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1. Kid Cudi “Leader Of The Delinquents”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はキッド・カディの新曲“Leader Of The Delinquents”! ソロの新曲としては、なんと4年ぶり。前作『Passion, Pain & Demon Slayin’』(2016年)から、もうそんなに経ったのか~」

田中「2018年にカニエ・ウェストとキッズ・シー・ゴースツ(KIDS SEE GHOSTS)としてアルバムを出しているので、そんなにひさしぶりって感じはしないですね。改めてキッド・カディについて紹介すると、米オハイオ州クリーブランド出身、84年生まれのラッパーです。彼はカニエにフックアップされた才能で、対立した時期もあったようですが、師弟関係にあると言っていいと思います」

天野「カニエはカディをかなり信頼していて、頼りにしていると思いますよ。カディといえば、デビュー・アルバムの『Man On The Moon: The End Of Day』(2009年)。クラウド・ラップに先駆けた浮遊感があるサイケデリックなビート、チルウェイヴ的な感覚、ダラダラとしたラップ、そして独特のコンセプト性には衝撃を受けました。彼はメランコリーや不安といった、ネガティヴな感情をラップした先駆者でもあって、カディってけっこう重要なアーティストだなと、ここ数年は感じますね」

田中話題の映画『WAVES/ウェイブス』でも楽曲が使われていますし、影響力ありますよね。個人的には、フィジェット・ハウス全盛の時代にフロア・アンセムになった“Day ‘N’ Nite”のクルッカーズによるリミックス(2008年)も忘れがたいです。我が道を行くオルタナティヴ・ヒップホップをやってきた彼ですが、この新曲はかなりストレートに90年代っぽいビート。プロデューサーはウードロ・スキルソン(Woodro Skillson)とドット・ダ・ジーニアス(Dot Da Genius)の2人です」

天野「前者は〈Arkateqq〉名義でも活動しているようですね。後者のドット・ダ・ジーニアスは、カディやキッズ・シー・ゴースツのビートを作っていた人です。本当にウータン・クランやノトーリアス・B.I.G.の曲なんかを思い出すブーンバップ・ビートで、ピアノやホーンのサンプリングが印象的。サビのフレーズは、ビギーの“Gimme The Loot”(94年)にちょっと似てるし……。リリックの内容は、やっぱりメンタル・ヘルスの問題やドラッグ中毒の苦しみが主題で、〈俺は自分の精神のなかに閉じ込められていた そこから逃げ出そうとしていたんだ/名声と孤独、惨事のレシピさ/このクソを制御できない そして俺は酔いつぶれた〉というラインが悲痛です。このリリックの〈閉じ込められていた〉というところには、パンデミックの状況下で家に閉じ込められている人々のことも含意されているのでは、とGeniusでは分析されています。この曲は、カディのニュー・アルバム『Entergalactic』からのシングルなんだとか。Netflixのアニメ・シリーズと連動した作品らしいのですが、どんなものになっているのか、楽しみですね」