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ここが引き時でしょ

 制作に際して音楽面でまずKRUSHの頭にあったのは、ハーフタイムとも称される流れに代表されるようなドラムンベース界隈のサウンド。アイヴィ・ラボ、ダブ・キラー、ノイジアといったアーティストの名を挙げ、彼は言う。

 「地球が終わり果てて、壊れかけたスピーカーから鳴ってたらカッコいい音を想像したときに、UKのクラブで鳴ってるようなアンダーグラウンドなサウンドがすぐイメージできた。特にベース・ミュージック系や、ドラムンベースの中でもレフトフィールド寄りなビートは、最近クラブでよくかけてるのもあって、いま俺の中ではいちばん刺激的だし、作ってる人たちがヒップホップを完全に通過してるから、エレクトロニックなビートを作っても凄く黒いノリが感じられる。BPM86ぐらいでドラムンベースの半分ぐらいのテンポがヒップホップ的で、自分で作っててもおもしろいんですよね」。

 作品ごとにアプローチを変えようとも、DJ KRUSHをDJ KRUSHたらしめるのはヒップホップという核、ルーツの存在であり、四半世紀を超えるソロのキャリアを経た現在もなお、それはいささかも揺るがない。先の発言も一面でそれを物語る。和の要素も取り込んで冬枯れさながらの寂寥たる風景をも現出させた前作『Cosmic Yard』のまさしくその先を見せるかのような“Incarnation”で滑り出す『TRICKSTER』も実際、ダークでエレクトロニックな方向へとより舵を切った要所の終末感こそ本作独自のカラーなれど、ビートの間合いやループ的に配した音の手捌き、引きの美学も感じさせる空間の処理には、まごうことなき〈DJ KRUSH〉その人と彼なりのヒップホップたる刻印を見ることができる。

 「いまのベース系はもっと展開が凄いと思うけど、(本作には)ヒップホップのループ的なノリが残ってるし、俺もバリバリにシンセ弾いてビートを打ち込むタイプじゃない。その手の内の中でどう曲が出来るかっていうのがあったし、行きすぎずにどう寄せようかなみたいな葛藤もあったけど、作っていくうちに自然とそういう曲が出来上がっていったかな。例えば、ここに〈火〉を表現する音が絶対欲しいってなったら、そういう音を作って一個一個埋めてくわけ。そこは絵を描いてるのと一緒で、色を置いては離れて見て、まだ足りないと思ったら足していくけど、〈ここが引き時でしょ〉っていうラインは絶対あるからね」。