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スタジオの日常風景が垣間見られるように

――“[demo]”や“Night is mine”の最後の談笑にはラフなスタジオの様子が垣間みられてニヤッとしてしまうんですけど、そこは何か意図があるんですか?

中本「Mr. Childrenの『深海』(96年)が大好きなんですが、あのアルバムは全部繋がってるじゃないですか。いずれはああいうコンセプトに沿ったアルバムを作りたいので、今回も僕らなりにコンセプチュアルな部分を出せたらなと思って。例えば“bouquet(Album ver.)”は“[demo]”から続く一連の流れで〈普段こんな感じで曲を作ってるよ〉みたいな日常風景が垣間見られるようにとアルバム用にアレンジしています。“Night is mine”もスタジオで曲の完成が見えてきた手応えや喜びの温度感が伝わればいいなと。僕が好きなストロークス(The Strokes)の音源にスタジオの雑味が入っていたりとか、オアシス(Oasis)の“Wonderwall”の最初に咳払いが入ってたりとか、そういうのも少し意識していますね」

――確かにいわゆる完成品では見えない過程の部分が垣間みられて親しみを覚えています。すごくいい意味で等身大のバンドの感じというか。

中本「そこから僕ららしさみたいなものも伝わればいいなって」

――素直に影響を受けて素直に吐き出しているなと感じました。特にアサダさんのギターはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのアベフトシさんのニュアンスを強く感じさせます。どういった音楽から影響を受けていますか?

アサダ「僕はずっとTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのコピー・バンドをしてたので、曲を作るときにこういうプレイをできたらいいなということで半ば手癖みたいに出てくることはありますね。でもミッシェルを土台としつつ、例えば“春を越えて”ならわかりやすくキャッチーなフレーズを意識してEDM風のループするフレーズを取り入れたり、バラードだったらOasisみたいなスケールを出したくて自分なりに考えてみたりしていました」

――確かに“今更”のギターソロなんかはOasisっぽい感じが出てますよね。あと歌メロの後ろでご自身も歌うようにギターフレーズをループさせているのは印象的です。

中本「いい意味でギター・ロックっぽくなくていいと思うよ」

やまぐち「身内で褒め合う(笑)。僕は9mm Parabellum Bulletのかみじょうちひろさんがすごく好きで、例えば“flowerpiece”の間奏ではどうしてもツインペダルが使いたくて入れてみるとか、多少なりともそのエッセンスは意識して出していますね」

ちゃそば「僕はベースが後ろで支えながらさりげなく動きを見せるような意識をしています。例えばMr.Childrenの中川敬輔さんやRADWIMPSの武田祐介さんのプレイを参考にしたり。(中本)樹が持ってきたコードを解釈して合うようにフレーズを考えて、“吐く”ではウォーキングベースを取り入れたり、単純にルートをなぞるだけではない深みが出せたんじゃないかと思います」

――それぞれの推しのポイントが見えてきますね。改めて『紡ぐ』で〈このプレイを見てくれ!〉みたいな部分があれば教えてください。

ちゃそば「僕はやっぱり“吐く”ですね。いままでベース・ソロはあまりなかったのですが、ウォーキングベースの見せ場があって新しい僕のプレイを出せたかなと思ってるのでそこをぜひ聴いて欲しいです」

やまぐち「さっき言った“flowerpiece”のツインペダルを筆頭に、かみじょうちひろさんのエッセンスを僕なりに出してるところをやっぱり推したいですね。あとメロコアでよく使われるチャイナ・シンバルの音を取り入れて映え方にこだわって録音しているので、そこを聴いて欲しいです。“flowerpiece”は僕らがいままでやってきたことの中に好きな音楽の要素を取り入れられた新境地だと自負しています」

中本「僕は“生活のすべて”も推したいんですけど、“ありふれる”かな。6/8拍子の曲で、大学で4年間共に過ごしてきた仲間に向けた曲というのもあって、それぞれが社会人になって新たに踏み出す中で、新たな生活に慣れてきた頃に思い出して聴いて欲しいって想いがあります。いい意味で決別もしつつ、懐かしい思い出として昔を思い返してもらえたらなと」

――環境が変わってから改めて思い返してみると、思い出にも実感が籠もるような感じですね。

アサダ「俺は“Night is mine”です。いつもは手癖からソロを作っていくんですけどこの曲は(中本)樹のコード感に寄り添ってギターを弾けたので、新たな自分を出せた気がしています」

――皆さん大学卒業ということで、学生生活の中のバンド活動とは少し変わると思うんですが、『紡ぐ』には集大成というだけでなく新たな歩みへの決意も現れていますよね。

中本「僕たちを守っていたものがなくなってしまったので、大学の仲間たちが社会人として働き始めるのに負けないように、僕たちもちゃんとバンドとしてやっていこうという想いは強いですね。不安なこともありますが、力強く進んでいこうと思います」

 

〈March of lover〉と神戸の街への想い

――皆さんが主催されているサーキット・フェス〈March of lover〉(2020年3月の開催は中止となったが配信ライブを実施)や神戸シーンへの想いも伺わせてもらえたらと。率直に終えてみての感想を聞かせてください。

中本「一言で言うと大変でした。でも配信をやってみて、新しいこともできてよかったなとも思いました。最終的に各会場累計で3000人くらいの人が観てくれて、僕らを応援してくれている人はもちろん、初めて観る人にも届けられたことはポジティヴに考えています」

――すごくファン目線というか、つながりを大切にされているように感じました。みなさんにとってファンの方々はどういう存在ですか?

