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1曲目から100本くらいの弦が鳴り響く

そして、2020年には再びソロ名義のアルバム『Traditional Techniques』が到着。これがまた面白い。サウンドは一転、アコースティックに。サイケ〜アシッド的なムードもあるフォーク・ロック作品だが、60年代風のそれを奏でるだけのレトロスペクティヴなものではない。踏み込みの深い、マルクマスの新しいチャレンジを感じさせる仕上がりだ。

冒頭から何種類もの弦楽器が鳴り響く。ギター、12弦ギター、レゾネイター・ギター、ペダル・スティール・ギター。シタールのようなサウンドはアフガニスタンの伝統楽器、ルバーブだと思われる。この“ACC Kirtan”という1曲だけで、全部で100本くらいの弦が鳴っていそうだ。

『Traditional Techniques』収録曲“ACC Kirtan”

 

中近東、東欧、北アフリカなどの音楽要素が交錯

レコーディングは『Sparkle Hard』と同じくディセンバリスツの本拠であるポートランドのハーフィング・スタジオで行われているが、今回はバンドを伴わないソロ・アルバム制作。重要なパートーナーは3人いる。ディセンバリスツのマルチ・インストゥルメンタリスト、クリス・ファンク、ボニー・プリンス・ビリーなどと活動するギタリストのマット・スウィーニー、そして、アフガン系アメリカ人のルバーブ奏者、カイス・エサーだ。

アルバムのアイデアはたぶん、『Sparkle Hard』の制作中に生まれたのだろう。マルクマスはディセンバリスツのスタジオに置いてある数多くのアコースティックな弦楽器に興味を惹かれた。さらに、そこでカイス・エサーが率いるアフガン系のグループとも出会ったようだ。

カイス・エサーのルバーブの響きに象徴されるように、このアルバムでマルクマスが追求するフォーク・ロック・サウンドは、60年代的なアシッド〜サイケの再現だけでは終らない。その背景にあった民俗音楽への憧憬をより深化させていく試みにも思える。あるいは、ベルリン滞在経験が中近東、東欧、北アフリカなどの音楽要素が交錯するこの『Traditional Techniques』にも作用しているのかもしれない。

『Traditional Techniques』収録曲“Shadowbanned”