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K E I_H A Y A S H Iを育てたエレクトーンのレッスンと北海道の土壌

――まずは自身の音楽的なルーツについてお訊きします。地元・北海道でエレクトーンから音楽を始められたそうですね。しかも教室のレッスンはスパルタだったとか。

「そうなんです。当時はエレクトーン友達が20人ほどいて、辞めるのが難しい状況だったんですよ。気の迷いで〈辞めたい〉とか言うと、誰かから電話がきたりする(笑)。僕はコンクールで最弱で、先生から〈ワースト1〉と言われていました。でも変な運で勝ち進んじゃって、その頃の指導は特に厳しかったですね。

最近はアジアでもエレクトーンのコンクールが開催されてますが、あれは選曲から工夫しないと勝てないんです。オリジナルを作ったり、ジャズの名曲をアレンジしたり、大河ドラマの曲をメドレーでやってみたり。僕も当時は幅広い曲を弾いていました」

――歌はいつから?

「中学くらいの時にエレクトーン仲間とバンドを組むことになって、ベースを弾き始めたんです。その流れでコーラスやヴォーカルをやるようになって〈なかなか歌えるじゃん!〉と。それからベースを弾きながら歌うようになりましたね。

人前で初めて歌ったのは久保田利伸さんの“LA・LA・LA LOVE SONG”。あとはジャクソン5の“I Want You Back”などのソウルやディスコが多かったです。エレクトーンをやってる人はそういうのが好きなんですよ。コンクール疲れからファンキーで楽しい曲をやるみたいな(笑)」

――東京のジャズ・ミュージシャンには北海道の出身者が多いので、やはり北海道にはブラック・ミュージックの豊かな土壌があるのかなと感じました。

「あると思いますよ。とにかく北海道にいると、ジャズやクラシックなソウルをやっている人が多い。そういうセッションをやっている店もたくさんあるし、ジャクソン5を演奏しても全然浮きません(笑)。理由はわからないですけど、教育や環境はあるかもしれません。

例えば札幌にFM NORTH WAVEという、北海道の全土にR&Bをたくさん流すラジオ局があります。ここではSkoop On Somebodyさんがデビュー当時から番組を持っていて、小学校の時はそこから良い曲を知りました。

あとは夜中にひたすらクラシック・ソウルを流している時間があって。オンエア・リストを局のホームページで検索してからTSUTAYAやゲオにCDを借りに行ってましたよ」

 

自分の音楽をひとりでも聴いてくれたらハッピー

――なるほど。その後はどのようにスキルを磨いていったのですか?

「17歳、18歳の時は札幌で音楽の先生をしていました。アルバイトではありましたが、とにかく〈音楽で飯を食う〉とは決めていたんです。

僕は人に習いたいタイプなので19歳、20歳の頃は声楽の先生に習ったり、飛行機代と1時間2万円のレッスン代を握りしめて東京まで通っていた時期もありました。一生懸命バイトして、色々な先生に習うなかで基礎的な能力は付いていったかなと思います。

曲を作って仮歌を録音する機会も増えたので、それもスキル向上に役だったかもしれません。TV CMの曲もいくつか作らせてもらったんですけど、今聴いたら〈これでよく営業しにいったな〉というクォリティーでした(笑)。当時は無敵だと思ってたんですけど、東京だったら追い返されていたんじゃないですか」

――演奏の現場などの経験は?

「北海道の色々なところで演奏しました。結婚式やスーパーの野菜売り場、政治家の後援会、居酒屋さんとか、アウェイで演奏することが多かったです。そこで〈どうやったら人が聴いてくれるのか?〉と考えたことが今に生きているんですよ。それに慣れているから、自分の音楽をひとりでも聴いてくれたらそれでハッピーなんです(笑)」

――先日Zepp Sapporoで行われたライブ〈JFL presents LIVE FOR THE NEXT〉のオープニング・アクトのステージも拝見しました。いきなりスティーヴィー・ワンダーのカヴァーを披露されたことが印象的でしたが、あの度胸はそういった経験値からくるものだったのですね。

「あれだけ自分のことを見てくれる人がいるのは最高ですよ。あの時は地元でも僕のことを知らない人がまだまだ多いかなと思ったので、挨拶がてら自分のルーツであり一番尊敬しているアーティストの曲を思い切ってやりました。それが自信なのか勘違いなのかはわかりませんけど(笑)。

実はスティーヴィーと同じく自分も目に生まれつきの障がいがあって、しかも誕生日も彼と同じなんですよ。それは後から知ったんですけど、勝手にあやかって親しみを覚えてます。

誰かと自分を比べがちな思春期の閉塞感から僕を救ってくれたのは、スティーヴィーの“Do I Do”やSkoop On Somebodyさんの“誰かが君を想ってる””明日は明日”などの音楽でしたから。たとえ言葉の意味が分からなくても、彼らの音楽からは力をもらいました」

スティーヴィー・ワンダーの82年作『Stevie Wonder’s Original Musiquarium I』収録曲“Do I Do”

Skoop On Somebodyの2005年のシングル“誰かが君を想ってる”