女性ミュージシャンたちの〈根元的で巨大な受容〉
――また、タイトル・トラックの“Ginormous”をはじめパズ・マッディオが5曲でヴォーカルを務めています。彼女はブエノスアイレス出身でヴァリュー・ヴォイド(Value Void)というポスト・パンク・バンドのメンバーでもあります。彼女との出会いについて訊かせてください。
「以前、アイスランドの〈ATP〉に出演したときに友達とコーヒーを何杯も飲んでいたんですよ。カフェインで覚醒しながら友人がやってるアルゼンチンのバンドを観ていたんですけど、そのドラマーの親友がパズだったんです。
で、彼女がロンドンに移住することになったから、それ以来シェア・メイトとして一緒に住んでいて。最近はGrimm Grimmのライブ・メンバーとしてツアーに参加してくれています」
――前作にはル・ヴォリューム・クールブのシャルロット・マリオンヌが客演していましたけど、2作連続の参加となるディー・サダ(ロンドンのエクスペリメンタル・バンド=ブルー・オン・ブルーに所属するネパール系女性ミュージシャン)や、ヴァイオリンのアガーテ・マックスにクラリネットのソフィー・ロウなど、さらに多くの女性アーティストが貢献したアルバムとなっていますね。
「僕自身が自分には出せない女性の声に惹かれる、というのはあると思いますね。母親から出てきた生物として、根元的で巨大な受容を感じるというか。
たしか、中学3年生か高校1年生くらいのときに、部屋でずっとフランソワーズ・アルディのデモ音源を聴いていたんですよ。それはマイク1本で録音したようなラフなものだったんですけど、なんかこう……カラダが不意に浮くような気分になるくらい持ってかれてしまって。
デイストーションの音で完成される曲があるように、その曲に合った声っていうのはある気がするんです。でもまぁ究極、一番大事なことは声の質とかじゃなくて、ハートがこもっていることだと思います」
――ヴォーカリストとして好きなアーティストも、やはり女性が多い?
「いや、J・マスキスとか好きですよ。ダイナソーJr.はまずメロディーがいいですからね(笑)。あとはそうですね、レナード・コーエン、チェット・ベイカーとか。なんとなく、シンセのローパス・フィルターを削ったような周波数の声が好きです。
あとなんていうか、その人のパーソナルな部分、一番弱い部分が出るヴォーカリストに惹かれるのかも」
――振り返れば、Screaming Tea Partyもイタリア人女性のテレーサ・コラモナコ(初代ドラマー)と出会ったことから始まったとか。
「そうですね。でも、こうやって思い返してみると、自分から女性アーティストを見つけようとしていたわけじゃなくて、ライブとか友人の紹介で出会った縁から始まることが多かったんです。
マルタの場合も、もともとは彼女がやってるソロ・プロジェクト(シスター・スタティック)と対バンしたのをきっかけに友達になりましたからね。
マルタの曲はリール・トゥ・リールで拾ったハンマーの音を使っていたりして、なかなかアヴァンギャルドで面白いんです。マトモな音源はほとんどリリースしてないんですけど……(笑)」
ものすごい変人、だけど地に足の着いた人=ケイト・ル・ボン
――余談ですが、昨年11月にケイト・ル・ボンがキュレーターを務めたベルギーの〈Sonic City〉に出演されていましたよね。彼女ってどんな人物なんですか?
「ものすごい変人です彼女、でもいい意味で(笑)。以前Screaming Tea Partyとして所属していたストールン・レコーズがずっと契約したがっていて、そのときに名前を知りました。個人的には面識は無かったのですが、去年いきなり〈一緒にツアーやらない?〉ってメールが来まして。
そのヨーロッパ・ツアー中に1日だけオフの日があって、みんなで山に出かけたんですね。氷点下でめちゃくちゃ寒い日だったんですけど、朝食のときにケイトが〈湖に飛び込もう!〉って言い出して(笑)。どうせ冗談だろ~って思っていたら、食べ終わるやいなやすぐに着替えて飛び込んでましたから。〈あ~、生きてる!!〉って嬉しそうに叫んでました(笑)」
――想像以上にエキセントリックですね(笑)。
「で、ツアーの最終日がパリの船上にある〈Petit Bain〉っていうヴェニューだったんですが、そこにあったシャンパンをケイトがこっそり持ち帰っていて。みんなでホテルで飲もうって言ってたのに、他のメンバーがみんな疲れて爆睡してしまったんですよ。
〈じゃあ2人で飲んじゃおうか〉って街に出て、勢い良く〈ポンッ!〉と栓を開けたら、その音の響きを聞いた浮浪者の人たちが集まってきちゃって(笑)。最終的にはケイトと彼らが仲良くなって一緒にシャンパンを飲んで夜を明かすっていう……。なんていうか、しっかり地に足の着いた人ですね」