や腕時計〈G-SHOCK〉など、様々な分野で大ヒット商品を次々と生み出してきたカシオ。その創業者の一人である樫尾俊雄は、エジソンの〈必要は発明の母〉ならぬ〈発明は必要の母〉を唱え、〈いいものを創造すれば、必ず人々はそれを必要とする〉という強い信念を貫き通してきた。

そんなカシオと深い関わりを持つのが、同じく結成40周年を一昨年迎えたYellow Magic Orchestra(YMO)のメンバーである高橋幸宏だ。カシオの楽器との繋がりの深い彼は、80年代にはプリセット音色のセレクトなど技術開発にも協力したことがあるという。最新テクノロジーを駆使しながら、今まで誰も聴いたことのない音楽を作り続けてきたYMOと高橋のクリエイティヴィティーは、前述した樫尾俊雄の信念に通じるところがあるだろう。

そこで今回Mikikiは高橋とともに、東京・成城にある〈樫尾俊雄発明記念館〉を訪れた。日本のエレクトロニクス産業の発展に貢献した樫尾俊雄の旧邸を改装し、カシオの様々な製品を展示しているその空間で高橋は何を思うのか。YMO時代の貴重なエピソードや、作品作りに対するこだわりなどたっぷりと語ってもらった。

★カシオ電子楽器40周年記念サイト

 


アイデアがひらめくとき

――記念館の見学を終えて、どんな感想を持ちましたか?

「いやあ、面白かったですね。ここにカシオの創設者である樫尾俊雄さんが住んでいらして、電子楽器に限らず色んな製品のアイデアを思いついたのだなと想像すると、感慨深いものがあります。ここ(インタビューを行なった場所)が書斎なんですよね。家の中や、外の庭を歩きながらふと何かを思い付くと、ここに戻ってきて〈ああでもない、こうでもない〉と試行錯誤されていたのかなあ、とか。そんなことを想像するのは楽しいですね(笑)」

――幸宏さんは、どんなときにアイデアが思いつくのですか?

「音楽を聴いていたり、車の中だったり、半分寝ている時に突然メロディーが浮かんだり。慌てて起きてメロディーだけ録音しても、後で聞くと大抵は酷い代物なんですけどね(笑)。僕は釣りが好きで、いろんな人からよく〈自然の中で釣りとかしてると、色々アイデアが思い浮かぶものですか?〉なんて訊かれるのだけど、それはなくて。

ただ、常に頭をリフレッシュすることは大切ですね。そうしないと、どうしても考え方が偏りがちになる。〈無〉になれる場所は必要だと思うし、それが次の場所へ向かうエネルギーになるというか。そんなリフレッシュの場所が、僕にとっては釣りなのかもしれない。例えば未来のこととか、つい悲観的に考えてしまうことって若い頃は特にあると思うんですよ。いや、歳を重ねてもそういうことはあるかな。そんな時も、努めて頭の中を〈無〉にするようにしていますね」