ちゃそば「お客さんの視点でどういうことをしたら喜んでくれるかってのは結構考えていて、配信であってもライブだけじゃなくサーキット・フェスならではの移動の様子とかアーティストのインタビューも配信したところはこだわりました。ファンの方々との距離はすごく近いように思うし、みなさんの支えの中でやっているので感謝しています」

中本「払い戻しの方法も、普通に返金する他にグッズで返すという方法も用意して、僕らもお客さんもWIN-WINになるように考えてやりました。そういうことで、輪を広げていけたらいいなって」

――このフェスは〈神戸の街で、同世代を音楽で引っ張って行進していく決意のマーチ〉ということですが、神戸シーンへの想いはやはり強いですか?

中本「僕たちは太陽と虎(神戸のライブハウス)を中心にやらせてもらっていて、芽が出ない頃からオープニング・アクトで差し込んでもらったりゲネプロで使わせて貰ったりとすごくお世話になっているので、ワンマンをソールドアウトさせるだとか何かかたちとして恩返しがしたいし、僕らがバンドとして大きくなったとしても必ず帰ってきたいという想いがあります。全国をまわる中でも神戸は必ずツアーに入れるし、帰ってきて安心する場所です」

――関西でも大阪のシーン、京都のシーンとある中で、神戸はどういう特徴があると思いますか?

中本「太陽と虎のバンドと聞くと〈打ち上げが激しそう〉とか言われるんですけど、そこまでそんなことはなくて(笑)。神戸シーンと言ったらなんだろう?」

ちゃそば「サーキット・フェスが多いことじゃない? 各バンドがイベントを持ちたがる」

――確かにバンド主体でイベントを立ち上げることが多い印象はありますね。

中本「一番の先輩はアルカラが〈ネコフェス〉をやってて、その次にalcottが〈ブタフェス〉をやって。あとパノラマパナマタウンの〈PANA FES〉だったり。中でも僕たちはalcottのみなさんにお世話になって背中を見てきたというのもあって、神戸のバンドを名乗るんだったらサーキット・フェスはしたいなって気持ちはありましたね。そういう姿を見て僕らも〈March of lover〉を始めた部分もあります」

――今回は関西の文脈を紡いでいこうという意思を持った〈みやはレコード〉からのリリースですが、やはり〈関西から〉という意識はやはり強いですか?

やまぐち「主宰の宮原さんにはシングル『春を越えて』をタワーレコード4店舗でリリースさせてもらったり、バンドの運営面でもすごくお世話になったので、まずは一緒に何かやることで返していきたいなって気持ちが強いですね」

――そして現在の状況下では何とも言えない部分もあるかとは思いますが、5月2日のインストア・ライブから8月1日の太陽と虎までのリリース・ツアー〈告ぐ〉が始まりますね。ツアーへの意気込みを聞かせてください。

中本「〈告ぐ〉というツアー・タイトルには〈僕たちの紡いできた歴史を皆さんにライブでお伝えする〉という意味を込めました。大変な状況ではあるのでどうなるかはわからないんですが、僕らのことを応援してくれているファンの方々にしっかり届けられるように、そしてその輪をもっと広げられるようにしたいです。今回はいままでより大きな会場の渋谷のTSUTAYA O-Crest、そしてファイナルは一番お世話になっている太陽と虎でのはじめてのワンマンなので、ひとまわり大きくなって神戸の街に帰ってきたいです」

――このような状況下でのリリースとなりましたが、その中でも音楽は人々を勇気づけていると感じます。ご自身たちが音楽活動をしていく意味について聞かせてください。

中本「外に出られない状況なので気持ちも沈んでくるとは思うんです。そういう人たちを勇気づけるとまではいかないんですけど、少しでも気が晴れたらそれほど嬉しいことはないし、未来への期待につながったらと思っています。〈この曲をライブで観たいからいまを乗り切ろう〉とか、〈今回のアルバムが良かったから次作をまた期待したいな〉とか、そういう気持ちに繋がってくれたらいいなと思います」

――最後に、アリーナツアーがバンドの夢と聞きました。今後の野望や展望を聞かせてください。

ちゃそば「アリーナツアーしたいなあ。最終的にはお茶の間も沸かせるようなバンドになりたいです!」

――フロアからお茶の間へ!

中本「当面の目標としては地道に少しずつライブの規模をを大きくしながら僕らの輪を広げることですね。全国の皆さんよろしくお願いします!」

 


LIVE INFORMATION
2020年5月2日(土)大阪府・タワーレコード梅田大阪マルビル店(インストア・イベント)
2020年5月9日(土)大阪府・福島LIVE SQUARE 2nd LINE
2020年5月16日(土)東京都・新宿SAMURAI
2020年5月17日(日)東京都・タワーレコード渋谷店(インストア・イベント)
2020年5月26日(火)宮城県・仙台enn 3rd
2020年5月29日(土)福岡県・福岡Queblik
2020年5月30日(日)岡山県・岡山CRAZY MAMA 2nd Room
2020年6月14日(日)愛知県・名古屋 新栄RADSEVEN
2020年6月21日(日)広島県・広島 CAVE-BE
2020年6月28日(日)北海道・札幌 SPIRITUAL LOUNGE
2020年7月11日(土)東京都・渋谷TSUTAYA O-Crest
2020年8月1日(土)兵庫県・神戸 太陽と虎
詳細はオフィシャル・サイト(https://artist.aremond.net/ofulover/)へ