豊潤さを増した『New Me, Same Us』の音楽性

全11曲からなる最新作『New Me, Same Us』も、彼らが愛するシンセサイザーの音で幕を開ける。アルバムからの先行シングルとしてもリリースされたアップテンポな“Hold On”は、一緒にコーラスをハミングしながら踊りたくなるような軽やかなダンス・チューンで、ユキミの伸びやかなヴォーカルが際立っている。続く“Rush”も、アフリカンな躍動感のあるドラムのビートに、エリックがユキミの声に重ねてハーモニーとして参加することで男性的な力強さも加わり、アルバムのリズミカルなトーンを形づくっている。

『New Me, Same Us』収録曲“Hold On”

「スウェーデン人はメランコリーの中に美しさを感じるの。天気が憂鬱な日が多いせいかもしれないけど」。そう語るユキミが歌う3曲目“Another Lover”は、メランコリックな低いトーンで始まるが、曲が進むにつれて飛翔するように展開していく様が非常に美しい曲だ。〈この暗闇を愛しているし、私たちの悲しみを愛している/夏になれば、私たちが花を咲かせると分かっている〉。

こうした展開やブリッジの美しさはこのアルバムで特筆すべきポイントであり、6曲目“New Friction”の間奏で奏でられるキーボードや、7曲目“Sadness”で変わっていくリズム・パターンと曲調のトランジションも飽きさせることがなく、バンドの進化と挑戦が感じられる。カリ・ウチスとのコラボ・ヴァージョンが先行リリースされた“Are You Feeling Sad”から、一転してオーソドックスにも聴こえる“Where You Belong”への曲と曲の繋がりは、かえって耳を捉えて楽しませてくれる。

『New Me, Same Us』収録曲“Are You Feeling Sad?”。このシングル・ヴァージョンにはカリ・ウチスが参加

ヒップホップ・チューンのような軽やかなビートで始まる最後の曲“Water”は、〈水のように滴る私〉という詩的な歌詞の背景で、海へ向かうように、さらには宇宙へ向かうように余韻を残していくサウンドが印象的だ。それはまるで、アルバムの終わりとともにドラゴンが静かな暗闇へと向かって音も無く飛んでいくような姿をも想像させて、バンドとしての音の表現力がさらに豊潤さを増していることを感じさせてくれる。

 

新たな到達点から、ユキミのルーツ=日本での飛躍へ

『New Me, Same Us』は、まさにそのアートワークのように、色彩豊かな音のピースが万華鏡のように展開していく素晴らしいアルバムだ。ユキミの歌声を中心とした変わらないリトル・ドラゴンと、バンド全体として進化したリトル・ドラゴンを表現した彼らの新たな到達点であり、今後さらに様々なアーティストからより多くのコラボレーションを望まれるだろうことを大いに予感させてくれる。

ユキミの歌声には、人の心と耳を捉える大きなパワーがある。そのパワーが、彼女がルーツの半分を持っているここ日本でも、さらに広がっていくだろうことを期待してやまない。