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〈これまで売れなかった〉という事実に向き合う

――新作『travel intermediate』はここ1、2年ほどの気持ちの流れが結晶化した作品というわけですね。

「前作『CELEBRATION』を3年前に出してから、1年ぐらい活動休止期間に入ったんですが、今回収録した曲はその3年間にまんべんなく作ったもので、そのうち活動再開以降に作った曲は1/3ぐらい。アルバムに内包されている時間軸はけっこう長いんです」

――タイトルに込められた意味をお伺いしたいのですが。

「もちろん自由に受け取ってもらえればいいんですが、自分のイメージとしては、〈旅行の中級者〉ってニュアンスなんですよ。それはちょっとひねりを加えた訳し方でもあるんですけどね。ストレートに〈旅の途中〉という意味に捉えてくれてもいいですし。〈ジャーニー〉というよりは〈トラヴェル〉が僕の考えるイメージに近くて。

アルバムの最後に入っている“travel forbidden”はマスタリングもすべて終わり、明日には完成だ、って段階でヴォイスメモに録った曲で、コードと歌詞だけ決めてから語るように録りました。歌詞はこの現状について描いたものです。ちょうど4月のはじめぐらいに出来たのか。ああこれでもう当分は旅行に行けないな、って思いが滲み出ている(笑)」

『travel intermediate』収録曲“travel forbidden”
 

――シングルにもなった“君が踊り続けられるように”からこの曲につながる構成がとにかく良いなって。“君が踊り続けられるように”で描かれていた光景が、実はデジャヴであったかのような感覚を与えてくれるんですよね。

「確かに作り終わったとき、“君が踊り続けられるように”で締め括るのはあまり良くないかも、って思いがあったんです。この曲って2019年3月、活動休止が明けることを告げるのと同時にリリースしたものだったんですが、アルバム全体の調和からどこか外れている感覚が僕にはあって。この曲だけを最後に無理矢理付け足したような感じもあったし、もう1曲足すことでまとまりが出るかもしれないという狙いはありました」

――これまでにないようなビターで穏やかな余韻を与える歌と優しく温かなサウンドに包まれた“君が踊り続けられるように”は、シンガー・ソングライター、よしむらひらくの成熟ぶりを伝える曲だと思います。

『travel intermediate』収録曲“君が踊り続けられるように”
 

「曲作りの変化に関しては、僕自身がこれまでやってきたことに飽きていることも少しあったし、これからは新しいことを意識してやりたい、って気持ちは、活動再開のときの強い決心としてあったんです。あのときは、それまでの方法でやれることはやりきったという実感があったし、これ以上先に進めないだろうな、とも思っていました。もともと、やったことのない未知のものに手を出すのがすごく苦手なんですが、そうも言ってられないし、一から考え直してみようという思いが“君が踊り続けられるように”を作る原動力になった。何よりもあのときは、〈これまで売れなかった〉という事実が人生全体に圧し掛かっていたんですよ。それに対して自分がどういう態度を取るべきか、って大きなテーマを無視せず主眼に置きながら、アルバム作りを始めたところがありますね」

――それはなかなかシビアな認識ですね。

「歌自体は、デビュー前後の22、23歳からそんなに変わってないと思うんですけど、その頃は、俺の歌ってすごくいいだろ?って自信満々だったんです。それが良くない方向に働いていたのかなっていまは思う(笑)。きっと自分の意識が、良くないこんがらがり方をしてたんでしょうね。そういうのって如実に歌に表れるから。その頃のライブ音源を聴いても、コイツムカつくわぁ、って思うことが多い。自意識の表れとしての声っていうことでいえば、自分で自分の声を聴いて気分が悪くなるんです。ある程度早い段階で完成したつもりになっていたからこそ、そこからの変化を楽しめなかったし。早い段階からまっすぐに鍛錬を積んでいれば、自分自身も聴き返して楽しめる気持ちのいいものになったんじゃないかと思いますね」