〈らしさ〉を捨て、4番バッターっぽくなったリアル・エステイト

『The Main Thing』の興味深い点は、〈リアル・エステイトじゃなくても作り上げられたかも知れない音楽〉に仕上がっているところ。オリジナリティーを放棄したと言ってもいい。相変わらずメロディーは美しく、抑制の効いたバンド・アンサンブルが心地いい。しかし、今まで培ったリアル・エステイトらしさを捨てている。

『The Main Thing』収録曲“Friday”
 

具体的に指摘すると、ギターも鍵盤もコードを恥ずかしげもなく大げさに鳴らしている点。リズムのフックが減った点。意外な曲展開をしない点などが、いままでと違う印象を導いている。リアル・エステイトをリアル・エステイトたらしめていた〈ギター2本とベースラインの緻密な絡み〉と〈滑らかにストップ・アンド・ゴーするリズム〉は今回メインの武器として登場しない。

代わりに、大味とまでは言わないがこれまで避けていたであろう、インスタントだと批判されかねない大衆的なエクスタシーの追求が垣間見れる。なんというか、別の喩えをすると、4番バッターのスイングをイメージさせる。言うなれば筒香嘉智(MLB、タンパベイ・レイズ)の雰囲気。どっしり、肉厚でパワフルなのだ。グルーヴはより太くなり、音像も味わい深く重層的になった。一度ノったら最後まで滑らかに浸らせてくれる度量を持ったアルバムだ。

『The Main Thing』収録曲“Paper Cup”