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エモい歌と切ないメロディー、ちょっと情けない歌詞、そして眼鏡

さて。CSHの魅力がどこにあるかと訊かれたら、僕はまず真っ先にトレドのソングライティング、彼が書くメロディーだと答えたい。

たとえば、先述の『Twin Fantasy』。冒頭の“My Boy (Twin Fantasy)”のシンプルなメロディーには、どこか60sポップのようなタイムレスな輝きがある。それに続く13分強の大作“Beach Life-In-Death”は、トレドのエモい歌に心を鷲掴みにされるし、(ジャンルの)エモのマナーに則ったセンチメンタルなメロディーラインが実に切ない。

2018年作『Twin Fantasy』収録曲“My Boy (Twin Fantasy)”“Beach Life-In-Death”

60年代後半のビーチ・ボーイズのフラジャイルなきらめき、ペイヴメントやガイデッド・バイ・ヴォイシズのひねくれたポップさ、ゲット・アップ・キッズの切なさと青春感、ビルト・トゥ・スピルの遊び心――トレドが書く曲には、そんなものが詰め込まれている。だからこそ「僕の音楽は、いつも親密なものだと思う。ひとりのときに聴いたり、ヘッドフォンで聴くのに向いている曲が多いから」と彼自身が語るように、CSHの曲は聴き手の孤独に寄り添う親しみやすさがあるのだ。

それから、DIYな姿勢。CSHがここまでのし上がってきたキャリアは上に書いたとおりで、言うなれば彼は、アーティストとリスナーが直接交流できるようになったBandcamp時代における、新しいDIYスターだ。

歌詞にもぜひ注目してほしい。『Twin Fantasy』の“Cute Thing”の一節はこう。〈神様/僕にフランク・オーシャンの歌声をくれよ/ジェイムズ・ブラウンのステージ上の存在感も〉。〈なっ、情けなさすぎるっ!〉なんて叫びたくなってしまうけれど、思わずにやりとしてしまう。

2018年作『Twin Fantasy』収録曲“Cute Thing”

トレドのトレードマークである眼鏡にも注目したい。見た目で音楽の評価が変わることなんて、もちろんない。けれど、(失礼ながら)いかにもナード然とした彼の出で立ちからは、エルヴィス・コステロ→ウィーザーのリヴァース・クオモ→そしてカー・シート・ヘッドレストのウィル・トレド、という眼鏡ロックンローラーの系譜を描きたくなってしまうのだ。「見ての通り、僕はウェイト・トレーニングから程遠い人間なので」なんてトレドは自虐しているけれど、〈ナードで、どこか頼りなげなロックンローラーこそが最高なんじゃないか!〉と僕は思う。

Car Seat Headrest

出展:Wikipedia