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台湾のライブハウスはどうなっている?

ここまで書いてきたように、台湾の音楽業界は、平静さを取り戻している。その背景には、まず台湾政府の徹底した防疫対策がある。「台湾政府の対応はベストではない。けれどベストは尽くした」とJohnも言っていた。先日、集会への人数制限もが撤廃されたようで、今後はライブやフェスの再開だって期待できるだろう。

大打撃を受けているはずのライブハウスも、そのいくつかは元から副収入や企業のスポンサリングを確保しているおかげで、大きな難を逃れているという。それでも、イベントのオーガナイザーやライブハウスのオーナーなどは居所的に大きな打撃を受けており、業界全体の傾向はマイナスであることに変わりはないのだろうが、台湾政府は文化芸術分野への緊急支援策を打ち出し、多くのアーティストに対して最低限の生活が維持できるほどの額の補助金が給付された。現在では既に第2回目の給付への申請が可能になっているという。

 

台湾から日本への眼差し

こう書くと〈台湾はなんて素晴らしい国なんだ!〉と思えてくる人もいるだろうし、実際素晴らしいと思うのだが、台湾人からしてみるとニッチなジャンルすらも支えるほどに成熟している日本のマーケットや、新型コロナウイルス感染拡大防止のため営業停止を行う文化施設に助成金交付を求める活動〈Save Our Space〉のような運動が民間レヴェルで発起され、多くの著名アーティストが賛同し、ジャンルや世代を超えた大きなうねりへと瞬く間に発展していった様には心が動かされたようだ。

コロナ禍に翻弄される日本を端から見ていて、台湾人も思うところはいろいろあるかと思うのだが、それでも、僕の知り合いたちはみな、日本の状況が良くなるのを心から願ってくれているし、「早く日本でライブを観たり、レコード屋に行ったりしたい」という声が多く聞かれた。

日本の音楽業界を気にかけているInfongも、日本全国のライブハウスを支援すべく立ち上がった〈MUSIC UNITES AGAINST COVID-19〉への参加を表明していたし、今年の〈フジロック〉への出演も決定していた人気マス・ロック・バンド、Elephant Gymとその所属レーベルWORDS Recordingsは日本の音楽業界を支援するプロジェクトを展開している

事実として、台湾の音楽愛好家には日本好きが多い。このような動きを目の当たりにすると、もはや日本の音楽業界は日本人だけのものではないのかもしれない、とも思えてくるし、その気持ちに応えられるように、僕たちもこの国の文化芸術を守るべく、不断の努力を心がけていきたい。

台北のライブハウス、THE WALLで5月15日に開催された自主企画イベント〈扶土成牆〉の様子。もともと4月に予定されていたものの、コロナで中止となっていた。〈人数制限・実名入場検疫規制有り〉での開催。THE WALLとしては44日ぶりのイベントとなった

 


取材協力
陳瑞凱/陳延碩/林奕碩(百合花)/John Huang(WWWWWtapes)/Zooey Hsieh(WWWWWtapes)/林于農(仙樂隊 SEN)/Yu-Ping Lin(仙樂隊 SEN)/劉棕予/Janna/Spykee 

 


PROFILE: 関 俊行
ミュージシャン/プロデューサー/ライター。MIDI Creativeにて自身のアルバムをこれまでに2枚リリースする。近年は、「ミュージック・マガジン」2020年4月号の特集〈台湾音楽の30年〉への寄稿や、Taiwan Beatsへの参画など台湾の音楽を積極的に発信している。