トム・ミッシュとユセフ・デイズのケミストリー

予想外に膨らんでいったふたりのセッション。その結果、たとえば親密で温かなフィーリングのあるミッシュのソロと比較すると、陰のある物憂げなサウンドに仕上がっているのが興味深い。緊迫感あふれるリフと、それに呼応するように張り詰めていく(文字通り!)ドラムのシンプルなソロで幕を開ける表題曲“What Kinda Music”は、ミッシュのヴォーカルにも歌詞にもダークさが反映されている。

また、グルーヴィーなループを軸とするミッシュのリズム感覚に、さりげなく殻を破るがごとく異なるアクセントを加えていくデイズのドラミングのケミストリーが至るところで聴けるのが本作の醍醐味だ。たとえば、8/8拍子を3+5(または3+3+2)で割って浮遊感を演出する“Festival”や、裏拍をスリリングになぞっていくギター・リフを粒の細かいドラミングが支える“I Did It For You”はとても味わい深い。

『What Kinda Music』収録曲“Festival”

アルバムのリリースに先駆けて公開されたトリオ編成によるスタジオ・ライブのテイクをチェックしてみると、近年デイズと活動を共にしてきたベーシストのロッコ・パラディーノ(Rocco Palladino)が果たしている役割の大きさも如実に伺える。3人のトリオとしてのアンサンブルはこの上なく魅力的だ。

トム・ミッシュ&ユセフ・デイズがロッコ・パラディーノをフィーチャーしたスタジオ・ライブ映像

サウンド面では、随所に聴かれる深いディレイやリヴァーブが、こうしたリズム上の浮遊感を強調している。演奏自体のタイトさと、それとは裏腹にどこかに漂いながら溶け出していくようなフィーリングの両立は、ふたりそれぞれの活動とは違う、今回のコラボならではの特徴ではないか。

 

生々しくパンチのある録音から際立つユセフ・デイズのドラミング

ほか、デイズのドラマーとしての存在感が際立っているのは、デイズ自身のプレイからにじむ個性はもちろん、シンプルだが生々しくパンチのある録り音によるところも大きそうだ。ドラムの録音はイーストボーンとロンドンの2箇所のスタジオで行われたが、後者での録音についてミッシュはこう語っている。

「ドラム・キットに2本のマイクを立てて録ったんだけど、本来ならもっとたくさんのマイクを使うところを、キック・ドラムに1本と、オーヴァーヘッドに1本という構成でやった。ミックスでは粗削りな音になっているけど、ドラムの音に思い切りオーヴァードライヴをかけてパンチを持たせるんだ。ユセフもミックスにはいろいろ意見を出してくれた」。

ドラム・キットに対して、たった2本のマイクでの録音。ちょっと驚く(オーヴァーヘッド、1本だけなのか……)。しかし、実際のサウンドと照らし合わせると納得がいく。すべてがこのセッティングかは定かでないが、“What Kinda Music”や“The Real”あたりの楽曲はたしかにそのように感じられる。ドラムはほぼモノラルでセンターに置かれ、そのまわりをキーボードやギターが取り囲む。まるでキットがひとつのかたまりとしてまっすぐに向かってくるようだ。本作のデイズのドラミングに聴き取れる渋みとケレン味が共存する感触は、こうしたアプローチからも生まれているのだろう。

『What Kinda Music』収録曲“What Kinda Music”