Page 2 / 3 1ページ目から読む

未来的な懐かしさ

 ただ、そこでデュアが望んだのは〈プレッシャーに左右されず、自分が誇れる作品を好きなように作ること〉だった。先述の先行カット群の合間に出たプロモ・カットの“Future Nostalgia”は、プロデューサーにジェフ・バスカーを起用した、まさに未来的ながらも懐かしいファンキーなエレクトロ・ポップで、その延長線上にあるアルバムの総合的なテーマや方向性は、彼女自身の感覚によってチョイスされたものだったわけだ。

 この『Future Nostalgia』全体をうっすら覆うテーマは、95年生まれの彼女自身が子どもの頃から聴いていた00年代初頭のメインストリーム・ヒットをベースに、親を経由して親しんでいたという70年代ディスコや80年代ファンクのフレイヴァーを織り重ねたもの。また、そこに加味されたタイトなダンス・ビートの快楽性は、カルヴィン・ハリスやシルク・シティとのコラボで体感した往年のハウス・フレイヴァーに起因しているのかもしれない。

 そもそもピンクやクリスティーナ・アギレラ、ネリー・ファータド、デスティニーズ・チャイルドらに憧れてきたというだけあって、現代においてはトラディショナルですらあるデュアの端正な歌唱は、そうした00年代式ポップスターたちの正統な後継者に相応しいものともいえる。

 先達からの継承という角度からさらに見るならば、アルバムでオープニングを飾る先述の“Future Nostalgia”は、〈女にリードされるのは不慣れなんでしょうけど〉と往時のビヨンセやケリスを思わせる強気なフレーズも織り込みつつ、改めて現代的な女性像を打ち立てている。他にも〈女性として生きるうえでの苦み〉を綴る“Boys Will Be Boys”が収録されていたり、前作以上にエンパワーメントを意図した側面もキャッチできるはずだ。

 極めて野暮なことを言えば、デュア自身がイキイキと楽しんで取り組んだ作品だからこそ、いま不安に喘ぐ人々にもその心躍る感覚が(結果的には)広く届いたのではないだろうか。そんなわけで、この期に及んでまだ彼女に旧来的な女性ポップ・シンガー像を当てはめる人もいるのかもしれないが、仮に懐かしい意味でのピンナップガール的な魅力を彼女が兼ね備えていたとしても、ここは過去から見た未来にあたる現代だということをお忘れなく。いずれにせよ、いろいろな意味で2020年を代表する傑作が生まれたのは確かだろう。

関連版を紹介。

 

デュア・リパが客演した作品を一部紹介。